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運動に踏みにじられたレズビアン。

3.違いすぎるLとGの境遇。

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「LGBT」の「L」は忘れられようとしている。

LGBT運動において、「同性愛者」とはゲイのことであり、「トランスジェンダー」とは女装家のことと言っても過言ではない。今の運動は、「ゲイと女装家の権利運動」なのだ。

レズビアンたちは、女性として生きる苦労を二重に背負わされてきた。だが、そのような問題にゲイ活動家も女装家も関心を持っていない。挙句、女性スペースに女装家を入れろとか、代理母出産で子供を産ませろとかと主張する。反対する女性当事者の声は抹殺され、時には、ネットリンチにさえ発展してきた。

あるレズビアンはこうツイートした。

「『LGBT』の同性婚や子を持つ権利がクローズアップされて。そのための法整備が始まってる。女のことなんか、それ以外の人の権利の後回し、二の次、踏み台にしかされないんだよ、この国の政治では。女に優しかったはずの、政治家や政党の『LGBT』という名の男権運動を目の前にした豹変振り、見てきたでしょう。」

実際、同じ同性愛者でも、「L」と「G」の間には大きな隔たりがある。

レズビアンとゲイが交わることは少ない。絶対的に接点がない。まるで並行世界の人のようだ。そもそも、この二つは性的指向が違う――正反対である。それは、同性愛者と異性愛者のように違うことでもある。

当然、ゲイたちにとって、女性が直面する問題など無縁だ。

レズビアンとゲイに見られる違いを書き出せば、およそ次のようになる。

【1:賃金格差/結婚への圧力】

今まで述べた通り、女性の平均賃金は男性の半分程度だ。なので、ゲイカップルとは違い、レズビアンカップルは生活が厳しくなる傾向にある。特に、パートナーが倒れたときのことなどを考えると不安が多い。

それどころか、二、三十年ほど前までは、「結婚せずに、どうやって生きてゆくの?」「どうやって食べてゆくの?」という言葉をかけられることも珍しくなかったという。

女性だけで生活することは今も難しい。数十年前はさらに難しかった。女性労働者は「結婚までの腰かけ」とされており、長期雇用を前提としていなかった。

一九八五年(昭和六十年)には男女雇用機会均等法が成立し、男女を均等に雇用する「努力」が事業主に定められる。だが、基幹的事業に関わったり、昇進があったりする「総合職」から女性は遠ざけられた。

男女に賃金格差があるのは、女性が働かなくなる・働けなくなることを前提としている――つまり、妊娠・出産して子供を育てることを。それが女性には当然とされてきたのだ。

当然、「孫の姿を見せてほしい」という圧力はゲイにもある。しかし、女性はその比ではない。結婚や出産への圧力は、賃金の格差によって既に向けられている。子供を産む性であることは、出産し、誰かの家を継ぐことへの期待が寄せられることでもあるのだ。

このことについて、レズビアン運動の先駆者・掛札悠子氏は著書でこう書く。

「『結婚』をするかしないか、だれと『結婚』するかといった選択の権利が女性にも認められるようになってきたのはごく近年のことであり、それまで女性は『家』の意志に逆らうことなどできなかった。逆らうことはできなかったし、女にそうしたことを決定できる能力があるなどとは考えられなかったのだ。かくしてレズビアンとして生きることとはおろか、女一人で生きてゆくことすら認められず、女にそうしたことが可能だとも思われていなかった。」掛札悠子『「レズビアン」である、ということ』

しかし、このような事情はゲイから見えづらい。そもそも、彼らは男性にしか興味がない。

ゲイの多くは、一人で生きてゆくのに充分すぎるほどの賃金を得ている。保守的なゲイの中からは、「女性は男性に養ってもらえるのだからフェミニズムは不要だ」という声さえ聞こえることもある。

【2:経験人数の差】

ゲイの性交経験人数は一生で五百人程度と言われる。

言うまでもなく、レズビアンたちには、このような節操のなさはない。

女性当事者からは、生活が楽になることを望み、国制パートナーシップや同性婚を求める声が強い。

一方で男性当事者の中には、「コミュニティが壊れる」ことを危惧して、国制パートナーシップや同性婚に反対する声が聞こえる。すなわち、そのような制度が生まれ、「貞操義務」が生まれることにより、自由に乱交できなくなったり、離婚や不倫に関する訴訟が頻発したりして、ゲイ゠コミュニティが壊れるのではないか――というのだ。

