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第8話 突然のカミングアウト(2)
しおりを挟む「で? 何しにきたんだよ、兄さんは」
一悶着あったのち、コーヒーカップを片手に侑人は問いかけた。
現在は三人でテーブルを囲んでいる状況である。恭介は不機嫌さを隠しもせず、ふんと鼻を鳴らした。
「……娘に」
「うん?」
「『今日お友達が来るから、パパはお外いって!』って言われた」
ああ、とすぐに察しがつく。
恭介には小学三年生の娘がいるのだが、変化が見られる年頃ともあって手を焼いているのだろう。が、それとこれとは話が別だ。
「だからって連絡くらいしてくれてもいいだろ? 兄弟とはいえ、こっちも都合があるんだから」
「都合って? 一体、この男は何なんだ」
高山を顎で指し示して、恭介は訝しげな表情を浮かべる。
「どうしてお前はあんな格好で寝てたんだ? まさかとは思うが、男同士で妙な関係だったりしないよな?」
「た、高山さんは高校時代の先輩で……それで、その」
弁解を試みるも恭介の表情は険しくなるばかりで、そこから先がなかなか続かない。
侑人は視線をさまよわせる。どう言ったらいいものか考えあぐねていると、隣にいた高山が口を開いたのだった。
「俺たち、付き合ってます」
「高山さんっ!?」
一瞬、時が止まったかのように思えた。
恭介は目を丸くし、侑人は顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。しかし、高山はいたって真面目な様子で言葉を続けた。
「驚かせてすみません。でも、俺は本気です」
そして、侑人の肩を抱くようにして引き寄せる。
恭介はしばらく呆然としていたが、やがて我に返ったように声を荒らげた。
「貴様あっ! よくも可愛い弟を!」
「おいやめろよ! つーか、言い寄ったの俺だから! 高山さんは何も悪くないっ!」
高山の胸倉に掴みかかろうとする恭介を、侑人が必死になって止める。恭介は納得がいかないとばかりに顔をしかめた。
「お前もお前だ! どこの馬の骨とも知れない野郎に――え? 今、なんつった?」
「だから、先に言い寄ったのは俺なんだってば。高山さんは何も悪くないし、責めるなら俺を責めろよ」
半ば自棄になって繰り返せば、途端に恭介が項垂れた。ダンッと勢いよくテーブルを叩いて、そのまま顔を伏せてしまう。
「嘘だろ……俺の侑人に何があったんだ? まさか、自ら《傷もの》になるだなんて……そんな馬鹿なっ」
「いや、言い方」
事実ではあるのだが、もう少し言い方というものがあるだろう。
しかし、恭介は心底ショックを受けているようで聞いてはいない。それどころか肩を震わせながらブツブツと呟き始めたので、さすがに心配になってきた。
昔からこうなのである。恭介の侑人に対する溺愛っぷりは度を越しており、少々過保護なきらいがあるのだ。成人して自立もしているというのに、ほとほと参ってしまう。
「なんつーか、侑人の性格ってこの兄ありきな気がしてきたな」
兄弟のやり取りを静観していた高山が呟く。
「は?」
「構われ倒されて嫌になった猫……みたいなの、あることないか?」
「なっ! 高山さんは、俺のこと何だと思ってんだよ!」
「でも最近は、素直に甘えてくることも増えて嬉しいけどな」
「高山さん……」
穏やかな笑みを向けられて、侑人は胸の内がきゅんとした。
「おいコラ! 勝手に二人の世界作ってイチャつくんじゃねえよ! 人の弟たぶらかしやがって、こいつッ!」
かと思えば、次の瞬間には恭介が怒涛のごとくまくし立ててくる。何だかんだ聞いていたのか、わが兄ながら扱いに困ったものである。
「まあまあ。お義兄さん、ひとまず落ち着いてくださいよ」
「誰が『お義兄さん』だ! そんなふうに呼ばれる筋合いはねえ!」
高山が苦笑を浮かべて宥めようとするも、逆に火に油を注いでしまったらしい。恭介はヒートアップしていくばかりで、今にも掴みかかりそうな勢いだ。
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