23 / 485
第一部「ハルコン少年期」
05 面談するカイルズ_03
しおりを挟む
* *
カイルズの帰領から数日経った頃、屋敷にメッセンジャーボーイが手紙を持って現れた。
その文面によると、中年の一級剣士が王都より訪れ、カイルズとの面談を希望しているとのこと。
カイルズは著名な剣士と会えるとあって、とても喜んている様子。
面談の日付は、既に家令が相手方に伝えているというのだが。
「さて、……剣士殿は、一体どんな人物なのだろうか? 会うのが楽しみだ!」
ふふふ、お父様。彼は相当モテモテの、……情婦のいっぱいいる、ちょいヤバのイケオジですよ!
憧れの表情を浮かべるカイルズを、ハルコンはベッドから笑顔で見つめていた。
数日後。一級剣士が面談に訪れた。
「カイルズ様、一級剣士殿がお越しです。客間にてお待ちになられております」
「おぉ、そうだったな」
家令の言葉に、嬉しそうに応じて立ち上がるカイルズ。
ハルコンはベッドからそんな父を見上げながら、面談で何かプラスに働くといいなぁと思った。
カイルズが席を立つと、室内はまたいつもの静けさを取り戻す。
ソフィアとサリナは編み物に没頭し、ハルコンは赤ん坊なので特にすることもない。
さて、……どうしようかな?
一級剣士の思念に同調して、父との面談で何が話されるのかを見ることにした。
おやっ!? まぁ、……何て言うか。ハルコンの目から見ても、面談の席はいささか奇妙な具合になっていた。
父カイルズの傍には、普段セイントーク領の警護を担当する騎士爵が並び、背後には家令が控えている。
一方、対座する一級剣士の傍らには、道中で仲良くなった情婦達が、シナを作って微笑んで座っているのだ。
本来、その剣士はまさに剣豪と呼ぶべき、国を代表する程の人物だ。
王都ではちょっとした有名人であり、そんな人が雪の残る田舎領までわざわざ訪れてくれたことに、カイルズは率直に礼を述べている。
「カイルズ殿、お心遣い、誠に痛み入る次第。我は王都での生活に、もう飽きている。ここしばらくの間、我を召し抱えてくれる地方の貴族を探しているのだが、……貴殿に我を雇う気はあらぬか?」
剣士は、率直に自分の希望を伝えてきた。
「なるほど、……それは私にとっても渡りに船ですな。よろしい。貴殿がお好きなだけ、ここにおられるがよかろう!」
「かたじけない」
そう言って頭を下げる一級剣士。カイルズは小さくほくそ笑む。
「では、剣士殿にたっての願いなのだが、……現在、ファイルド国東方3領、セイントーク伯爵領、ロスシルド伯爵領、シルウィット子爵領の力関係が極めて微妙でしてな。名のある剣士殿には、警備と雑務を主にお願いしたいと思っております」
「それは、我の得意分野であるな!」
「そう仰られると、こちらとしても大変ありがたい。剣士殿、我が領に歓迎いたしますぞ!」
そう言って、お互いに力強く握手するので、ハルコンは、ホッとため息を吐いた。
「つきましては、カイルズ殿、貴殿にお願いがあるのだが、……」
すると、剣士が思わせぶりに目配せする。カイルズはちらりと情婦達を見てから、
「なるほど。いいでしょう、剣士殿にも休暇が必要ですからな!」
「そう言って頂けると、大変ありがたい。春先まで、我はしばらく逗留できるところを探しておったのだ!」
「なら、いい場所がありますぞ。我が領内にはいくつも温泉施設がありましてな。さっそく案内するよう手配しましょう!」
「誠にかたじけない。カイルズ殿のお心遣い、大変感謝する!」
「いやいや」
おそらく、経費は全額セイントーク領で負担するのだろう。高名な剣士を囲い込むことができて、父は相当喜んでいるに違いない。
中々のやり手だなぁと、ハルコンは素直に感心した。
カイルズの帰領から数日経った頃、屋敷にメッセンジャーボーイが手紙を持って現れた。
その文面によると、中年の一級剣士が王都より訪れ、カイルズとの面談を希望しているとのこと。
カイルズは著名な剣士と会えるとあって、とても喜んている様子。
面談の日付は、既に家令が相手方に伝えているというのだが。
「さて、……剣士殿は、一体どんな人物なのだろうか? 会うのが楽しみだ!」
ふふふ、お父様。彼は相当モテモテの、……情婦のいっぱいいる、ちょいヤバのイケオジですよ!
