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第8話 突然のカミングアウト(3)
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侑人は二人の間に割って入ると、とにかく場を取りなそうと口を開く。
「兄さん、頼むからちょっと落ち着いて。話ならいくらでも聞くからっ」
「――……」
恭介は高山を睨み据えていたが、やがて諦めたように深いため息をついた。
少しずつ冷静さを取り戻してきたのだろう。しばしの間を置いて、神妙な面持ちで口を開く。
「侑人、本当にこの男が好きなのか?」
それはどこか切実な響きを持っていて、侑人はほんの少し言葉に詰まる。だが、しっかりと頷いてみせた。
「うん……好きだよ」
すると、恭介の目つきが鋭いものに変わった。
「つまりはなんだ? お前、ホモだったのかよ?」
声を落とす恭介。その一言だけで、場の空気が一気に重くなった気がした。
「軽蔑した?」
「べつに。今どき珍しいもんでもねーし……ただ、身内ってなると話は変わるだろ。親には言ってあるのか?」
侑人は首を横に振る。カミングアウトなど、今までしようとも思わなかった。
対する恭介は眉間に皺を寄せ、しばらく考え込む素振りをしてから言い放った。
「うちの親のことだから、『とっとと婿養子になりなさい』とか言いやがりそうだな。――この際、俺がはっきり言う。お前の将来考えたらどうかと思うぞ」
その言葉を聞いて、高山が「待ってくださいよ」と口を挟む。が、棘のある物言いでぴしゃりと撥ねつけられてしまった。
「部外者は黙ってろよ。これは家族の問題だ」
そして、今度は諭すようにこちらを見つめてくる。
「いいか、侑人? 今は楽しいかもしれない。でも、いつかきっと後悔するときがくる。……ちゃんと考えろよ。人生一度きりなんだし、もうお前だって遊びで付き合うような歳でもないだろ?」
現実を突きつけられた気分だった。ここずっと年甲斐もなく浮かれていただけに、ひどくショックを受けている侑人がいた。
こちらと違ってとっくに所帯を持っていることだし、恭介の言葉には重みがある。ただ、だからと言って受け入れられるはずもなかった。
「高山さんのこと何も知らないくせに。俺たちは遊びなんかで付き合ってない」
「将来のことも考えてる、って言えんのかよ? 一時の感情じゃなくて?」
「兄さんにとやかく言われなくても、自分のことは責任もって自分で決めるよ。俺だって自立してるし、子供じゃないんだから」
売り言葉に買い言葉で、つい語気が荒くなってしまう。
恭介は眉間の皺を深くさせて立ち上がった。何を思ったのか、そのまま玄関の方へと足を向ける。
「言っておくが、俺はお前が心配で言ってるだけだからな」
捨て台詞のようにそう言い残すと、足早に出ていってしまった。制止の声も届かず、玄関ドアの閉まる音が虚しく響く。
嵐のような出来事に、侑人はただ呆然とするしかなかった。高山が申し訳なさそうにこちらを見やって、そっと手を握ってくる。
「すまなかった。何の心構えもできないまま、カミングアウトさせちまって」
「ああいや、こっちこそ。自分のことなのに上手く言い出せなくて」
「……俺との関係、本当は隠しておきたかったんじゃないのか」
「そうかもしんない、けど。俺は高山さんとずっと一緒にいたいし、あんたの気持ちとも対等に向き合いたい――今ではそう思えるようになったから」
「侑人……」
「兄さんとはまた日を改めて話すよ。今日はお互いアレだったけど、俺のこと考えてくれているのはわかるし……だからこそ話さないと」
高山のことを真っ直ぐ見つめ返し、正直な気持ちを言葉にしてみせる。高山は表情を和らげると、やんわりと体を抱きしめてくれた。
「ありがとな。ただ、無理だけはするなよ」
「ん、わかってる。これでも兄弟仲はいいから心配しないで」
侑人は小さく頷いて、高山の背に腕を回す。
