アンノウン

己銀

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- Blood Codeとダメ人間 -

EP2 『死の絵画』

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 コンテスト当日、私はコンテスト会場である、生羅 暁継さんの屋敷に訪れていた。
 電車やバスを経由して、持ってきた作品は、クロコちゃんの絵と、最近完成させた風景画の二枚。
 絵画を入れるための大きなカバンを持っていたので、行きの電車で、邪魔だと、白い目で見られたことは秘密である。
 しかし、さすが一億円の絵画を手掛けているだけあって、屋敷は豪邸と呼ぶに相応しい。
 開放感があり、広々としている。
 敷地内には噴水や、手入れの行き届いた植木まであって、西洋の屋敷を彷彿とさせる作りだった。
 普段は静かな空間なんだろうなと言うこの屋敷も、今は、コンテストに参加している人で少し賑わっている。
 人数的にも、目測で見るだけで、何十人と居るので、それほどまでに生羅 暁継さんの作品に影響を受けている人が多いのだろう。
 十八歳にして、まだ発展途上中の芸術家の才女、彼女の影響力は計り知れない。

 「コンテストに参加される方はこちらまでどうぞー。」

 不意に、手入れの行き届いた植木をじっと見ていると、受付時間が来たらしく、玄関口で使用人と思わしき女性が、参加者を募っていた。
 その声に続き、ぞくぞくと私を含めた参加者達は、屋敷に入っていく。
 受付では、それぞれ整理券と称した番号札を配られ、ひとりひとり、生羅 暁継さんが作品を見てくれるとのこと。
 ただし、元々人数制限があり、予約制であったため、スマホからか、スマホからコピーして持ってきた予約番号を見せないと、整理券は貰えない。
 整理券を配られた後は、待機室で待つよう言われ、使用人の人に、お手洗いの場所と、待機室である客間を案内され、呼ばれるまでは自由にしていて良いとのこと。
 整理券のプラカードを持ったまま、私は待機室にて次の原画でも考えるかと、スマホを片手に、メインとなる画像を探していた。
 クロコちゃんを描いてから、猫を描きたい欲が高まっているので、今度は三毛猫か、茶トラの猫が描きたいと、それらしい猫ばかりを検索していた。

 「整理番号十三番の方、どうぞ。」

 猫の検索をかけまくって、検索履歴が、茶トラや三毛猫、たまに黒猫などで猫まみれになった所で、遂に私の番号が呼ばれた。
 二つの絵画を持ち、私は座っていたソファから立ち上がって、スタスタと使用人さんの後に続く。
 ただ、画力を上げるにはどうしたらいいだろうと、アドバイスが欲しかった。
 失礼な話、貼り出されていた人間が別の人間なら、そっちに行っていただろうと思う。
 それほどまでに、何を言われても良いと、軽い気持ちで、私は生羅 暁継さんが開催するコンテストに参加していた。

 「良いわね、貴方の絵、買うわ。いくら?」

 時間にしておよそ五分くらい。
 私が描いた、何の変哲もない絵を、目の前の少女は、いとも容易く買いたいと、そう言った。
 生羅 暁継さんのコンテストに参加した結果、私は今、コンテスト会場である、豪邸の一室にて少し離れた位置から、用意されたイーゼルに、自らの絵画を乗せて、突っ立っていた。
 向かい側には、しっかりとした作りの車椅子に乗った生羅 暁継さんが居る。
 パッと見、アルビノに近い色素なのか、髪が金髪に近いロングの白色で、肌も血管が透けそうな程に透明感のある美人さんだった。
 澄んだ赤っぽい、大きな瞳は、しっかりとこちらを見据えていて、形のいい唇からは、物静かで綺麗なソプラノの声が響く。
 会場である部屋に入ってすぐ、ちょっとした挨拶の後、私は設置されたイーゼルか、白いテーブルクロスが敷かれた机に、作品を乗せるよう言われたので、何の疑問も抱くことなく、絵画を二枚置いた。
 軽い概要の説明をした後、どうだろうかと様子を伺っていたら、突然値段の交渉に入られたのだ。
 芸術家の中でも特に優れている技術を持った彼女に、絵を買われるという事は、ひとつの功績となるほどでもある。
 だからこそ、誰かと間違えてるんじゃと思い、「え、」と、思ってもみない声が出た。

