「LGBT」というレッテルを貼られて。

千石杏香

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女装男が女湯に入っても合法になる日

8.女子トイレ獲得の歴史は女性の人権の歴史。

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トイレや風呂は、最初から男女で別れていたわけではない。それどころか、女性スペース獲得の歴史は女性の人権の歴史なのだ。

江戸時代の頃、我が国では混浴が一般的だった。女性の裸を見るために湯船に長く浸る「わに」と呼ばれる男がいたし、自衛のために女たちは集団で銭湯を訪れなければならなかった。

都市部において、混浴が完全になくなったのは明治末期だ。地方の温泉地では、混浴が当たり前の状態が昭和三十年代まで続く。

女子トイレも同様だ。

年配の方に話を聴くと、共用トイレの酷さに驚かされる。

かつて、公園などのトイレは男女共用だった。言うなれば、男子トイレを女性にも使わせているような状態だ。覗こうと思えば普通にできる。今の時代ならば、盗撮が横行するだろう。狭くて暗い場所なので、襲われたならばひとたまりもない。

そんな不安で不快な場所を避け、飲食店などのトイレを借りることも多かったという。

――それ以前はどうだったか。

ヴィクトリア時代――十九世紀――のイギリスには「尿道の鎖」という言葉があった。家の外にあるトイレのほとんどが男性用だったため、排泄を我慢できる範囲でしか女性は外出できなかったのだ。

当時の女性団体は女子トイレの設置を要求するが、男性の反対に遭って難航する――当時のイギリス人女性の地位は低く、不用意な外出が白眼視されていたからだ。時には、建設中の女性用公衆トイレに車をぶつけ、不適切な場所にあると言う者もいた。

イギリスにおいて女子トイレが増えたのは、第一次世界大戦が原因だ。男性が戦場へ行き、兵器や弾薬を造る工場で女性が働くようになったためである。

日本に造られた女子トイレの最も古い記録として確認できるのは、一八九八年(明治三十一年)に日本銀行に設置された婦人便所である。

一九二三年(大正十二年)、丸の内ビルディングでは、「男性は男子便所に、婦人は婦人便所に入ること」と貼り紙がしてあった。それ以前は共用が普通だったということだ。

早稲田大学は、一九二一年(大正十年)から聴講生として、一九三九年(昭和十四年)から正規学生として女性を受け入れる。しかし女性専用の設備が不充分だったため、女子学生は苦労を強いられた。特に苦労したのはトイレだ。

一九四七年(昭和二十二年)、東京工業大学に女性が初めて入学する。このときも、女子トイレがないことが問題となった。仕方なく、トイレの一つに「女子専用」という貼り紙がされる。

一九五四年(昭和二十九年)には、文京区小二女児殺害事件が起きた。

四月十九日――文京区にある小学校のトイレで、小学二年生の女児が遺体となって見つかる。女児は、下着を口に詰め込まれて暴行され、絞殺されていた。

警察の捜査の結果、二十歳の青年が逮捕される。

当時、小学校は誰でも侵入することができた。学校のトイレも、近隣の住民から使われていたという。犯人も同じだ。すると、扉を少し開けて用を足している女児が目に入る。欲情した犯人は女児に近づき、性玩弄しようとした。ところが泣きだされたため、口を塞ぎ、暴行したうえで殺害する。

五月六日、東京都教育庁は、都内の小・中・高の校長あてに「新管理方針」を通達した。

・学校長は男女のトイレを別にすること。
・トイレに入った時は必ず戸を閉めるように注意すること。
・授業のない教職員は用務員と共に校内を巡視すること。
・外来者の出入りは、教職員・用務員が見られる通路を必ず通るようにすること。
・学校の垣根や柵を厳重にし、無暗に外来者が出入りできないようにすること。

女子トイレが様々な施設で造られるようになった理由は、女性の社会進出にも深く関わっている。

女性の国会議員が初めて誕生したのは、一九四六年(昭和二十一年)だ。しかし、国会議事堂に女子トイレはなかった。女性議員たちは、男性議員と同じトイレを使っていた。しかもそれが長いあいだ続く。

元衆議院議員・田中美智子によれば、一九七二年(昭和四十七年)にも国会議事堂に女子トイレはなかったという。ゆえに、他の党派の女性議員と共に声を上げて女子トイレを造らせたそうだ。

しかし、満足のゆくものではなかった。

一九九三年(平成五年)に衆議院議員となった野田聖子によれば、当時の国会議事堂の女子トイレは、男子トイレをベニヤ板で仕切っただけだったという。国会議事堂内の女子トイレは今でも不便な所にある。

サンデー毎日の元編集長・山田道子は、かつて毎日新聞の社会部・政治部に所属していた。ところが、一九九〇年代後半、内閣記者会が入る建物には女子トイレがなかった。唯一の例外が、地下一階にあるトイレの一つだ。ここには「女性使用中」という木札があり、女性が使う時はそれを表にしていた。

自衛隊が女性隊員を募集したのは一九七四年(昭和四十九年)である。当然、女子トイレはおろか女子更衣室さえなかった。初めて自衛隊に入った女性は、「男性トイレに入ると、中にいた男性たちがぎょっとなるので申し訳なかった」とSPAの取材で答えている。

現在でさえも、女性職員のためのスペースを新たに設置するなどの努力が各企業では行なわれている。

女性スペースを男性にも使わせたり、廃止したりした場合、女性は著しく働きづらくなる。あるいは、外出でさえままならなくなるのかもしれない。
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