ゲイ卒したいのに、何故かスパダリセフレに溺愛&求婚されてます!

有村千代

文字の大きさ
27 / 122

第4話 恋に落ちたあの日のこと(7)

しおりを挟む
 侑人は何か言いたげに口を開きかけたが、結局何も言わずに俯いてしまった。
 その反応だけで答えは明白だ。やはりまだ本城のことが忘れられず、傷ついているに違いない。こんな状態で、下手に手出しなどされたくなかった。

(だって、こいつのことは俺が――)

 俺が、なんだというのだろう。
 赤の他人とまではいかないが、一度寝ただけの存在にすぎないというのに。それ以上言葉が出てこなくて、高山はただ黙って相手を見つめることしかできなかった。

 二人の間にしばしの沈黙が訪れる。静寂を破ったのは、侑人の深いため息だった。

「そんなことよか体痛いし。まずそっちの心配すんだろ。あんだけ激しくヤッといて、なんだよその態度……ムカつく」
「いや、『ムカつく』ってお前な」

 思わず言い返そうとしたが、先に侑人が何か胸元に押し付けてきた。ズボンのポケットから取り出したらしいそれは、温かい缶コーヒーだった。

「き、昨日のお礼っ」
「は?」
「一応渡せたらと思って、さっき買って……でもクラスわかんなかったし、ちょうど会えてよかったっつーか」

 言って、そっぽを向いてしまう。心なしか耳が赤くなっているように見えた。もしかしたら、先ほどの悪態は照れ隠しもあったのかもしれない。
 高山は呆気に取られながらも、とりあえず缶コーヒーを受け取る。礼を言えば、侑人はこちらを見やって気恥ずかしげに頷いてみせた。

「迷惑とか、心配……かけてごめん。でも高山先輩が……くれたから、俺……」

 後半は上手く聞き取れなかった。いや、きちんと言葉にされたかも怪しい。
 侑人は慌ただしく踵を返し、挨拶もなしに校舎へと戻ろうとする。

「おい、瀬名」

 呼びかけると、侑人が足を止めて振り返った。が、舌先をべーっと出しただけで、あっという間に走り去ってしまう。
 その子供っぽい仕草に、自然と高山の頬が緩んだ。どこまでも不器用で、一つ一つの言動が可愛らしく思えてならない。

(なんで、そう俺に気を許しちまったんだか)

 いつもより少し速い鼓動を感じながら、高山は壁に背を預ける。

 そんなふうに懐かれたら悪い気などしない。相手のことを守ってやりたいだとか、独占したいだとか、自分の中にあった感情をあらためて自覚してしまう。
 もう「どうして?」とは思わなかった。これを何と呼ベばいいのかなんて――答えは一つしかない。

「甘っ……微糖かよ」

 プルタブを開けて缶コーヒーを傾けると、苦みと甘さが口いっぱいに広がった。なんだか今の自分の心情を表しているようで苦笑してしまう。

(あーやばいな、誰かを好きになるって。相手からしたら、俺のことなんて眼中にないってのに……)

 さて、これからどうしたものか。とりあえずは放課後にでも連絡先を交換しようか――そのようなことを考えながらコーヒーを飲み干し、空き缶をゴミ箱に放り込んだのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

処理中です...