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第8話 突然のカミングアウト(4)
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それから数日後。侑人は恭介に連絡を取り、話し合いの日取りを決めた。
酒でも飲み交わしながら、と金曜日の夜に会う約束を取り付ける。が、それがさらなる事態を招くことになろうとは、このときの侑人は知る由もなかった。
「素敵なお客様からヴーヴ・クリコいただきました! ありがとうございますッ!」
活気のいい黒服のボーイがそう宣言し、シャンパンのボトルを開ける。ポンッという小気味よい音が響き渡るとともに、美しく着飾った女性らが「ありがとうございまーす!」とにこやかに礼を告げた。
(してやられたっ!)
侑人は内心で舌打ちをする。
「金は気にしなくていいから」と、恭介に連れてこられた先はキャバクラだった。煌びやかな照明に照らされた店内には、黒や赤を基調としたシックな調度品が並び、ソファーやテーブルなどの家具も高級感を漂わせている。
侑人だって接待で来たことはあれど、あくまで仕事の延長だし、なんだか場違いのような気がしてならない。こういった店は正直苦手だ。
「ねえ、記念写真撮りません?」
グラスにシャンパンが注がれ、嬢がスマートフォンを手にしながら言った。「いいよ、撮ろう撮ろう!」と恭介は上機嫌である。
(こんなんじゃ話なんてできっこないし、激しく帰りたい……)
心底そう思うも、もちろん口には出せない。侑人は営業スマイルで応えた。
それぞれ一人ずつ嬢が付いており、四人で写真撮影したのちに「乾杯!」とグラスを合わせる。
恭介は本指名を入れた嬢と楽しそうに会話を交わし、その隣で侑人はちびちびとシャンパンを飲んだ。こちらに付いた嬢は、さりげなくテンションを合わせてくれているようで、それがありがたくも申し訳なくもある。
特に指名せずにフリーで入店したので、嬢は十五分間隔で入れ替わった。恭介は新しくドリンクを注文しながら、小声で耳打ちしてくる。
「お前はどの子がタイプ?」
「はあ? 確かにみんな美人で可愛いとは思うけど、そういうのはちょっと……」
「なんだよノリ悪いな。酒が足りてないのか?」
「いや、だから」
「侑人も気に入った子がいたら言えよ? ちゃんと俺が指名してやるからさ」
(そういうこと、か)
その恭介の口ぶりで気づいてしまった。おそらくは、異性に目を向けてほしいという狙いがあるのだろう。
侑人にしたって嘘はついていない。嬢はみなスタイルが抜群で顔立ちも整っているし、何より雰囲気が色っぽくて、同性とは違った魅力があると思う。
ただ、どうしたってそれまでなのだ。自ら進んで目を向ける努力もしてみたけれど、やはり性的対象にはなりえないのだと、ここ半年で思い知らされてしまった。他人には理解できないだろうが、駄目なものは駄目なのである。
(うっ、なんか気分が……)
まだそこまで飲んでいないつもりだが、自分がどう思われているのかと思考を巡らすうちに、気分がすぐれなくなってきた。視界がふらついて、平静を保っているのがやっとになる。
「すみません、ちょっとトイレに」
そう言うと、嬢が「ご案内お願いします」とボーイに声をかけてくれて、そのままトイレに案内されることになった。
ひとまず手洗い場で冷水を顔に浴びせ、気分を入れ替えようとする。
鏡に映った顔はどこか血色が悪い。少し休んでから戻ろうと思ったところで、不意にスマートフォンが震えた。
(……高山さんからだ)
確認してみれば、高山からのメッセージだった。
「大丈夫か?」という気遣いの言葉から始まり、恭介との話し合いはどう進んだか尋ねられる。いざとなったら自分が話すとも、侑人の部屋で帰りを待っているとも言ってくれていた。
頼れる恋人からの厚意に、侑人は胸がいっぱいになる。
けれども具合は悪くなる一方で、返事を打つ気力が湧かなかった。仕舞いには眩暈に襲われ、力なく床にしゃがみ込んでしまう。
(あ……まずい、かも……これ――)
意識が遠のいていく。まずいと思ったときにはすでに遅く、侑人はその場に倒れ込んでしまったのだった。
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