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「それだけ、今、俺、あいつ――新見に本気で腹が立っているんですよ」
山崎は、そこで一呼吸を置いた。
「――先生。だからもう今更、『嘘でした。実は匿ってました』なんてのは無しですからね。俺、先生のこと本気で信じているんで。今更、手のひら返されたりしたら、俺、――先生に幻滅しないといけなくなるから」
言う男である。悪友、山崎。
正直、先生にそんな言い方をするなんて、失礼でしかないと思う。
でも、美帆子先生が、彼のその無礼を指摘するような様子はない。
彼女は凄む山崎に、ただ気圧されているのかもしれない。
六歳も年下の男に、すっかりペースを握られている。
仕方ないだろう。生徒とはいえ、山崎は身長が一八〇センチ近くある体格の良い男だ。暴力沙汰になれば、先生なんて山崎によって簡単に組み伏せられてしまう。
そんな相手に、体と心を萎縮させていまうのは、仕方のないことなのだ。――動物的な本能の意味で。
山崎の声は、変わらず、明らかな怒気を孕み続けている。
彼女はきっと、自らが生徒同士の諍いに巻き込まれたことを感じながらも、いかにこの場をやり過ごして平穏に戻るかを考えているのだろう。
「――もう、しつこいわね。私は新見くんを匿ってなんかないわよ。絶対」
「もし、それが嘘なら、俺の願い事、なんか一つ聞いてもらいますからね」
「何よ、それ!?」
「俺の好きな女の子に俺のこと紹介したもらうとか、次のテスト範囲についてちょっと勉強教えてもらうとか?」
「なにそれ? いいわよ、そのくらい。嘘だったら君のお願い事聞いてあげるから」
「あ、約束ですよ。先生?」
「もちろん。まぁ、私は嘘をついていないから、意味のない約束だけどね!」
「――ということは、やっぱり、新見は来てないんですね。……おかしいなぁ」
いかにも困ったという風に首を傾げている様子の山崎。
「だから、……さっきからそう言っているじゃない」
美帆子先生は少し声量を落とした声でそう言うと、左足を少し僕の方へと寄せた。机の下の真ん中に僕の体を固定するように。僕が外に出てこないように。
彼女の意思で、僕をこの甘美な空間へと押し止めるように。
僕が今、外に出れば、彼女の信用は傷つけられることになるのだ。
可愛い生徒が自らに寄せてくれていた無垢な信頼を裏切ることになる。
ぎゅっと押し当てられた彼女のふくらはぎを、僕は右手で触れた。
そしてその脛を右手のひらで優しく撫でる。
彼女がその手を払おうとするように、少しだけ足を動かした。
山崎に僕の存在を気づかれてはいけないから、それはほんの小さな動きで、僕の手を振りほどくにはいたらない。
だから僕は左右の手を、彼女の両足へと添え続けた。――憧れの人の両足へと。
なだらかな曲面にそれぞれの手を当てたまま、僕はそれをゆっくりとなで上げ始めた。――彼女の下半身が驚いたように揺れた。
「――どうかしました? なんだか、ビクッとされたみたいでしたけれど?」
「……ん? え? そ、そう? なんでもないわよ? ちょっと寒かったから。……ほら、もう冬だし?」
取り繕う美帆子先生。その嘘がまた可愛い。
「たしかに冷えますもんね、最近。教室に比べたら、職員室は暖房きいてますけど」
「そうそう。めっきり寒くなってきたわよねー。うん」
「ですね。俺は走ってきたからちょっと暑いくらいですけど。――じゃあ、先生、上着、着られたらいいんじゃないですか?」
先生は今、ジャケットを脱いで、空色のブラウスだけを着ている。
上着のジャケットは通路脇のハンガーに掛かっている。取りに行くなら、一回席を立たないといけない。すると僕の姿が、山崎に見つかってしまうかもしれない。
「――あ、うん。でも、まだいいかな? ほら、ジャケットって着ちゃうと、気持ちが授業モードみたいになって、ちょっと疲れちゃうの。……今は、もう少しゆったりしていたいから。うん」
言い訳がましい言葉。
教師という聖職者が、また嘘の上に、嘘を塗り固めていく。
机の下の僕は黒いパンストに包まれた美帆子先生の両足に触れている。
素肌を透けて見えさせる程度のデニール。
そんな風に先生という存在を、嘘という塗膜が包みだしている。
さらさらとしたパンストに沿わせて、僕はその肌を優しく撫でる。
夢みたいな感触。家族でもない女性の肌。柔らかさ。手のひらから伝わる温もり。
徐々に上げていった指先を、僕は彼女の両膝まで到達させた。
僕の手を押し返そうとするように、彼女が膝に力を入れる。
先生から、声にならない抵抗の声が聞こえるようだ。「やめなさいっ!」って。
山崎相手に演技を続けなければならない先生は、何も言えないわけだけれど。
「――へー、そういうもんなんですね。先生も大変だ」
「そ、そうよ。先生も大変なのよ?」
放課後に職員室の机の下に男子生徒をしまい込んで、その足で蟹挟みにしないといけなかったりするんだから。高校の先生って、大変ですよね。
机の下で、僕はようやく顔を上げた。
目の前には僕の今触れている、彼女の膝小僧があった。
その向こう側にタイトスカートに包まれた太腿。微かな空間。微かな暗闇。
その奥にあるはずの憧れの花園が、見えそうで見えなかった。
だからぼくは、彼女の両膝に当てた手を、少しずつ内側へとずらしていった。
「――ちょっとっ!」
堪らず声をあげる先生。
僕は滑らせるように、両手のひらを彼女の膝の間に差し入れた。