 「私も芸術家として何年かやっているんだけど、貴方の絵、私の描くものと正反対の絵だわ。」

 「正反対……?」

 「死んでるのよ、この絵画達。」

 え、とまた声が漏れる。
 死んでるって、何だ、少なくとも、人の絵を褒める時に使う言葉ではないような気がするが……。

 「ああ、勘違いしないで欲しいのだけれど、死んでるって別に、貶してる訳じゃないのよ。」

 整った鼻筋を、細い指でカリカリ掻きながら、少女は私に呟く。

 「えっと、比喩表現ってことですか?」

 「そう、私の描く絵って、活力と生命力に満ち溢れてるってよく言われるんだけれど、私、イマイチその意味が、よく分かってないの。込めた意味とは、違うことを言われても、ピンと来ないし。でも、貴方の絵を見て、今理解したわ。なるほど、こんな感じなの。」

 確かに、コンテスト前に、彼女の描く絵画を何枚か見てきたが、繊細なタッチでありながらも、どれも力強い印象を受ける。
 しっかりと存在感のある絵画で、生命力が満ち溢れているという表現は、私にとってもしっくり来るものだった。

 「その、死んでるって言うのは…」

 「才能よね、いわゆる。その人間の込めた意思に反して、絵、そのものが、描いてると独自の性格と生命を持ち始めるの。」

 私の絵がそうであるように。と、才能を持った少女、生羅 暁継さんは言う。

 「私の絵って、他人から見れば、生命力を与えるものらしいの。でも、貴方の絵はその逆、死んでるから、『常人』には単なるつまらない絵画にしか見えない。」

 神妙な面持ちで、彼女は少し俯いた。

 「貴方は……、違うと?」

 「ええ、そこら辺の素人の絵に見えるけど、違うの。貴方の絵ってね、『死』を経験したことのある人間にとっては、凄く危険な代物になるわ。…いや、経験と言うより、『死』を理解しかけた人間、かしら。」

 「『死』を……?」

 「そう、文字通り、生命の終わりを一度、経験しかけた人間とでも言えば良いのかしらね。私は、喘息持ちだから、歩く程度の運動ですら控えなきゃいけないし、埃っぽい所には行けないの。小さい頃は喘息だけじゃなくて、体も弱かったから、何度も高熱が出て生死の境をさ迷ったことがある。」

 だから、この絵に酷い魅力を感じるの。と、彼女は絵画をじっと見つめた。
 後輩くんの家の、黒猫。
 それから、海の地平線と夕日の絵。
 それ以上でも以下でもない。

 「貴女、何度か経験あるんじゃないの?身近で死を経験した相手なんか、そうそういないでしょうけど、それでも一人くらい居たんじゃないかしら、この絵に違和感を持つ人間が。」

 そう言われて、私は過去に、美術の先生と、後輩の彼のことを思い出す。
 抽象的に、おかしくなりそう、気持ち悪いと言われた、この絵画たち。
 何となく、それでああ。と合点が行った。
 今まで、そうやって批評を浴びて来たのはそのせいだったのかと。
 ……いやでも、現実に、『死』を経験してきた人間にしか分からない魅力ってなんだろう……あまりよろしくない表現な気がするが……。
 いやでも、そうなると生羅 暁継さんに失礼だし……。

