前世の記憶そのままのオッサンが転生したら

ぬっこさん。

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ゴールを目指すなら……

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 アリシアと談笑していると「コンコン」とノックの音が聞こえた。
 二人は即座に緊張した面持ちになり、アリシアには窓の横に移動する様ハンドサインを送り、マサキは入口のドアが見える、少し離れた所で返事をした。

「はい。」

「おはようございます、私です、スチュアートです。」

 マサキはアリシアに振り返り、眼で「警戒は解くな!」と合図を送ってゆっくりとドアのメインキーを外した。

 隙間から覗くと、外にはスチュアート以外は居らず、アリシアにOKとハンドサインをして警戒を解かせ、チェーンロックを外してからスチュアートを招き入れた。

「おはようございます!昨晩はお楽しみ出来たでしょうか?」
と笑顔で言った。

 マサキは、そんな呑気なスチュアートの様子を見て、少しカチンと来て語尾に少し怒りを混ぜて言い放った。

 「お前、何考えてるんだよ!」
 マサキは窓際に移動して腕を前で組み、窓を背に立っている。

 「いえ、クラタナさんに楽しんで頂こうと思っただけです。」
 一方、スチュアートはそんなマサキにも動じず、両手を後ろで組み落ち着いた口調で話した。

「あんな芝居までしてか?ティナに嘘付いて出てきたんだぞっ!」
 叩いても響かない鐘に、イライラを募らせるマサキの口調は、次第にトーンが下がって行く。

 「下の護衛の者は護衛訓練という事で付けましたし、クラタナさんとティナさんには、緊急招集時の対応という事で前々から予定はしていました。」
とスチュアートは当たり前の様に、抑揚のない口調で言った。

「は?」
(いまなんて?)

 予想外のスチュアートの発言に一瞬思考回路が止まり、動きまで止まるマサキ。

「いえ、だから訓練ですよ。緊急時に備えての。」
 まるで小学生に勉強を教える様な口調で、スチュアートは話していた。

「訓……練……だと……?……いや、まぁ、それは解った。ならこの状況はどう説明するんだよ。」
(何か納得出来んが、納得しよう……)

「はい。ただ呼ばれてギルドに行くだけでは、まだ正式な所属になっていないのにも関わらず、実施訓練に巻き込んでしまったクラタナさんには申し訳ないと思い、コレも兼ねてから予定はされていたのですが、慰問休暇的な意味合いで、本日は休日にして、アリシアを派遣しました。クラタナさんの現在の状況は色々と各所から伺っており、つい先日もジェニファーからクラタナさんの近況を伺いました。アリシアに関しても、他の隊員からの情報や、今迄の彼女の行動から総合的に考えた結果、今回の任務には一番の適任だとなった次第です。」
そうスチュアートは一気に説明をした。

「……なにそれ……そうならそうと、先に言ってくれれば良かったのに。」

 マサキは不貞腐れる様に窓の外に視線を移して、ズボンのポケットからタバコを取り出して火をつけた。

「いえ、言ってしまえば訓練になりませんから。」
 スチュアートは先程から体勢を崩さずに、マサキの一挙一動を観察していた。

「いや、そうだけど。そうなんだけどさ……ふぅ~……。」
(何かがおかしい……昨日アリシアと話しててもこんな感じに陥ったよな……)

「幾ら訓練とか命令でも、常識的に考えて流石に夜遅く女の子を男の部屋に向かわせるのは、如何なものかと思うぞ!何も無かったから良かったものの。」

 とマサキはタバコを咥えて、アリシアの方に視線を移すと、困り顔でこちらを見て笑った。

「まぁ、そう言った見方も有りますが私は、彼女に話があるみたいだから行けと命令しただけです。事前の情報で【 クラタナさんの好みに合わせて】彼女にはメイド服を着てもらいましたが。」
(おい……そこを強調するなし……間違いでは無いが……)