【3:レズビアンの数が「少ない」と思われている】

「レズビアンの数は少ない」と思っているゲイは多い。それどころか、「レズビアンはゲイより少ない」と社会的に思われている可能性さえある。

二〇一三年に日本で行なわれた調査では、ゲイは4.9%、レズビアンは7.1%だった――レズビアンの方が多い。それなのに「少ない」と思われているのには以下の理由がある。

まず、コミュニティの規模が違う。

ハッテン場やゲイバーなど、ゲイ゠コミュニティは戦前から確立されていた。男性の資金力や性慾が推進源だったことは言うまでもない。

一方、レズビアン゠コミュニティは八〇年代から九〇年代にかけて作られ始めた。しかし、「レズビアン」を自称する男たちの手で破壊されてしまう。(その傍ら、ゲイ゠コミュニティが女性の手で破壊されたという話は聞かない。)

加えて、両性愛者の女性には、男性と一緒になる人が多い――結婚への圧力や賃金格差、子供を産みたいという思いなどから。結果、男性とは違い、コミュニティを構成する両性愛者が減ってしまうのではないか。

ちなみに、ゲイに比べてレズビアンが少ないということは、学術書などにも長いあいだ書かれていた。

一九九三年――同性愛は疾患ではないとWHOは公式見解を出す。それまでは、精神疾患だと世界的に考えられていたのだ。その「疾患」の基準とは、「同性にを持つこと」である。これに照らし合わせれば、問題となるのは圧倒的にゲイだ。それゆえ、「女性の同性愛は少ない」と言われていた。

そう考えれば、レズビアンの記録が日本にも少ないのも当然だろう。日本の同性愛の記録とは、性描写の記録と言っても差し支えない。それは、男性たちがいかに性慾を充たしてきたかという記録でもあるのだ。

【4:男性からの淫猥なイメージ】

現実のレズビアンの居場所はなかった一方、男性向けのレズビアンポルノは盛んに作られてきた。

それらのポルノは、レズビアンへの偏見を助長させてきた。それどころか、「レズビアン=エロいもの」という認識を男たちに植え付けさせもした。「レズビアン」を自称する男たちの変態行為の原因にも、これらのポルノの影響はあるだろう。

男性向けレズビアンポルノの中では、男性器を模した物をつけた女性の描写も多い――消費者にとって、男性器のないセックスを想像できなかったり、そのような物がなければ昂奮を掻き立てられなかったりするからだろう。実際は、そのような物を使うレズビアンは僅かだと思われる。ましてや、「男役」「女役」というものが明確にあるとも限らない。

レズビアンがカミングアウトしたとき、性的な好奇心や偏見に基づく言葉を寄せられることも多いという。さらには、男性向けポルノの影響で、長いあいだ自分を同性愛者だと認められなかった女性もいる。

そうでなくとも、カミングアウトに伴うリスクはレズビアンの方が大きい。何しろ、第三者にはバラされたくない秘密を握られるのだ。カミングアウトしたレズビアンの中には、「レズを治してやる」と言われて暴行された者もいる。

【5:男性は「性的逸脱」が認められやすい】

男性には変態が多い。それゆえか、性的指向について悩んだというゲイには「あまり」出会わない。

どちらかと言えば、このような悩みは女性当事者に多いと感じる。レズビアンの中には、思春期の頃に同性愛について調べ、「変態性欲」「精神疾患」という文字を目にしてショックを受けた人もいる。

だが、同性愛が「精神疾患」とされてきたことについてゲイたちは冷淡だ。「別に、殺されたり殴られたりするわけじゃないし」と言い切ったゲイもいる。(実際、そのような理由で精神病院へ連れてゆかれる者は少なかっただろう。)

しかし、貞淑であれ従順であれと女性は教えられてきた。女性は、男性を好きになって当然であり、結婚して子供を産むものと考えられてきた。結果、女性当事者は男性より異端視されやすい。しかも、ポルノが作ってきた変態的イメージもある。それゆえ、「精神疾患」という後ろ指は大きかったのではないだろうか。

男性同士に比べれば、女性同士がスキンシップすることは社会的に抵抗が少ない。その延長線上にある「百合」的な現象は比較的受け入れられてきた。しかしそれは「仮性」のものであり、男性と結ばれるまでの一過性のものであると見られてきたのだ。そうではない者は、「男性のような欲望を女性に対して持つ女性」とさえ考えられていた。

レズビアンとゲイの差異は偽装結婚にも見られる。

ゲイの中には、女性と結婚しつつ男性と浮気する者も多い。そんな夫の行動に悩まされる女性もいる。しかし、経済的な理由などから別れられないという。

だが、レズビアンの場合はそうはいかない。夫は泣き寝入りなどしないはずだ。
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