女装男子は百合乙女の夢を見るか? ✿【男の娘の女子校生活】学園一の美少女に付きまとわれて幼なじみの貞操が危なくなった。

千石杏香

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第三章 紅に深く染みにし心かも

第九話 「女子同士」で意気投合した

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それから四人は中庭へ移動した。

木陰のベンチに坐る。

周囲に人はおらず、校舎の喧騒は遠い。

紅い七宝の星が一冴の目の前には輝いている。

「えーっと、つまり筆坂さんはミリオタってこと?」

「うん。どちらかというと共産趣味者。」

菊花が口を挟む。

「共産主義者――?」

「共産主義者じゃない――共産趣味者。つまりは、共産主義的なものが好きな人のこと。特に、私はソ連軍が好きなんだけどね。」

梨恵は不思議そうな顔をする。

「何でソ連軍? アメリカ軍じゃ駄目なん?」

「アメリカ軍――って。」紅子は鼻で笑う。「ハンバーガー喰いながらジープ乗り回してる連中じゃん。そんなのには何の魅力も感じないな。」

「はあ。」

「けれど分かるかも」と一冴は言った。「ソ連って独特の魅力あるよね。ヨーロッパなのにヨーロッパらしくないところとか、貧乏なのに頑張ってアメリカと張り合ったところとか。」

「そーそれ。やっぱ、豊かな物資で楽々敵を制圧するような軍隊は魅力がないわけ。貧乏なのにみんなで一つのことを成し遂げようとした――そんな魅力がソ連にはあるの。」

梨恵は首をかしげる。

「うーん。分かるやーな、分からんやーな。」

「そういう上原さんは――ミリオタ?」

何と答えるべきか一冴は少し迷った。

「あー、私は、どちらかというとニワカかな。歴史が好きで色々とかじった感じ――戦車とか戦鬪機とか。」

「どこの国が好きなの?」

「戦車なら独逸ドイツとソ連かな。戦鬪機なら独逸と日本。メッサーシュミットMe262がコピーされて『橘花きっか』になった話なんか好き。」

「めっちゃ分かるー! 大日本帝国のジェット戦鬪機でしょ? メッサーシュミットの設計図を独逸ドイツから潜水艦で運んできたんだっけ。」

「そう、そう。輸送船が途中で撃沈されてほとんど情報がないのに完成させたの。」

「マジすごくない? 当時の日本も捨てたもんじゃなかったんだねえ。」

「ほんとすごいよねえ。けど、初めて飛んだのが終戦の一週間前なのが玉にキズ的な?」

「それな! メッサーシュミットMe262を見た米軍は、『何だあれは、速いぞ! 俺たちが止まってるみたいだ』ってったんだって。――エノラ・ゲイの搭乗員に言わせたかったくない?」

「分かるー。けど、それだったら『震電』も――」

それから、旧日本軍の試作戦鬪機について一冴と紅子はしばらく語り合った。そんな二人を前に、菊花も梨恵もぽかんとする。

一通り語り終えたあと、紅子は満面の笑みとなる。

「いやあ――それにしても、ほんと感動! こういう話ができる女の子っていないから!」

思わずひやりとした。

「う――うん。そうだね。」

「私なんか随分と変わり者あつかいされたよ。大人の中には、ソ連が何したか知ってるかって怒る人もいたし――。だから、上原さんと会えてよかった!」

「私も会えてよかった。」

心の中で一冴は首をかしげる。

――変わり者「あつかい」?

とりあえず、それは置いておくこととした。

「それで――実は、筆坂さんに相談したいことがあるんだけど――」

それから、文藝部での活動や、書こうとしている作品について説明する。ただし、「百合」であるとは言いづらかったので、「女の子同士の友情」と言った。

「それで――イメージが全く湧かなくって。何か――そういうインスパイアの湧きそうな話とかってないかな?」

「うーん。」紅子は考え込む。「祖国大戦争末期の伯林ベルリンで――女の子同士の友情か。参考になりそうな本だったら、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』とかかな。」

「スベ――?」

「スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ。」

紅子は再び考え込む。

「あとは――『レーニングラード』っていう映画が、上原さんの作ろうとしてるものに近い感じ。私のパソコンにダウンロードしてあるけど、観てみる?」

「うん。――観てみたい!」

「よかった。」

言ったあと、紅子は気まずそうな顔となる。

「ただ――観るんだったら、上原さんの部屋でいい? その――うちの部屋には骨壺があるからさ。ばたばた人が死ぬ映画を骨壺のある部屋で観るってのも、気分がよくないっていうか。」

「あー、なるほど。」

梨恵が口をはさんだ。

「そんなら、鑑賞会開かあや。いちごちゃんとうちは同じ部屋だけん。どうせだったら、みんなで一緒に観た方がええが? その映画、うちも興味あるに。」

一冴はうなづく。

「それもそうだね。」

菊花にも梨恵は声をかける。

「菊花ちゃんは?」

「あ――うん。――私も。」

紅子が何かに気づく。

「けれど、それだったら、土日の方がよくない? その映画、二時間もあるし。風呂や夕食の時間で中断するのも勿体もったいないし。」

白山女子寮は、十八時が門限、十九時に夕食、二十一時に風呂、二十二時に消灯である。確かに、二時間もまたぐ時間はない。

「ほんになー」と梨恵は言う。「じゃあ、明日とかどうかえ?」

その言葉に、三人とも異論はなかった。
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