「いや、そうかも知れんけと、と言うか、俺はアリシアに話があるなんて一言も言ってないぞ。もし俺が状況に流されて間違いを起して、アリシアを襲ったりしたらどう責任取るつもりだったんだ?」

 マサキは、アリシアに同意を求める様に、煙を吐きながら向いた。

「…………一応、その可能性も考慮しての彼女を派遣した次第です。私にとっては大切な部下ですから、幾ら命令をするにしても無理強いはしませんし、仮に、仮にですよ、クラタナさんが彼女の生命を脅かすような事があっても、彼女なら対応出来ると踏んでましたから、今回の任務に彼女を抜擢した訳です。」

「………………。何だそれ…………解ったようなわからないような……スチュアートの大切ってのは〘駒〙としての大切って感じがするんだけど……」
(アリシアも、言葉にして言われてなくても、もしもの想定をして来たって事か。もしかして、俺、丸め込まれてるのかな?なんと言うか……暖簾に腕押し?的な感覚するんだけど……何か腑に落ちない。)

「いや、まぁ…………そう言う事なら、スチュアートからティナにちゃんと後で説明してくれよ!俺は知らんからな!」
(ここで余り反論すると、逆にアリシアを傷付けてしまうから、一旦引いておこう。)

 吐き捨てる様にマサキは言うと、窓際に置いてある灰皿に乱暴にタバコの火を消した。

「了解しました。ではそろそろチェックアウトの時間なので下に降りましょう。」
 スチュアートはチラッと腕時計みてそう言った。

 連られて行きそうになったマサキは、アリシアの着替えの事を思い出して、スチュアートに問いかけた。
「分かった。あ!ちょい待ち!アリシアはこの格好なのか?」

「あ!そう言えば忘れてました!着替えが必要なんですよね!」
 ポンッ!と手を打ちシレッと言った。

「おい……」
(お前、昨日アリシアの服持って帰ったんだろ?現状でメイド服着てるのおかしいと思わなかったのか?)

「ええ~……ふ、副隊長……私の服、忘れたですかぁ~……!」

 アリシアは絶望的な表情でスチュアートに縋る(すがる)が希望の無い言葉が待っていた。

「あ、ああ……す、すまない。忘れたので直ぐ用意させる。申し訳ないが替えが来る迄、暫くその格好で居てくれ。」

 それを聞くや否や、アリシアは床に膝から崩れ落た。

「いや……ま、俺はお付のメイドっぽくて良いんだけど。つか、コレを制服にしたら良くないか?」
(フォローにすらなって無い(笑)自分でもマジ笑うわ……)

「な、何を言ってるですか!こんな格好で部屋の外に出たく無いですよ!」
 
 泣きそうな顔で抗議をするアリシアだったが、その抗議が受け入れられない事は、当の本人も承知していたのであった。

「堂々としてれば良いんじゃ無いのか?取り敢えず喋んないでさ。凛とした表情で、黙って着いてくればきっと大丈夫だって!」
(この際、いっその事丸め込んでメイド道を歩ませるかな……)

「そうだ、アリシア、堂々とだぞ!」

「いや、お前が言うなって……」
(原因はお前だ!お前が便乗するない!)

「では、私は先に降りてチェックアウトを済ましてから、護衛の者にアリシアの服を用意させますので!」
と小走りで部屋を後にした。

「あいつ先に行っちゃったけど、鍵どうすんだ?チェックアウトの時、部屋の鍵、要るだろ……汗」

「で、ですねぇ……」




ロビーに降りると、焦りながらスチュアートがこちらへやって来て開口一番
「ク、クラタナさん!部屋の鍵はお持ちでしょうか?」
と言った。

「ああ、コレだろ?」
(それ見た事か!言わんこっちゃない!)

