ゲイ卒したいのに、何故かスパダリセフレに溺愛&求婚されてます!

有村千代

文字の大きさ
54 / 122

第8話 突然のカミングアウト(5)

しおりを挟む
 
 
 


 次に目を覚ましたとき、侑人は自宅のベッドに寝かされていた。
 いつどうやって帰ってきたのかまるで記憶がないが、ベッド脇には高山が付き添ってくれていて、ほっと胸を撫で下ろす。

「高山さん――」
「大丈夫か、侑人」
「大丈夫。……高山さんの顔見たら、なんか安心した」

 体はアルコールのせいで怠かったものの、気分はいくらかマシになっていた。眩暈も治まっているし、吐き気もない。
 上半身を起こしてみれば、ばつが悪そうにしている恭介の姿があった。こちらと目が合うなり、恭介はおずおずと口を開く。

「悪かったな、侑人」

 言って、すぐに視線を落としてしまう。次に言葉を発したのは高山だった。

「言わなくてもわかるだろうが、お前の兄貴が連れ帰ってきてくれたんだ。俺はそんな事態になってるとは知らなかったからな」
「………………」

 恭介は心底反省している様子で、表情を暗くさせている。
 普段は見ることのない姿に、侑人は胸が痛むのを感じた。あのような店に誘ったのは、思惑があってこそだろうが、それでも悪気がないのはわかっている。言ってしまえば、価値観の違いなのだから仕方のないことだ。

 侑人は恭介の方に向き直り、静かに言った。

「兄さん。その、あらためて少し話がしたいんだけど」
「……ああ、わかった」

 神妙な面持ちで恭介が頷く。それを受けて、高山が人知れず席を外そうとしていた。

「あ、高山さんは」
「いいよ。ベランダで一服してるから、終わったら声かけてくれ」

 言うと、煙草の箱を手にして部屋から出ていく。
 二人きりになったところで、恭介がベッドの縁に座って口を開いた。その声色は重く沈んでいた。

「体はもういいのか?」
「うん、ちょっと気分が悪くなっただけだから。家まで送ってもらえて助かったよ、ありがとう」
「……お前が倒れたときはかなり焦った。危うく心臓が止まるかと思ったくらいだ」
「え、そんな大げさな」
「本当にすまなかった。俺がキャバなんて連れて行ったから――お前のこと、少しも理解しようともせずに……」

 しきりに謝罪の言葉を述べてくる恭介。侑人はそんな兄を安心させるように微笑んでみせた。

「いいって、俺を思ってのことだってわかってる。でも、正直プレッシャーに感じたし、妻子持ちのくせにキャバ通ってるのもどうかと思うけど」
「い、いやべつに嬢のこと狙ってるわけじゃねーしっ。あくまでも日頃のストレス発散というか……こう見えて奥さん一筋だし!?」
「とか言って、金使いも荒いくせに。今日のぶんは割り勘でいいからね」
「うっ……」

 冗談めかして言えば、恭介が慌てて弁解してきたので思わず笑ってしまった。恭介も緊張の糸が切れたのか、二人の間に漂う空気が少しだけ和らぐ。
 もう互いに反発しあうような雰囲気でもない。侑人は笑顔を浮かべたまま、ぽつりぽつりと語り始めた。

「……あのさ。俺だって、『なんで男が好きなんだろう』ってさんざん悩んだよ。将来を考えると不安で、ゲイなんてやめて婚活しようと思った時期もあった。それでもやっぱり駄目でさ……俺が好きなのはどうしたって男だし、もっと言えば高山さんだった。高山さんはありのままの俺を好きになってくれて、いつだって寄り添ってくれて――この人しかいないと思ったんだ」

 恭介は静かに耳を傾けていた。侑人はさらに続ける。

「きっとすぐには受け入れられないだろうし、俺たちのこと認められなくたっていい。……ただ、あまり心配はかけたくないから。ちゃんとパートナーがいるんだってことは知っておいてほしい、かな」

 そこまで言うと、恭介は「そうか」と重々しく口を開いた。

「だけど実際問題、男二人でこの先もやっていけると思ってんのか? 苦労するのは目に見えてるだろ」
「そりゃあ、先のことはわからないけど……覚悟決めてるし。なにより俺は、俺が好きになった人のことを信じてるから」

 侑人は迷いなく告げる。先日は伝えられなかった思いを、真っ直ぐにぶつけてみせる。
 長い沈黙の果てに、やがて恭介は観念したかのように頭を掻いた。その表情はひどく優しく、そして少し寂しげだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...