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第6話 「変化した日常」
しおりを挟むクラリ
「うっあー…」
しんとした中、自分の声だけが室内に響く。
クラリ
「沙利ちゃん、まだ仕事終わんねーのかなあ。」
テレビのリモコンを掴み、次々にチャンネルを切り替える。
しかし、放送されているのはなぜかクイズ番組ばかり。
不機嫌そうにテレビを消して、大きくソファーに寄り掛かった。
クラリ
「カイシャってとこに行かなきゃ仕事出来ないのかな。」
「ここですればいいのに。」
“つまんねぇの”と呟き、そのまま横になる。
…ソファーの心地良さにだんだん眠気が襲ってきた。
眠い…、少しだけ寝よっと…。
沙利
「ただいま。」
リビングの扉を開けると、ソファーでスヤスヤと眠るクラリがいた。
そっと近づいて寝顔を見る。
…まだまだ子どもね。
別の世界の人なんて、思えない。
毛布を被せて、優しく髪を撫でる。
こぎつねになってる時と同じ――ふさふさ?…モフモフ?
そこで、パチッとクラリが目を覚ました。
クラリ
「―んあ、…おかえり。」
沙利
「ただいま。お腹空いたでしょ。作るから寝てて。」
クラリ
「ううん。もう起きる。」
「会社、どうだった。」
沙利
「…うん、普通。」
クラリ
「普通?」
ソファーから離れた私の後をついて、キッチンに走って来る。
クラリ
「普通って。」
沙利
「良くも悪くも…って感じ。」
クラリ
「仕事が上手くいかなかった。」
沙利
「ううん」
クラリ
「会社の人達とケンカした。」
沙利
「…それとは、ちょっと違う。」
クラリ
「…。あー、わかったー!」
そう言ってクラリはニヤニヤと笑った。
クラリ
「沙利ちゃん、好きな人いるんだろー!会社に。」
沙利
「え!?」
クラリ
「恋人?その人とケンカしたとか。」
沙利
「…恋人じゃない。付き合ってもいないわ。」
クラリ
「じゃあ沙利ちゃんの片思い?」
沙利
「そう。…って子どものくせに。」
クラリ
「こ、子ども!?」
沙利
「自分で言ってたじゃない。」
「向こうの世界では、修行を終えて初めて“大人”になれるって。」
「だから修行しているんでしょ。」
クラリ
「ぐ…、そりゃそーだけど。」
沙利
「それに、ここの世界でもまだ大人には見えないわよ。」
「高3…、いや高2くらいかな。」
クラリ
「…沙利ちゃんは大人なの?」
沙利
「もちろん。」
クラリ
「えー!オレだけ子ども?つまんないのー」
沙利
「なにそれ。大人なのを羨ましがられるなんて、ヘンなかんじ。」
クラリ
「そう?超羨ましいよ!」
老けるばかりで嫌だなって思ってたのに。
思わず笑った。
クラリ
「…それで、なんて名前?」
沙利
「名前?」
クラリ
「その好きな人の。名前ぐらい教えてくれてもいいじゃん。」
沙利
「…、糸川、涼くん」
クラリ
「涼?」
“変な名前だなぁ”と呟いて、冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注ぐ。
クラリ
「その涼って、変な顔?」
沙利
「へ…、変な顔なわけないでしょ!女の子にモテモテよ。」
クラリ
「モテモテ…、あー。それで沙利ちゃん、」
意味深な眼差しを向けられギクリとした。
慌ててクラリから目を逸らす。
冷やかしてくると思ったのに、クラリはそれ以上言うことなく
手に持っていた牛乳を飲み干した。
そして、笑いかける。
クラリ
「沙利ちゃん、可愛いから大丈夫。ねえ、ご飯作るの手伝おうか。」
◇変化した日常◇ …続く。
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