胸がざわついてたまらなかったけれど、高山がいれば、不思議と恐れるものなんてないように思えた。
「兄さん、頼むからちょっと落ち着いて。話ならいくらでも聞くからっ」
「――……」
恭介は高山を睨み据えていたが、やがて諦めたように深いため息をついた。
少しずつ冷静さを取り戻してきたのだろう。しばしの間を置いて、神妙な面持ちで口を開く。
「侑人、本当にこの男が好きなのか?」
それはどこか切実な響きを持っていて、侑人はほんの少し言葉に詰まる。だが、しっかりと頷いてみせた。
「うん……好きだよ」
すると、恭介の目つきが鋭いものに変わった。
「つまりはなんだ? お前、ホモだったのかよ?」
声を落とす恭介。その一言だけで、場の空気が一気に重くなった気がした。
「軽蔑した?」
「べつに。今どき珍しいもんでもねーし……ただ、身内ってなると話は変わるだろ。親には言ってあるのか?」
侑人は首を横に振る。カミングアウトなど、今までしようとも思わなかった。
対する恭介は眉間に皺を寄せ、しばらく考え込む素振りをしてから言い放った。
「うちの親のことだから、『とっとと婿養子になりなさい』とか言いやがりそうだな。――この際、俺がはっきり言う。お前の将来考えたらどうかと思うぞ」
その言葉を聞いて、高山が「待ってくださいよ」と口を挟む。が、棘のある物言いでぴしゃりと撥ねつけられてしまった。
「部外者は黙ってろよ。これは家族の問題だ」
そして、今度は諭すようにこちらを見つめてくる。
「いいか、侑人? 今は楽しいかもしれない。でも、いつかきっと後悔するときがくる。……ちゃんと考えろよ。人生一度きりなんだし、もうお前だって遊びで付き合うような歳でもないだろ?」
現実を突きつけられた気分だった。ここずっと年甲斐もなく浮かれていただけに、ひどくショックを受けている侑人がいた。
こちらと違ってとっくに所帯を持っていることだし、恭介の言葉には重みがある。ただ、だからと言って受け入れられるはずもなかった。
「高山さんのこと何も知らないくせに。俺たちは遊びなんかで付き合ってない」
「将来のことも考えてる、って言えんのかよ? 一時の感情じゃなくて?」
「兄さんにとやかく言われなくても、自分のことは責任もって自分で決めるよ。俺だって自立してるし、子供じゃないんだから」
売り言葉に買い言葉で、つい語気が荒くなってしまう。
恭介は眉間の皺を深くさせて立ち上がった。何を思ったのか、そのまま玄関の方へと足を向ける。
「言っておくが、俺はお前が心配で言ってるだけだからな」
捨て台詞のようにそう言い残すと、足早に出ていってしまった。制止の声も届かず、玄関ドアの閉まる音が虚しく響く。
嵐のような出来事に、侑人はただ呆然とするしかなかった。高山が申し訳なさそうにこちらを見やって、そっと手を握ってくる。
「すまなかった。何の心構えもできないまま、カミングアウトさせちまって」
「ああいや、こっちこそ。自分のことなのに上手く言い出せなくて」
「……俺との関係、本当は隠しておきたかったんじゃないのか」
「そうかもしんない、けど。俺は高山さんとずっと一緒にいたいし、あんたの気持ちとも対等に向き合いたい――今ではそう思えるようになったから」
「侑人……」
「兄さんとはまた日を改めて話すよ。今日はお互いアレだったけど、俺のこと考えてくれているのはわかるし……だからこそ話さないと」
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「ありがとな。ただ、無理だけはするなよ」
「ん、わかってる。これでも兄弟仲はいいから心配しないで」
侑人は小さく頷いて、高山の背に腕を回す。
胸がざわついてたまらなかったけれど、高山がいれば、不思議と恐れるものなんてないように思えた。
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