山崎は、そこで一呼吸を置いた。
「――先生。だからもう今更、『嘘でした。実は匿ってました』なんてのは無しですからね。俺、先生のこと本気で信じているんで。今更、手のひら返されたりしたら、俺、――先生に幻滅しないといけなくなるから」
言う男である。悪友、山崎。
正直、先生にそんな言い方をするなんて、失礼でしかないと思う。
でも、美帆子先生が、彼のその無礼を指摘するような様子はない。
彼女は凄む山崎に、ただ気圧されているのかもしれない。
六歳も年下の男に、すっかりペースを握られている。
仕方ないだろう。生徒とはいえ、山崎は身長が一八〇センチ近くある体格の良い男だ。暴力沙汰になれば、先生なんて山崎によって簡単に組み伏せられてしまう。
そんな相手に、体と心を萎縮させていまうのは、仕方のないことなのだ。――動物的な本能の意味で。
山崎の声は、変わらず、明らかな怒気を孕み続けている。
彼女はきっと、自らが生徒同士の諍いに巻き込まれたことを感じながらも、いかにこの場をやり過ごして平穏に戻るかを考えているのだろう。
「――もう、しつこいわね。私は新見くんを匿ってなんかないわよ。絶対」
「もし、それが嘘なら、俺の願い事、なんか一つ聞いてもらいますからね」
「何よ、それ!?」
「俺の好きな女の子に俺のこと紹介したもらうとか、次のテスト範囲についてちょっと勉強教えてもらうとか?」
「なにそれ? いいわよ、そのくらい。嘘だったら君のお願い事聞いてあげるから」
「あ、約束ですよ。先生?」
「もちろん。まぁ、私は嘘をついていないから、意味のない約束だけどね!」
「――ということは、やっぱり、新見は来てないんですね。……おかしいなぁ」
いかにも困ったという風に首を傾げている様子の山崎。
「だから、……さっきからそう言っているじゃない」
美帆子先生は少し声量を落とした声でそう言うと、左足を少し僕の方へと寄せた。机の下の真ん中に僕の体を固定するように。僕が外に出てこないように。
彼女の意思で、僕をこの甘美な空間へと押し止めるように。
僕が今、外に出れば、彼女の信用は傷つけられることになるのだ。
可愛い生徒が自らに寄せてくれていた無垢な信頼を裏切ることになる。
ぎゅっと押し当てられた彼女のふくらはぎを、僕は右手で触れた。
そしてその脛を右手のひらで優しく撫でる。
彼女がその手を払おうとするように、少しだけ足を動かした。
山崎に僕の存在を気づかれてはいけないから、それはほんの小さな動きで、僕の手を振りほどくにはいたらない。
だから僕は左右の手を、彼女の両足へと添え続けた。――憧れの人の両足へと。
なだらかな曲面にそれぞれの手を当てたまま、僕はそれをゆっくりとなで上げ始めた。――彼女の下半身が驚いたように揺れた。
「――どうかしました? なんだか、ビクッとされたみたいでしたけれど?」
「……ん? え? そ、そう? なんでもないわよ? ちょっと寒かったから。……ほら、もう冬だし?」
取り繕う美帆子先生。その嘘がまた可愛い。
「たしかに冷えますもんね、最近。教室に比べたら、職員室は暖房きいてますけど」
「そうそう。めっきり寒くなってきたわよねー。うん」
「ですね。俺は走ってきたからちょっと暑いくらいですけど。――じゃあ、先生、上着、着られたらいいんじゃないですか?」
先生は今、ジャケットを脱いで、空色のブラウスだけを着ている。
上着のジャケットは通路脇のハンガーに掛かっている。取りに行くなら、一回席を立たないといけない。すると僕の姿が、山崎に見つかってしまうかもしれない。
「――あ、うん。でも、まだいいかな? ほら、ジャケットって着ちゃうと、気持ちが授業モードみたいになって、ちょっと疲れちゃうの。……今は、もう少しゆったりしていたいから。うん」
言い訳がましい言葉。
教師という聖職者が、また嘘の上に、嘘を塗り固めていく。
机の下の僕は黒いパンストに包まれた美帆子先生の両足に触れている。
素肌を透けて見えさせる程度のデニール。
そんな風に先生という存在を、嘘という塗膜が包みだしている。
さらさらとしたパンストに沿わせて、僕はその肌を優しく撫でる。
夢みたいな感触。家族でもない女性の肌。柔らかさ。手のひらから伝わる温もり。
徐々に上げていった指先を、僕は彼女の両膝まで到達させた。
僕の手を押し返そうとするように、彼女が膝に力を入れる。
先生から、声にならない抵抗の声が聞こえるようだ。「やめなさいっ!」って。
山崎相手に演技を続けなければならない先生は、何も言えないわけだけれど。
「――へー、そういうもんなんですね。先生も大変だ」
「そ、そうよ。先生も大変なのよ?」
放課後に職員室の机の下に男子生徒をしまい込んで、その足で蟹挟みにしないといけなかったりするんだから。高校の先生って、大変ですよね。
机の下で、僕はようやく顔を上げた。
目の前には僕の今触れている、彼女の膝小僧があった。
その向こう側にタイトスカートに包まれた太腿。微かな空間。微かな暗闇。
その奥にあるはずの憧れの花園が、見えそうで見えなかった。
だからぼくは、彼女の両膝に当てた手を、少しずつ内側へとずらしていった。
「――ちょっとっ!」
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僕は滑らせるように、両手のひらを彼女の膝の間に差し入れた。
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