恋に臆病な僕らのリスタート ~傷心を癒してくれたのはウリ専の男でした~

有村千代

文字の大きさ
21 / 46

第4話 加速する疑似恋愛(2)

しおりを挟む



 その日のシフトを終えて、帰宅途中。買い物ついでに繁華街をぶらついていると、偶然にも見知った顔を見つけた。
(あ、隆之さん――)
 仕事で接待をしていたのだろう。タクシーを前に、スーツ姿の男二人と話し込んでいる様子だった。
 やがて先方を送り出して一人になったところで、ナツは背後から近づいていった。
「だーれだっ?」
 ぎゅうっと抱きつくようにして目隠しをする。当然、隆之は驚いたように肩を跳ねさせた。
「なっ、ナツ……!?」
「ピンポンピンポーン! せいかーい!」
 振り返ってこちらを見た瞬間に、パッと手を離す。それからニコニコと笑顔を返した。
「びっくりした。心臓が止まるかと思った……」隆之が胸を抑える。
「アハハッ! 久々に会えたのが嬉しくって、ついイタズラしちった」
 隆之はどうにも繁忙期――秋はイベント業務が多いらしい――とのことで、こうして会うのは久しぶりだった。
 ナツは何気ない動作で隆之の腕に絡みついてみせる。と、そこで彼の匂いが普段と違うことに気づいた。
「おっ、隆之さんから女の人の匂いがするや」
 言うと、隆之はあからさまに顔を強張らせた。
「へーえ、隆之さんもキャバとか行くんだ? 綺麗なお姉さんいた?」
「……単なる接待だ。じゃなきゃ、絶対に行かない」
「ウリ専には行くのに?」
「それは君がいるからだろ」
 隆之がムッとしたように返す。思わぬ反撃をくらってしまい、ナツは頬が熱くなるのを感じた。
(こういったとこ、ズリぃよなあ……)
 甘ったるい言葉は決して言わないものの、ふとした拍子に隆之は直球の言葉をぶつけてくる。それが、心からのものだとわかるから余計にクるものがあるのだ。
「アハッ、いつもありがと! すげー嬉しいっ」
 対して、こちらの言葉のなんと薄っぺらいことか。
 本心を言っても、『××』の気持ちは届かない――すべてボーイである『ナツ』としての言葉になってしまうし、何もかもが営業のように思えてしまうのだ。きっと隆之にしたって、リップサービスの一つだと思っているに違いない。
 少しだけ虚しさを感じながらも、ナツはそっと隆之から身を離した。
「っと、お仕事忙しいのに引き留めてごめんね? 落ち着いたらまた指名してよ、いつでも待ってっからさ」
「それなんだが、来週あたり時間が取れそうなんだ」
「えっ、マジ?」
「ああ。その……久々だし、できれば長く一緒にいられればと思うんだが――構わないだろうか?」
「もちろん! 隆之さんがいいんだったら、いくらでも……っ」
 言いつつも複雑な気分になって、ナツは思わず俯きかけた。『Oasis』は風俗店のなかでも平均的な価格設定だとは思うが、決して安いわけではない。
「そうか、よかった」
 だが、隆之は優しげに微笑むだけ――近頃はこんなふうに笑うことが増えた気がする――だった。それから、思い出したように腕時計へと視線を落とす。
「悪い。まだ仕事があるから」
「あっ、ちょっと待って――」
 と、ナツは背伸びして隆之の頬にキスをした。
 ちゅっ、と軽い音が響く。唇を離せば、隆之は呆気に取られたような表情をしていた。
「……サービスだよ。毎日お疲れさま、無理しない程度に頑張ってね」
 そう言って、足早に立ち去る。
 仕事でもなんでもないのに、ついこのようなことをしてしまうのは何故だろう。疑問に思いながらも、やはり自分の感情に確証は持てなかった。

    ◇

 一週間が経った土曜の午後。隆之から指名を受け、ナツは待ち合わせ場所へと急いだ。
 今日は通常の出張コースと併用して、デートコースオプションの予約だ。
 指定された駅に向かうと、隆之はすでに待っていたようだった。
「隆之さん、お待たせ! 待たせちゃった?」ナツは小走りで駆け寄っていく。
「いや、俺もさっき来たばかりだから」
「そ? ならいいんだけど」
 今日の隆之はビジネススーツではなく私服姿だった。チェスターコートとタートルネックを着こなしており、大人らしいコーディネートがよく似合っている。
 さらには前髪を無造作に下ろしていて、普段の印象よりも若々しく、色気が増しているように思えた。
「……今日の隆之さん、なんかやばくね?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...