てなずけたポメラニアンはSubで鬼上司でした

有村千代

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第4話 甘酸っぱいデートと波乱(5)★


「どうした、何をそんなに緊張している? 初めてでもないのに」
「そう、なんすけど」
「……ひとまずビールでも飲むか。確か、冷えてるのがあったはずだ」
「いや、そのっ」

 キッチンへ向かおうとする犬飼を引きとめるように、羽柴は声をかける。深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、意を決してコマンドを発した。

Comeおいで

 両手を差し出せば、犬飼はすぐさま反応を示す。いつものように羽柴の膝上に跨って、そのままちょこんと座ってみせた。

「大丈夫。ありがとう、蓮也」

 そう言って頭を撫でてやると、揺れる瞳とかち合う。

 変に意識しているさまなんて、見せたくなかったけれど、本当は早く触れ合いたくて仕方がなかった。己の格好のつかなさを反省しつつも、羽柴は犬飼の腰に手を回し、ぐっと引き寄せる。

「ぁ、羽柴」

 犬飼が戸惑いの声を上げたのも束の間、羽柴はその首筋に顔を埋めた。
 すんと鼻を鳴らすと、香水よりも甘い香りが鼻腔をくすぐる。Sub特有のフェロモン――それを胸いっぱいに吸い込むだけで、頭がくらくらとするようだった。

「ん……蓮也、すごくいい匂いする」
「おい、馬鹿……あまり嗅ぐな。さっき言っただろ、汗をかいていると」
Sh静かに――」
「っ!」

 遮るようにコマンドを口にすれば、犬飼は途端に大人しくなる。その隙にと、羽柴は相手の首筋に唇を這わせた。

「ちゃんと静かにできてえらいね、お利口さんだ」
「あ、っ……」

 小さく上がる声に気をよくして、慈しむように口づけを落としていく。
 男の生理現象というものは正直だ。下腹部に当たる硬い感触に、羽柴は内心でほくそ笑んだ。

(犬飼さんが気持ちよくなってくれるの、嬉しい……もっとぐずぐずにしちゃいたい) 

 頭、うなじ、背中……と体中を撫でまわしながら、「いい子」と誉め言葉を繰り返す。
 次第に辛抱ならなくなったのか、犬飼がやんわりと身を離した。

「ま、待ってくれ……スラックスを、汚したくない」

 言って、恥ずかしそうに目を伏せる。犬飼のものはすっかり勃ち上がっていて、スラックスの中で窮屈そうにしていた。
「楽な格好に着替えてきていい」と羽柴は返そうとしたが、ふと犬飼が視線を戻して、何か言いたげに見上げてくる。その瞳はすっかり蕩けきっており、唇が半開きになっていた。

「その――コマンドで、命じてくれないか?」

 消え入りそうな声で紡がれた言葉に、羽柴は大きく目を見開く。

 期待に応えてやりたいのは山々だが、本当にそのようなコマンドを使ってもいいのだろうか。
 心中の葛藤をよそに、犬飼は熱っぽい吐息を漏らしている。羽柴は喉仏を大きく上下させ、犬飼の耳元に唇を寄せた。

「蓮也、Strip服を脱いで

 初めて口にするコマンドに、心が躍るようだった。

 犬飼は体を横にずらして、膝の上から降りると、緩やかな動作でベルトに手をかける。
 カチャカチャという、やけに響く金属音。それからスラックスの前をくつろげて、脚を抜くまであっという間だった。

 Yシャツの下から覗く下着は、すでに先走りで染みが出来ている。それを隠すように股をもじもじとさせる仕草といったら、あまりにいじらしく、羽柴の理性をぐらつかせるには十分すぎた。

「羽柴、脱いだぞ……?」

 黙り込んでいる羽柴を不審に思ったのか、犬飼が不安げに見上げてくる。羽柴は遅れて声をかけた。

「よくできました、Good boyいい子

 頬を撫でつけると、犬飼はその手に触れながら、ふにゃりと笑ってみせる。
 サブスペースに入っているのか、上司としての顔は、もうどこにも見受けられなかった。自ら頬を擦り合わせたあと、赤い舌をちろりと覗かせたかと思えば、あろうことか羽柴の指先を舐め上げてくる。
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