「ありがとうございます、これが無いとチェックアウト出来なかったもんで。」

「そらそーだわ……」

「少しラウンジで待っていて下さい。アリシア、お前も一緒に付いて行け。」

「了解。」

「メイドロリ子ってさ、スイッチ変わると普通の話し方になるのな。」

 マサキとアリシアは横に並んでスチュアートのチェックアウトの様子をぼんやり見ていた。

「ええ?そうですかねぇ?じ、自分では解らないのです。」
とアリシアは頭は動かさずに、視線だけを此方に向けて話した。

 そんな事を話していたら、チェックアウトの精算が終わりスチュアートが戻って来た。

「お待たせしました。では行きましょうか?」

「え?何処に?」

「クラタナさんが宿泊してるホテルに決まってるじゃないですか!ティナさんに説明も有りますし。」

「いや、だって、まだアリシアの替えの服持って来て無いじゃん?」

 マサキとアリシアはお互い顔を見合わせる。

「アリシアはここで帰しますよ。」

「なんで?」

「なんで?と、言われましても、私がクラタナさんを迎えに来る所までが、彼女の任務でしたから。」
(えっ?)

「いやいやそう言う事じゃなくてさ。」
(あれ?)

「他にどんな理由が?」
(プツ…………)

 それを聞いた途端、流石に幾ら自分の為とは言え、昨日から強引なやり方で不信感を募らせていたマサキは堪忍の尾が切れた。

「お前ちょっとさ、いい加減にしろよ!任務とか訓練とかそういうのから一旦離れろよ!感情論じゃ無いって事は理解してるが、今の状況で、幾らお前がティナに説明した所で、ティナとアリシアの確執が生まれる状況なんだぞ!そこん所を理解してるのか?そんな状況で、これからモアに乗る練習とか、お互い顔を会わす機会が増えるのに、お前は二人に気まずい空気で乗らせるつもりなのか?それも任務だから仕方無いとか言うなら、俺は今回の件から降ろさせてもらうぞ!」

「わ、解りました。そこまでクラタナさんがそう仰るのなら……アリシアの支度が出来たら、という事で……」

 軍人の顔をしていたスチュアートの表情が、一瞬だけマサキの放った「降ろさせてもらう」に反応を示し、あからさまに譲歩する時の様な表情で話した。

「そう仰るのなら、じゃねぇだろ?お前の中で、何か納得出来ないんなら言えよ!今言ってみろよ!」
(あ~。もうダメだ。なるべく穏便に済ませようとしたけど無理だ。多分エイドリアンさんが言いたい事はこの事だな。)

「お、お言葉ですが、言わせてもらいますと、我々は常に脅威から国や街を護る仕事に就いており、日頃から訓練をしている訳で、嫌な事でも出来る様な精神力を必要とされています。その為、訓練や、任務と云った場合は一般的な感情は排除されます。そうでないとやっていけない仕事ですから。なので、好き嫌い、その場の空気の善し悪し等、戦場では判断を狂わす原因だと思っています。」
 
 直立不動でマサキから目を逸らさず、スチュアートは尤(もっと)もらしい事を述べた。

  そんな上辺ったらしい体(てい)はどうでもいいと云うように、小さくため息を吐き(つき)、面倒くさそうに言葉を吐いた。
「…………んで、様するに、俺は甘いって言いたいんだろ?」
(この人考え方がガチガチだわ……どうすっかな……)

 マサキはわざとらしく態度を崩して、上から見るような視線をスチュアートに向けて話した。

 反射的に視線を逸らしたスチュアートは「いえ……そういう意味では…………。」と口篭りながら床に視線を落とす。

「確かにな、お前から見れば俺は甘いかもしれない。でもな、そんな甘く思ってる奴に負けたのはお前だぞ!」
(さて、吉と出るか凶と出るか……)

「くっ…………!」

 落して居た視線が一瞬で怒りに変わり、マサキへ正面から殺意を表す。
 そして図星を突かれたスチュアートの顔は紅く染まって行き、全身に殺気じみた緊張感を漲らせ(みなぎ)怒りのボルテージが一気に上がった。