 「それで、話が脱線したけど、この絵、いくらで譲ってくれる?」

 「え、ああ、えっと……」

 単なる一般人が描いた絵に、そんな良い評価が貰えるなんて思っていなかった私は、突然のそんな申し出に視線をさ迷わせる。

 「…実は、何か良い意見が貰えるかもってここに来た者なので、その絵に値段も何も、ないんです。もし欲しいと言うのであれば、お譲りします。」

 「あら、そう。貴方の絵を買うのは私が初めて?」

 ここで無表情だった彼女の顔が、少し意外だと言う顔に変わった。

 「ええ、描いた絵は掃いて捨てるほどあるんです。元々趣味で何年もやって来たものなので、コンテストとかに出す気もなくて。」

 「それはラッキーね、捨てるほどあるなら、何枚か欲しいわ。良ければ持って来てくれない?」

 「え、あ、はい。分かりました、持って来ます。」

 なんとまあ、絵画の天才から、絵が欲しいと言われるほどとは、自分でも驚きを隠せない。

 「スケジュール、開けておくから、後で連絡先を受け取っておいて。後がつっかえるだろうから、今日はここまで。」

 「はい、貴重な時間、ありがとうございました。」

 「あ、そうそう。ちょっと待って。」

 私が絵画を片付けようと、立ち上がった時、不意に生羅さんは私を呼び止める。

 「絵は置いて行ってちょうだい、気に入ったから、言い値がないなら、今ここで落札するわ。」

 「え、」

 「百万くらいでどう?、二つ共、絵のサイズが小さいから、このくらいが妥当だと思うんだけど。」

 「いや、そんな素人の絵に、大金なんか払わなくていいですよ、お譲りしますから。」

 「きちんとした価値を付けとかないと、後で私が困るのよ。それに、貴方の絵を買う初めての人間が、私で良かった。」

 何やら用意された小切手に、サラサラとペンを走らせた後、ピリッと、紙を破ると、なんの躊躇いもなく私に渡してくる。

 「『死』を深く知っている人間ほど、貴方の絵をたくさん欲しがるでしょうね。今後とも、ご贔屓にしてちょうだい。次に会う時は、私の絵も持ってくるわ。欲しいものがあるなら譲ってあげる。」

 無論、お断りは入れたが、ここで金銭が発生するめんどくさい関係を持っておきたいと、彼女自身の口からそう言われ、結局、小切手は押されて受け取ってしまった。
 帰り際、部屋を出る際に、生羅 暁継さんは、私にポツリと呟いた。

 「貴女の絵、あまり外部に持ち出さない方が良いわよ。その手の人間が欲しがるでしょうから。」

 それじゃあね。と別れを告げる生羅 暁継さんに、私は首を傾げそうになったが、とりあえず会釈をして、部屋を後にした。
 部屋を出た後、私は足早にその場を立ち去ろうとしたが、使用人の一人に呼び止められ、小切手の精算があるからと、別室に案内された。
 別室には、私以外の人間がおらず、今現在で言えば、私の絵画のみが、彼女に落札されたことになる。
 することがない分、暇なので、どうしようかと部屋の隅で、右往左往していた。
 まさか、持って来た絵を、その日の内に落札されるとは思わなかった。
 それに、彼女が評価をする際に言った言葉の数々が、妙に引っかかる。

 『生命の終わりを間近で経験し、そして死を理解した人間にのみ伝わる魅力。』

 ともすれば、ちょっと厨二チックにも感じられる、彼女の言葉。
 しかしながら、その内容は、彼女自身が幼少の頃、体が弱く、何度も病を経験し、高熱で死にかけたことから、私の描く絵の魅力を感知出来るのだと言う。
 思えば、美術の先生もそうだった。
 交通事故に遭って、自分のみが生き残り、子供だけが亡くなってしまったと聞いていた。
 そこから、先生は少しおかしくなったらしいが、端的に言えば、その事故の際に、死を覚悟し、子供だけが亡くなったことから、私の絵を見て『気持ち悪い』と言う感情が浮かんだのかも知れない。
 でも、となると、後輩くんは、一体どんな『死』を経験したのだろう。
 それに、クロコちゃんもそう。
 野生のニャン生は、過酷なものだと聞くが、クロコちゃんは元々野生から、家猫になったんだろうか?
 それとも地域猫ながら、何度か人間に殺されそうになって、そこから『死』を経験したのだろうか。
 でも、あれから私は後輩くんを何となく避けていたから、もう何も聞くことは叶わない。
 生羅 暁継さんの言葉の意味を悶々と考えていると、コンコンとノックの後、ガチャと、部屋のドアが開いた。
 見ると、使用人の女性と、妙齢の男の人が一人。
 どうやら、彼もまた作品を購入されたらしく、精算のために、別室で待っているよう言われたようだ。

