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第5話 さよならへのカウントダウン(1)★
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ラブホテルの一室にて。
ベッドの上ではナツが四つん這いになっており、バックから激しく突かれていた。パンッ、パンッと肉同士がぶつかる音が響き、荒々しいピストン運動に華奢な体が揺れる。
やがて背後の男が一際強く腰を打ちつけ、ゴム越しに熱い精を放った。ずるりと陰茎を引き抜くと、コンドームの先端にはたっぷりと白濁液が溜まっており、ナツは申し訳なさそうにしながら後処理を手伝う。
「なんか今日イけないみたい……『一緒にイキたい』って言ってくれたのに、ごめんなさい」
客の要望にはなるべく応えたいのだが、コンディションによってこんなときもある。
が、ナツにしては珍しいことだった。一日に複数人を相手にするぶん、なんとなく配分のようなものを考えて調整しているし、気合いでどうにかするのがボーイとしての意地でもある――それが、最近はどうにもうまくいかない。
「いいよいいよ、ナツくんいつも頑張ってくれてるもんなあ。あとの時間はゆっくりしてようか?」
こういったとき、理解のある常連客は助かる。
ナツはベッドに優しく押し倒され、男と一緒に寝転がった。その胸にキスをしながら、甘えるように擦り寄っていく。
「優しくしてもらえるのすげー嬉しい。……ありがと、大好きだよ」
それは決して嘘ではなかった。けれど、いつにも増して空虚な言葉に思えてしまう。
なんでだろう、と考えてみたものの本当にどうしようもない――瞼の裏に浮かんでいたのは隆之の顔だった。
その後は特に指名が入らず、店の控え室でぼんやりと過ごした。
そうこうしているうちにもシフト終了時刻になり、京極に呼ばれて部屋を出る。
「はいよ、今日もお疲れさん」
給料は日払い制で、退勤時に直接手渡しで支払われる。いつものように茶封筒を受け取るナツだったが、京極がまじまじとこちらを見ていることに気づく。
「おい、大丈夫か?」
京極はナツの額に手を伸ばし、「熱はねェみてーだな」と呟いた。ナツはきょとんとして首を傾げる。
「どうしたの? 何ともないよ?」
「とぼけんな、お前さんは顔に出やすいんだよ。体かメンタルか、はたまたその両方か――なんかあんだろ」
図星をつかれてギクリとした。動揺しつつも、努めて平静を装いながら口を開く。
「……ちょっと便秘気味なせいかなー」
「あーそりゃ駄目だ。しばらくバックプレイ禁止な」
「ウソウソっ、毎日どっさり出てるよ! いたって健康体だからぁ!」
「いや、誰もテメェのお通じ事情なんぞ聞きたくねェわ……」
京極が呆れた様子でため息をついた。
が、一息つくと改まった様子で低く告げる。それは思わぬ言葉だった。
「なあナツ。お前さん、仕事辞めたらどうだ」
「え……」
「パワハラだ!」などと冗談めかすような雰囲気ではなく、ナツは黙り込んだ。無言の時間が続き、しばらくしてからようやくぽつりと返す。
「なに急に……俺、なんかした?」
すると、京極はジャケットの内ポケットから煙草を取り出して火をつけた。ゆっくりと煙を吐き出したあと、真剣な眼差しを向けてくる。
「可愛いお前さんのことを思って言ってんだよ――惚れてんだろ、及川に」
ドキッ、とナツの心臓が大きく脈打った。
「ハハ、なにマジになってんの。前は茶化してきたくせにさ」
「どう考えてもマジだからに決まってんだろ。隣の部屋であんあん言ってりゃ、嫌でも聞こえるわ」
「っ……」
言葉に詰まる。あまりのデリカシーのなさに愕然としつつも、羞恥心がこみ上げてきて堪らない気持ちになった。
京極は諭すような口調で続ける。
「なにも咎めようってワケじゃねェ。他と違ってウチはその辺ユルいし、金銭問題に触れなけりゃ自己責任つったろ。人間なんだし、何かしらの縁があればそういった感情も抱くだろうが」
「……だったら、オーナーはどーゆーつもりなの? 言っとくけど俺、お客さんに対して贔屓とか全然してないよ」
「それはわかってる、ナツはよくやってくれてるさ。リピーターが多いのが何よりの証拠だ。――ただ、そうじゃなくってここの問題」
トン、と京極の指先が胸元に触れてくる。
「『お前さん』は辛くねェのか、って話をしてんだ」
「………………」
ナツは咄嗟に答えられなかった。
本当は薄々勘づいていたのだと思う。隆之への想いも、消えかかっていた感情に再び灯がともったのも。けれど、今までが今までだったし、そう簡単受け入れられるはずもない。
「俺、この仕事好きなんだよ? 辛いワケないじゃん」
「お前さんな、鏡見て言ってみ? ただでさえ嘘つくの下手なくせによ……ンな顔するくらいなら潔く辞めちまえ。だいたい及川も、客としていつまでも通ってくれるものと思うなよ?」
「それ、は」
ぎゅっと拳を握りしめる。何もかも見透かされているようで、悔しくて仕方がなかった。
ナツが黙っていると、京極はさらに追い打ちをかけてくる。