「どうだ?悔しいだろ?そんな甘っチョロい奴に、お前はこれからモアの乗り方を教わる事になるんだぞ!あ?何か言ってみろよ?」
(流石にここ迄言えばいいかな?もう怒ってるし。)

「…………い、いえ……。」
 
 ブルブルと小刻みに震え、怒りの沸点が近いスチュアートを見て、アリシアは咄嗟に前へ出ようとしたが、マサキに無言で制されて動く事が出来なかった。

「今の俺とお前は、これで敵対関係だ、形は違うにしろ、これと同じ様な状況になるかも知れんアリシアとティナに、任務だから我慢しろと言ってお前はやらせるのか?」
 マサキは射貫くようにスチュアートの眼を見て話した。

「あ………………い、いえ…………」
 マサキの言いたい事を理解したスチュアートは、強ばらせていた全身の力を抜き、怒りの表情から、納得した表情に変わって行った。

「……俺もわざと怒らせるような言い方をして悪かったな。でも、こうでもしないと、さっきのお前には解って貰えないと思ったんだ。」
 マサキもスチュアートの態度の変化を察して普段の口調に戻り、申し訳無さそうにスチュアートに謝罪した。

 一段落した所で、マサキはラウンジに置かれている、座り心地の良さそうなソファーにドカッと腰を降ろし、タバコに火をつけて、昨日からのスチュアートに対する不信感と共に大きく煙を吐き出した。

 そんな光景を、横目で見て即座に視線を戻し、スチュアートは考える様に目を伏せて
「い、いえ…………よく……理解しました。」
と絞り出す様に言葉を紡いだ。

 オロオロしながら二人の成り行きを見ていたアリシアは、どうにかこの場が収まった事に対して安堵のため息を吐き、ラウンジの床にペタンと座り込んでしまった。

 緊張の解けた表情でマサキは話し始める。

「多分、スチュアートは、さっきみたいな状況でも、任務と納得して、文句も言わず黙って俺に教えられるんだと思う。お前はそれだけ強い精神力の持ち主だと……でもな、心に負荷を掛けて教わるより、その負荷が無い方が普通に考えて効率的だろ?ゴールを目指すのに、障害物が有るのと無いのとじゃ全然違うのと同じだって。【楽に】【早く】ゴールを目指すなら、その障害物を取り除いたり、障害になりそうな物がコースに入って来ないように、走る前に準備しなきゃ。言ってる意味解るよな。」
(俺、今めっちゃ良い事言ってるよな!(笑)

 マサキは眼でスチュアートとアリシアにソファーに座るよう促し、タバコの煙で輪っかを作っていた。

「はい。」
 スチュアートはマサキを真っ直ぐ見て、その言葉を自問自答する様に頷いた。

「まぁ、それも解って貰えた事でさっきも言ったように、ティナには君から説明して貰おう!」
(良し、これでツモった!スチュアートよ、今回も俺の勝ちだ!)

 先程から煙の輪っかが気に入ったのか、アリシアは嬉しそうな顔をして煙の行方を眼で追って居たので「ぽぽぽぽっ!」と連続で輪っかを作ってやると、みるみる笑顔になった。

  逆に、短時間の間に、二度もドン底に落とされたスチュアートは、背景に縦線が入る様なドヨーンとした表情をして
「っ!………………ク、クラタナさん…………わ、私は一体どうすれば良いのでしょう…………(滝汗)」と言ってマサキにすがるより術は無かった。

 そんなスチュアートを見てマサキは
「スチュアート君!ガ・ン・バ♡だよぉ~!」
と喜び溢れながら、煙の輪っかをプレゼントして谷底に突き落とし、追い討ちを掛けるようにアリシアからも
「ふ、副隊長!頑張って下さい!です。」
と声を掛けられた。

「いや、メイドロリ子も頑張れよ……一応渦中の人じゃねーかよ……」

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