 「……君も?」

 使用人の女性が出て行ってからすぐ、こちらに興味を持った彼が、近付いてくる。
 使用人の女性が出て行ってから急に話しかけられたので、一瞬、答えを見失い、

 「あ、ぇ、はい」

 と、しどろもどろな回答をしてしまう。
 真っ黒で艶のある髪をしている彼は、近付いてくる度、意外と大きい男性だと気付く。
 真っ黒なウルフカットに、落ち着いた色合いのカジュアルな装いだった。
 ほのかに男性用の香水の匂いも漂って来て、整った顔立ちとマッチした良い雰囲気の出ている人だ。

 「ふぅん、そっか。コンテストに参加するの初めて?、何出した?絵画?、立体物?、それとも別のもの?」

 「初めてで、絵画を…」

 「ありゃ、じゃあ僕とはジャンルが違うな。僕、立体物なんだよね。ほら、プラ板ってあるでしょ?、アレで作った立体作品。」

 「そ、そうですか…」

 お互いに実物がないので何とも言えないが、とにかく彼は、その作品で、生羅 暁継さんのお眼鏡にかなう物を作り上げたらしかった。
 身近にあるもので、そこまでの魅力を引き出せるくらいの技術を持っているのだ。
 きっと凄いクオリティも高いのだろうな。

 「まぁ、それにしたって、やっぱ美大生の作品だからね。評価からして、もっと上を目指せるって遠回しに言われたよ。」

 「…どこの大学に?」

 「私立だよ、それなりに有名なんじゃないかな。」

 そう言われ、どこの大学に通っているのか聞いた所、私でも知っている有名所が、彼の口から飛び出してきた。
 少なくとも、その大学に通えるなら、生羅 暁継さんに作品を購入して貰えるのは、妥当だと言えよう。

 「君は?」

 「え、」

 「どこの大学?作品買って貰えたんなら、良い所行ってるんじゃないの?同じ美大生?」

 「Fランクの大学ですよ…多分名前も聞いたことないような……」

 大学の名前を答えるも、やはり知らなかったらしく、彼は怪訝な表情をしている。

 「…うん、聞いたことないわ、本当にそこ通ってるの?うわ、偏差値低っく……」

 ネットで調べながら、出てきた大学を目に、思わず彼はええ……と、言いたげな顔をしている。
 生羅 暁継さんに自分の作品を見て貰うに当たっては、学力は重視されない。
 されど、現実は芸術力もあって、学力もある才能の卵達が、プロに評価して貰うのが一般的だ。
 彼もまた、その秀才であり、プロになれる可能性を秘めた卵である。
 同じようなレベルの人間がいるかと思いきや、美大でもない上に、その大学にすら何回か落ちてるアホが、百万円で絵画を落札されてるなんて事実、誰が信じるだろう。

 「…誰かに絵、描いて貰ったとかじゃないよね?」

 「いえ…自分で描きました……」

 そう言われるのも仕方がないと、私は視線を下に落とす。
 自分でも実感がないのだ。
 本当に自分の描いた絵に、そんな価値があるのかと、いっそ、私は生羅 暁継さんを疑いつつあった。
 失礼な話だが、私の絵画には、今までなんの音沙汰もなかった分、疑問が残りつつある。