憧れの表情を浮かべるカイルズを、ハルコンはベッドから笑顔で見つめていた。
数日後。一級剣士が面談に訪れた。
「カイルズ様、一級剣士殿がお越しです。客間にてお待ちになられております」
「おぉ、そうだったな」
家令の言葉に、嬉しそうに応じて立ち上がるカイルズ。
ハルコンはベッドからそんな父を見上げながら、面談で何かプラスに働くといいなぁと思った。
カイルズが席を立つと、室内はまたいつもの静けさを取り戻す。
ソフィアとサリナは編み物に没頭し、ハルコンは赤ん坊なので特にすることもない。
さて、……どうしようかな?
一級剣士の思念に同調して、父との面談で何が話されるのかを見ることにした。
おやっ!? まぁ、……何て言うか。ハルコンの目から見ても、面談の席はいささか奇妙な具合になっていた。
父カイルズの傍には、普段セイントーク領の警護を担当する騎士爵が並び、背後には家令が控えている。
一方、対座する一級剣士の傍らには、道中で仲良くなった情婦達が、シナを作って微笑んで座っているのだ。
本来、その剣士はまさに剣豪と呼ぶべき、国を代表する程の人物だ。
王都ではちょっとした有名人であり、そんな人が雪の残る田舎領までわざわざ訪れてくれたことに、カイルズは率直に礼を述べている。
「カイルズ殿、お心遣い、誠に痛み入る次第。我は王都での生活に、もう飽きている。ここしばらくの間、我を召し抱えてくれる地方の貴族を探しているのだが、……貴殿に我を雇う気はあらぬか?」
剣士は、率直に自分の希望を伝えてきた。
「なるほど、……それは私にとっても渡りに船ですな。よろしい。貴殿がお好きなだけ、ここにおられるがよかろう!」
「かたじけない」
そう言って頭を下げる一級剣士。カイルズは小さくほくそ笑む。
「では、剣士殿にたっての願いなのだが、……現在、ファイルド国東方3領、セイントーク伯爵領、ロスシルド伯爵領、シルウィット子爵領の力関係が極めて微妙でしてな。名のある剣士殿には、警備と雑務を主にお願いしたいと思っております」
「それは、我の得意分野であるな!」
「そう仰られると、こちらとしても大変ありがたい。剣士殿、我が領に歓迎いたしますぞ!」
そう言って、お互いに力強く握手するので、ハルコンは、ホッとため息を吐いた。
「つきましては、カイルズ殿、貴殿にお願いがあるのだが、……」
すると、剣士が思わせぶりに目配せする。カイルズはちらりと情婦達を見てから、
「なるほど。いいでしょう、剣士殿にも休暇が必要ですからな!」
「そう言って頂けると、大変ありがたい。春先まで、我はしばらく逗留できるところを探しておったのだ!」
「なら、いい場所がありますぞ。我が領内にはいくつも温泉施設がありましてな。さっそく案内するよう手配しましょう!」
「誠にかたじけない。カイルズ殿のお心遣い、大変感謝する!」
「いやいや」
おそらく、経費は全額セイントーク領で負担するのだろう。高名な剣士を囲い込むことができて、父は相当喜んでいるに違いない。
中々のやり手だなぁと、ハルコンは素直に感心した。
336
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる