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これもある意味、千の夜とひとつの朝

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 【 萌え萌えきゅん♡‬】の練習の後は、のんびりと目の前のメイドロリ子(アリシア)とコーヒーを飲んでいる。

「やっぱ何か食べ物欲しくないか?せめてサンドイッチとかさ?」
 マサキはテーブルに置いてあるメニューをおもむろに取ってそう言った。

「う~ん……そうですね……やっぱり頼みますですか?」

「昨日見てたけど、あれ結構量多そうだったからさ、一つ頼んで分けないか?それならメイドロリ子も食べれるだろ?」
 (昨日はハムとタマゴのってのだったから違うのにするか……)

「ク、クラタナさん!変な呼び方しないで下さいですっ!」

「だって、メイドロリ子じゃん。他の候補はメイドリ子とかメイドロイド、ん~……アリシアたそ?とかになるんだけど。」
(今更ながら……俺、ネーミングセンス全く無いわ(笑)マジ自分でそう思うもん……)

「な、何ですかそれは!却下ですっ!却っ下!!です!」
 アリシアは真っ赤になって必死に抗議をマサキにしたが、実は照れ隠しだったのは言うまでもない。


「ならメイドロリ子だな(笑)んで、サンドイッチ頼むのか?見る?」とメニューをアリシアに渡したが受け取らず、「クラタナさんが変な事言うから忘れてたです!メニューは大丈夫です。何でも食べるですから電話するです。注文はよろしくです。」と言った。

「解った!」
(あれ?今気づいたんだが、ロリ子の話し方って、前世で見てた厨○病の○守に似てないか?!何故、今迄気づかなかったんだろう?口調があんなにキツく無いからかな?)
 
 頬を赤らめたアリシアは、マサキに気付かれまいと、そそくさ電話をフロントに掛けて、昨日と同じくマサキに受話器を手渡した。

「あ、おはようございます。……はい。えっと、ルームサービスお願いしたいんですけど。…………はい。え~、BLTサンドを一つ、レモンパイを一つ、グランベリーのタルトを2つお願いします。あ、今朝はコーヒーの補充ありがとうございました。……あ、はい。……いえいえ。……あ、そうなんですか。……はい。……はい。よろしくお願いします。」
 
マサキは、メニューとアリシアを交互に見て注文をしていたのだが、見る見る、唯でさえ大きなアリシアの瞳が見開かれて行く様子を見ていた。

「ク、クラタナさん!また、ど、ど~してそんなに頼むですかっ!」
 両腕を曲げて開き、手をグーにして如何にも「怒ってます!」的なポーズで抗議して来るアリシアであったが、何処からどう見ても怒ってる感じがしない。
(ナチュラルで本当にこんなポーズする娘が居るとは……やっぱ異世界なんだよな……)
 と変な所でマサキは再確認をしていた。

「いや、メイドロリ子食べるかなって。うん。」
 受話器を戻しメニューをテーブル上に置いて、何事も無かった様に窓際へ移動してマサキはタバコに無詠唱で火をつけた。

「た、食べ物は粗末に出来ないから、た、食べるですよ!」
 上げていた腕を下ろし、胸の前で組んでモジモジ始めたアリシア。

「だから、直ぐ全部食べなくても、食べれなかったら持って帰れば良いだろ?」
「ふぅ~……。」とマサキは窓の外に煙を吐き出しながら言った。

「だーかーら!クラタナさんは、昨日言った私の話を聞いていたですか?出された時に食べるのが一番美味しいです!それに……持って帰って一人で食べても美味しくないですょ~…………」

マサキは振り返って、アリシアの言葉に「ハッ!」として
「そ、そっか、じゃ一緒に食べような!」と言った。

「はいです!」

 窓辺に持って来てある灰皿に、タバコを押し付け火を消してから
「あ、そうだ、ルームサービス来たらまた浴室居ろよ。」

「はいです。」

そう言ってマサキは席を立つと、予めガンベルトを巻いてシリンダーを開き、装填してある弾を確認して「カシャッ!」と手首を振ってシリンダーを填めてからセーフティーを解除した。

 因みに、このやり方はシリンダーの軸が壊れるので、特に弾の重いM500ではやってはいけない行為である。

「良し。」と言った所でチャイムが鳴り、アリシアは浴室へ行って、ドアの開く反対側から返事をした。

「はい。」

「ルームサービスをお持ちしました。」
 静かに廊下からボーイが答える。

「はい。」

 何時もの手順でメインキーを外し隙間から確認する。

「こちらで良かったでしょうか?」
 とボーイは手でジェスチャーをしながら見せてくれた。

 なんと、今回は蓋では無く「ラップ」的な物で覆ってあった。
(学習能力すげぇ!てか気遣いが行き渡ってるな……)

「あ、間違いないです!すぐ開けますね!」
 ボーイ、と言うか、このホテルの教員の高さに慌てて 一旦ドアを閉めてチェーンを外し、ボーイを招き入れた。

「失礼します。」とお辞儀をして、カートを押しボーイは入って来た。

「こちらのテーブルで宜しかったでしょうか?」

ボーイは表情も変えず、視線は下目で変にキョロキョロする事も無く与えられた仕事を黙々とこなしている。

「はい。ラップはそのままで結構ですよ!」

「畏まりました。恐れ入ります。」

 ボーイはバレエでも踊っている様な身のこなしで配膳していた。

ポーカーフェイスを維持して「以上になります。また御用が御座いましたら、お申し付けください。」ボーイはそう言いお辞儀をした。

「ありがとうございます、ここのホテルは凄く気遣いが行き届いてますね!素晴らしいです。」
と言ってマサキはボーイにチップを渡す時、思わずそう口から出た。
 
「恐縮致します。ありがとうございます。昨日(さくじつ)、お客様が誇りよけの蓋をお気になされていた様にお見受けしましたので、本日は、お品が見えた方が良いかと、こちらに致しました。」

「お気遣いありがとうございます。また機会が有れば此方を利用させて貰います!」

「重ね重ね恐縮致します。ではごゆっくり、失礼します。」

ボーイは 無駄のない動きで、音も立てずにカートを押して出ていった。

「メイドロリ子~!もう良いぞ~!」
 浴室に隠れているアリシアに声を掛けた。

 モソッと出て来たアリシアの第一声は
「ク、クラタナさん、何か話が長いです!」
であった。

 (なんだろ、俺今異世界に居るんだよな?仕事の出張とかで来てるんじゃないよな?)
  ふとそんな考えが脳裏を過ぎる。

「どうしたですか?クラタナさんも!ほら!椅子に座って食べるです!」

「う、うん。食べるか。」
(紛うことなきメイドロリ子が目の前に居るもんな……)

「ちょっとアリシア。」

「は、はいです?」
不意に名前で呼ばれたのが不思議だったのか一瞬挙動不審になるアリシア。

「ちょっと俺の頭をチョップしてみてくれない?」

「え?ええ?それは流石に……い、嫌ですよ!」
 アリシアは怪訝そうな顔でそれに答えた。

「良いから!別に仕返しとかしないから頼むよ!」

「えっと……ク、クラタナさん……そう言う趣味……ですか?」
 怪訝そうな表情が、軽蔑に似たものに変わりジト目で話すアリシア。

「ばっ!おまっ!ちっげぇーよっ!そう言う趣味とか違うから!無いから!俺ノーマル!解る?プレーに関してはノーマル!あーゆーオーケー?」
 
あらぬ誤解をアリシアにさせたとマサキ思い、それを否定する為に大袈裟に慌てたマサキであったが、それはそれで逆効果……過ぎたるは及ばざるが如し……である。

「お、オーケー……です。そんなにムキになられると怖いです……」
 アリシアは「クラタナさんなら有り得るかも……」等と変に誤解をしたまま納得してしまった。

「も、もう良いから!大丈夫だから。食べようぜ!因みにレモンパイはメイドロリ子のだからな!」
(そうだよ、チョップなんかされなくも、今、こうやって目の前にアリシアが居るって事が異世界にいる証拠だ。間違いなく前世だったらこう言うシチュは無かったもんな。)

何か考えているマサキを見て、「どうしたですか?サンドイッチ半分どうぞ!です。」
 とアリシアは、わざわざナプキンでサンドイッチを掴んで、そっと渡してくれた。

「ありがと、いや、メイドロリ子は可愛いな!って思ってただけだ!」
(普通にアリシアは良い子だよな。可愛いのは可愛いんだけど、アリシアの場合は性格が可愛いってのがウェイト高いわ。まぁ、見た目も相まってなんだろうけど。)

「ぶほっ!何を突然言うですか!もう良いから食べるですよ!」
と、アリシアは真っ赤になって、下を向いて残りの半分のサンドイッチを食べ始めたのであった



「ところでメイドロリ子さん。」

「はいです。ネーミングセンスの全く無いクラタナさん。」
とアリシアはシレッと返答する。

「ぶふぉ!ちょっ、おまっ!そうだけど!自分でも認めるけどさ……まぁ、良いや、今日~ってどうなるの?スチュアートとかから何か聞いてる?」
(アリシアも言うようになったなぁ……ま、それだけ信頼されてるって事なんだろうな……)

「いやぁ~……そうですね、迎えに来るみたいな事は言ってたです。でも何時に来るとかは聞いてないです。」
 小首を傾げて、空(くう)に視線を彷徨わせてアリシアは答えた。

「今何時?」
(そうね、だいたいね~……)

「八時四十五分です。うん。」

「大体チェックアウトって十時だよな?」

「大抵は……です。」

(そう言えば、アリシアってこんななりで、アホの子っぽいけど(失礼)一応常識ってあるのな……ホテルとか泊まった事あるのかな?てか有るんだろうけど、何か意外だわ……)

「ざっと見て後一時間位か。そう言えば俺途中で寝ちゃったけど何時ぐらいだったんだろう?」

「えっと……五時くらいですよ。はいです。」

(結構話し込んでたんだなぁ……)

「二時間半か……寝たの……通りで眠い筈だわ。メイドロリ子は何時に寝たの?」

「私は~……六時頃?です。」

「マジで?一体何やってたの?」
(俺が五時頃寝たって言ってたけど本当何やってたんだろ?)

「そ、それは……ひ……秘密なのです!です!」
 アリシアは、突然眼を逸らして昨晩の事を思い出すかのように顔を背け、わざとらしく鳴らない口笛を吹いた。

「…………ひ、秘密?……秘密ね。そ、そっかー。解った。(棒読み)」
(てか絶対何かしただろ!その態度!あからさま過ぎるわ!でも……まぁ、解るよ。うんうん。とてもよく解るから俺には聞かないでね。)

「クラタナさんは早起きなのです!私が目を覚ました時は八時二十分でしたから。」

「ほ~……良く正確に憶えてるな。」

「これは訓練の習慣なのです、と言うかクラタナさんはそんなに早く起きて何してたですか?」
 背けた顔をこちらに向き直り聞いてきた。

ギクッ……
(お、思った傍からかよっ!)
「え?何って?は、歯を、み、磨いたり、タ、タバコ、すすす吸ったり、そそそ、それに起きた時俺、コーヒー淹れてたじゃん……(震え声)」

「あ、そう言えばそうでしたです。と言うか、なんでクラタナさん、声震えてるですか?大丈夫ですか?」
 アリシアは小首を傾げて真っ直ぐな瞳でマサキを見て言った。

「うん。大丈~夫。(棒読み)」
(ヤメロ!そんな眼で俺を見るな!そんな真っ直ぐな穢のない瞳で見詰めるな!)

「まぁ良いですけど、これから今日はどうするです?」
アリシアは、あからさまな態度になっている、察して欲しくないマサキの空気を読んで、話を変えた。

「そうだなぁ……一旦チェックアウトして、スチュアートと話をしてみん事にはどうにもならんだろ?」
(た、助かった……変に突っ込まれたらシャレにならなかった……)

「そうですね~。わ、私達は誘導されて来ただけですからねぇ、」
 スチュアートの今後の処遇を危惧して若干困りながらアリシアは言った。

「やっぱそう云う事になるのかなぁ……」
マサキは立ち上がり窓際に行ってタバコに火をつけた。

「表面的に……だとは思うですけど……」
 アリシアは俯きテーブルを見ている。

「まぁ、今更考えても仕方ないよなぁ。もう、なるようにしかならんわ……」
 そう言うと、マサキは大きくタバコを吸って、不安を払う様に外に煙を吐き出した。

「ですねぇ……」
 アリシアはやれやれと云った感じの表情で、マサキの方に視線を動かしてはにかんだ。



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