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番外編 付き合いたての二人
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時は少し遡って、夏樹と恋人同士になって間もなくの夜。スマートフォンを片手に、隆之は考えを巡らせていた。
(絵文字くらい付けた方がいいんだろうか。若い子が相手だし、愛想がないと思われるのもな……)
スマートフォンの画面に表示されているのは、メッセージアプリだった。
つい先日、夏樹と連絡先を交換したまではいい。こうして個人的なやり取りができるのは純粋に喜ばしいし、年甲斐もなくドキドキとしてしまう。
しかし、問題は送るべきメッセージの内容だ。どうにも自分はこういったものに弱い。以前付き合っていた彼女からも、「表情がわからない」と忠告されたことがあるくらいだ。
隆之は眉間に深い皺を刻む。試しに絵文字の一覧を開いてみるのだが、
「……これは痛いな」思わず呟いてしまう。
相手からしたら、こちらはいい歳したオッサンに違いないのだ。それに、いつだったかワイドショーで見かけたことがある――絵文字や顔文字を乱用したがる、《オジサン構文》とやらを。間違ってもそんなふうには思われたくない。
(普通に自分の言葉で、簡潔に……デートの誘い――いや、まずは今日の出来事でも……)
我ながら情けない話だとは思うが、文章を打っては消してを何度か繰り返す。そうして意を決して送信したのだった。
◇
一方その頃。京極の住むマンションでは、夏樹が同じようにスマートフォンを持ちながら唸っていた。
「ねえ、オーナー。『今、何してる?』ってLINEすんのどう思う?」
甘ったるい声がリビングに響く。声をかけられた京極は、読んでいる新聞から顔を上げずに答えた。
「テメェが送りたいなら送りゃいいだろうが」
「だってさ、俺よか大人の人なんだよ? そーゆーの面倒くさがられたらどうしようって」
「……俺にとっちゃ、今の状況が実にめんどくせェんだが」
「うーん、『次のお休みいつ?』って訊くのは?」
こちらのことなどお構いなしといった夏樹の様子に、ため息もつきたくなる。
よくもまあ、メッセージひとつでそこまで悩めるものだ――京極が困惑しているうちにも、彼はああでもないこうでもないとブツブツ独り言を呟いていた。
かと思えばスマートフォンから通知音が鳴り、一瞬にしてその顔色が変わる。
「えっ、ウソ! 隆之さんからLINEきた!」
どうしよう、と夏樹は京極の方を見やった。
「『オナニーしてたよ♡』ってエッチな自撮り送ったら、喜んでもらえっかなあ?」
「お前さんな……店のブログじゃねェんだぞ」
「ああっ、でも既読つけちった! なんか返さなくっちゃ!」
京極が呆れたように呟くも、やはり意に介さず。夏樹は嬉しそうにスマートフォンの画面を見つめており、まるで恋を知ったばかりの中高生かのようだ。
(すっかり色ボケ野郎になりやがって)
苦笑しながらも、微笑ましさを覚えてしまうのは親心ゆえか。
とはいえ、このまま相手をするのは御免だ。京極は新聞を畳み、ソファーから立ち上がろうとするのだが、
「あっ、ねえねえ! ビデオ通話でエッチすんのとか、隆之さんノッてくれると思う!?」
「……早いとこウチから出てけよ」
夏樹のあまりな発言にこめかみがひくつく。撤回しよう――色ボケも大概にしてほしいと思ったのだった。
(絵文字くらい付けた方がいいんだろうか。若い子が相手だし、愛想がないと思われるのもな……)
スマートフォンの画面に表示されているのは、メッセージアプリだった。
つい先日、夏樹と連絡先を交換したまではいい。こうして個人的なやり取りができるのは純粋に喜ばしいし、年甲斐もなくドキドキとしてしまう。
しかし、問題は送るべきメッセージの内容だ。どうにも自分はこういったものに弱い。以前付き合っていた彼女からも、「表情がわからない」と忠告されたことがあるくらいだ。
隆之は眉間に深い皺を刻む。試しに絵文字の一覧を開いてみるのだが、
「……これは痛いな」思わず呟いてしまう。
相手からしたら、こちらはいい歳したオッサンに違いないのだ。それに、いつだったかワイドショーで見かけたことがある――絵文字や顔文字を乱用したがる、《オジサン構文》とやらを。間違ってもそんなふうには思われたくない。
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我ながら情けない話だとは思うが、文章を打っては消してを何度か繰り返す。そうして意を決して送信したのだった。
◇
一方その頃。京極の住むマンションでは、夏樹が同じようにスマートフォンを持ちながら唸っていた。
「ねえ、オーナー。『今、何してる?』ってLINEすんのどう思う?」
甘ったるい声がリビングに響く。声をかけられた京極は、読んでいる新聞から顔を上げずに答えた。
「テメェが送りたいなら送りゃいいだろうが」
「だってさ、俺よか大人の人なんだよ? そーゆーの面倒くさがられたらどうしようって」
「……俺にとっちゃ、今の状況が実にめんどくせェんだが」
「うーん、『次のお休みいつ?』って訊くのは?」
こちらのことなどお構いなしといった夏樹の様子に、ため息もつきたくなる。
よくもまあ、メッセージひとつでそこまで悩めるものだ――京極が困惑しているうちにも、彼はああでもないこうでもないとブツブツ独り言を呟いていた。
かと思えばスマートフォンから通知音が鳴り、一瞬にしてその顔色が変わる。
「えっ、ウソ! 隆之さんからLINEきた!」
どうしよう、と夏樹は京極の方を見やった。
「『オナニーしてたよ♡』ってエッチな自撮り送ったら、喜んでもらえっかなあ?」
「お前さんな……店のブログじゃねェんだぞ」
「ああっ、でも既読つけちった! なんか返さなくっちゃ!」
京極が呆れたように呟くも、やはり意に介さず。夏樹は嬉しそうにスマートフォンの画面を見つめており、まるで恋を知ったばかりの中高生かのようだ。
(すっかり色ボケ野郎になりやがって)
苦笑しながらも、微笑ましさを覚えてしまうのは親心ゆえか。
とはいえ、このまま相手をするのは御免だ。京極は新聞を畳み、ソファーから立ち上がろうとするのだが、
「あっ、ねえねえ! ビデオ通話でエッチすんのとか、隆之さんノッてくれると思う!?」
「……早いとこウチから出てけよ」
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