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第2話 「狐」
しおりを挟む未だに震え続けている。
何時間、あの雨の中に居たのだろうか。
自宅に戻った私は、タオルに包んだ動物をストーブの前に置いてあげた。
毛は汚れて、雨でペッタリと張り付いている。
少しだけ温めた、ぬるめのミルクを近くにそっと置いた。
私はコートも脱がずに考えた。
――犬よね?
それも子犬。
犬種はなんだろう。
柴犬とか?
持ってきたタオルで頭を優しく拭く。
大丈夫かしら...。
動物病院を探して、今から診てもらえるか電話してみようかな...。
すると、その動物が微かに目を開けた。
――あ!
しばらく私を見つめていたが、その後驚いたように飛び上がった。
「わっ...!」
こっちもいきなり飛び上がった動物にビックリしてよろめく。
体制を整えて辺りを見回すと、こちらに向かって威嚇している姿が見えた。
「だ...大丈夫よ。」
恐る恐る手を伸ばす。
その時、ハタッと気づいた。
こ、これって...、キツネじゃない!?
昔テレビで見た野生動物のドキュメンタリー映像を思い出した。
きっと、間違いない。
動物園でも見たことあるし...。
ミルクに手を伸ばし、威嚇し続けるこぎつねの方に近づけた。
「...ほら、」
差し出されたミルクを一瞬見たが、警戒を解かずに私を見ている。
「何もしないから。」
その狐の目は、まるで何かを考えているようだった。
...。
暫くするとヨロヨロした足取りで進み、身を屈めてミルクを飲んだ。
ホッと一安心する。
何か口に入れてくれて良かった。
しばらくして満足したのか、こぎつねは顔を上げる。
そして私の瞳を見据えたまま、ゆっくりと近づいて来た。
少し手前でぴたりと止まり、それ以上動こうとしなかった。
...撫でてみて、大丈夫かな...、
ゆっくりと、手を伸ばす。
...こぎつねは顔を傾け、私の手に擦り寄った。
嬉しくて笑うと、こぎつねを纏う空気も柔らかくなったような気がした。
「――にしても。」
私はこぎつねを上から下までじっくり眺めた。
...汚れすぎ。
「おいで、洗ってあげるから。」
そう言うと、まるで言葉が理解出来たかのようについてくる。
お風呂で洗ってあげると、暴れず大人しいものだった。
濡れた毛をドライヤーで乾かすと、毛並みの綺麗な狐へと戻る。
“どこから来たの”と聞きたかったが目の前にいる相手は人間じゃなく、狐だ。
口が利けるわけがない。
迷子かな。
でもキツネの迷子なんて、聞いたことない。
...これから、どうしよう。
「あ!」
時計を見て思わず声をあげた。
もうすぐ、12時。
「早く寝ないと!」
明日は少し早めに出社しなくちゃいけないんだった。
今日作った資料の最終確認がある。
――そうだ
振り返ると、フワフワになったこぎつねがちょこんと座っている。
「寝床...」
どこに寝させよう。
...一緒に寝れるかな。
ベッドに座って隣をぽんぽんと叩いて
「おいで」
と呼び掛けた。
すると、こぎつねはゆっくりと近づいてベッドにジャンプする。
...だいぶ慣れたみたい。
でも、なぜか俯いたまま動かない。
しょうがないから、抱き上げて布団のなかに入れてあげる。
「――おやすみ、」
私の言葉に反応し、こぎつねが見上げる。
頭を撫でてあげるとくすぐったそうに目をつぶった。
◇狐◇End ...続く。
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