「及川だってお前さんにほの字みてーだし、二人でよろしくやりゃいいだろ? それでめでたしめでたし、だ」
「っ! うっさいな、ほっといてよ!」
耐えられなくなって、まるで反抗期の子供のように喚き散らす。もうどうしたらいいかわからず、その場から逃げることしかできなかった。
ベッドの上ではナツが四つん這いになっており、バックから激しく突かれていた。パンッ、パンッと肉同士がぶつかる音が響き、荒々しいピストン運動に華奢な体が揺れる。
やがて背後の男が一際強く腰を打ちつけ、ゴム越しに熱い精を放った。ずるりと陰茎を引き抜くと、コンドームの先端にはたっぷりと白濁液が溜まっており、ナツは申し訳なさそうにしながら後処理を手伝う。
「なんか今日イけないみたい……『一緒にイキたい』って言ってくれたのに、ごめんなさい」
客の要望にはなるべく応えたいのだが、コンディションによってこんなときもある。
が、ナツにしては珍しいことだった。一日に複数人を相手にするぶん、なんとなく配分のようなものを考えて調整しているし、気合いでどうにかするのがボーイとしての意地でもある――それが、最近はどうにもうまくいかない。
「いいよいいよ、ナツくんいつも頑張ってくれてるもんなあ。あとの時間はゆっくりしてようか?」
こういったとき、理解のある常連客は助かる。
ナツはベッドに優しく押し倒され、男と一緒に寝転がった。その胸にキスをしながら、甘えるように擦り寄っていく。
「優しくしてもらえるのすげー嬉しい。……ありがと、大好きだよ」
それは決して嘘ではなかった。けれど、いつにも増して空虚な言葉に思えてしまう。
なんでだろう、と考えてみたものの本当にどうしようもない――瞼の裏に浮かんでいたのは隆之の顔だった。
その後は特に指名が入らず、店の控え室でぼんやりと過ごした。
そうこうしているうちにもシフト終了時刻になり、京極に呼ばれて部屋を出る。
「はいよ、今日もお疲れさん」
給料は日払い制で、退勤時に直接手渡しで支払われる。いつものように茶封筒を受け取るナツだったが、京極がまじまじとこちらを見ていることに気づく。
「おい、大丈夫か?」
京極はナツの額に手を伸ばし、「熱はねェみてーだな」と呟いた。ナツはきょとんとして首を傾げる。
「どうしたの? 何ともないよ?」
「とぼけんな、お前さんは顔に出やすいんだよ。体かメンタルか、はたまたその両方か――なんかあんだろ」
図星をつかれてギクリとした。動揺しつつも、努めて平静を装いながら口を開く。
「……ちょっと便秘気味なせいかなー」
「あーそりゃ駄目だ。しばらくバックプレイ禁止な」
「ウソウソっ、毎日どっさり出てるよ! いたって健康体だからぁ!」
「いや、誰もテメェのお通じ事情なんぞ聞きたくねェわ……」
京極が呆れた様子でため息をついた。
が、一息つくと改まった様子で低く告げる。それは思わぬ言葉だった。
「なあナツ。お前さん、仕事辞めたらどうだ」
「え……」
「パワハラだ!」などと冗談めかすような雰囲気ではなく、ナツは黙り込んだ。無言の時間が続き、しばらくしてからようやくぽつりと返す。
「なに急に……俺、なんかした?」
すると、京極はジャケットの内ポケットから煙草を取り出して火をつけた。ゆっくりと煙を吐き出したあと、真剣な眼差しを向けてくる。
「可愛いお前さんのことを思って言ってんだよ――惚れてんだろ、及川に」
ドキッ、とナツの心臓が大きく脈打った。
「ハハ、なにマジになってんの。前は茶化してきたくせにさ」
「どう考えてもマジだからに決まってんだろ。隣の部屋であんあん言ってりゃ、嫌でも聞こえるわ」
「っ……」
言葉に詰まる。あまりのデリカシーのなさに愕然としつつも、羞恥心がこみ上げてきて堪らない気持ちになった。
京極は諭すような口調で続ける。
「なにも咎めようってワケじゃねェ。他と違ってウチはその辺ユルいし、金銭問題に触れなけりゃ自己責任つったろ。人間なんだし、何かしらの縁があればそういった感情も抱くだろうが」
「……だったら、オーナーはどーゆーつもりなの? 言っとくけど俺、お客さんに対して贔屓とか全然してないよ」
「それはわかってる、ナツはよくやってくれてるさ。リピーターが多いのが何よりの証拠だ。――ただ、そうじゃなくってここの問題」
トン、と京極の指先が胸元に触れてくる。
「『お前さん』は辛くねェのか、って話をしてんだ」
「………………」
ナツは咄嗟に答えられなかった。
本当は薄々勘づいていたのだと思う。隆之への想いも、消えかかっていた感情に再び灯がともったのも。けれど、今までが今までだったし、そう簡単受け入れられるはずもない。
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「それ、は」
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ナツが黙っていると、京極はさらに追い打ちをかけてくる。
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