 「じゃあさ、いくらで買われたか、教えてくれる?マウント取る訳じゃないけど、君の作品に、どれくらいの価値があったのか気になってさ。」

 「あ、えっと……」

 証拠を見せた方が早いと、生羅 暁さんから貰った、例の小切手を取り出す。

 「…百万」

 嘘だろ……みたいな表情をされた。

 「そんなに差ァ着くもんなんだぁ、なんかショック。」

 「……、」

 「僕二十万だよ?、お小遣いにしては稼いでる方なんだろうけどさぁ。」

 ぴら、と彼の方からも小切手を見せられ、二十万と記載されているのを見るも、十万単位のお金が動く時点で、私にとっては頭がおかしくなりそうな事案だ。

 「二十万でも凄いと思いますよ…」

 それだけあったら、一ヶ月は生活していけるレベルのお金だ。
 一つの作品で、そのお金をポンと貰えるセンスを持っているなら、将来的に安泰なんじゃなかろうか。

 「初めてで百万の小切手提示された人に言われてもねぇ。」

 「あ、いや…その、嫌味とかじゃなくて……」

 「もういっそ、家の窓際とかに絵画貼り付けて売り出してみたら?百万の価値あるなら、そんだけ雑な売り方でも売れそうだけどね。」

 ケタケタと面白がるように言われ、私は反応に困ってしまった。
 この人に何を言っても、私が煽っているようにしか聞こえないんじゃないかと思い、

 「えっ…」

 と、意味のない声しか出てこない。

 「バンクシーとかもやってただろ?、そういう雑で胡散臭い売り方。即席の露店で、描いた絵を一律の金額で売り出して、後から自分のでした~って公表してたヤツ。」

 「えっと…気が向いたら、やってみます。」

 皮肉屋なのか、本当に面白がって言ってるのか、どちらにせよ、彼が何を考えているのか分からず、私は曖昧に言葉を濁し、お手洗いに逃げ込むことにした。
 会話を切り上げようと、私が続け様に声をあげようとした時。
 精算の準備が出来たらしく使用人の女性が、彼と私を呼びに来た。
 助かった……と、内心で胸を撫で下ろし、私は嬉々として使用人の女性の後ろに続いた。
 精算手続きでは、口座番号の開示を求められ、現金がそこに振り込まれる形式になるようで、さすがに現ナマで支給なんてことはなかった。
 精算手続きを終えた後は、さっきの彼に出くわさないよう、速やかに生羅 暁継さんの屋敷を出た。
 あまり現実味のない、浮き足立った感覚のまま、私は帰りの電車で、ぼんやりと外の景色を見ていた。
 そう言えば、クロコちゃんの絵は、生羅 暁継さんに買い取られてしまったから、手元にはもう、クロコちゃんの絵はない。
 また描き直せば良いのだろうけど、その点でも、やはり、後輩くんと接点がなくなってしまったので、描く意味もない。
 猫が描きたいのなら、クロコちゃんではなく、別の猫を描けばいい話だ。
 絵画のなくなった空っぽのバッグを手にしたまま、私はフラフラと帰路に着く。
 自宅に帰り着くと、その日はなんだか疲れて、すぐに眠ってしまいたかったが、眠る直前、ふとウルフカットの彼を思い出す。

 “もういっそ、家の窓際とかに、絵画貼り付けて売り出してみたら?”

 薄い布団の上で、ぼんやりと天井を見上げ、少しだけ考えてみた。
 生羅 暁継さんが言った、『死を間近で経験した者』、あるいは、『死を理解しかけてしまった者』。
 そのどちらかが、私の絵画を見た時、無条件に強く惹かれてしまう性質を持っているのだとしたら。
 そうなのだとしたら、なんだか好奇心が湧いた。
 その場のノリと言うヤツで、明日、覚えていたら、貼り出してみよう。
 もしも、私の絵が本当に価値のあるものなら、一枚くらいなら売れるんじゃなかろうか。
 緩やかな睡魔に襲われながら、私はレイアウトをどうするかを考えている内に、意識を闇へと手放した。

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