前世の記憶そのままのオッサンが転生したら

ぬっこさん。

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第117話 それぞれの日常の出来事

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翌日は、午前中にスチュワートさんと模擬戦の報告書の作成をして昼食を挟み、午後からはシャーロットとモアの座談会、若しくはアリシアと魔法の練習を行い、二人がアラートシフトに入っている時はハンガーに行って新型モアの調整、と云うのが最近のマサキとティナの行動パターンである。

 本日、シャーロットとアリシアの二人は、アラートのシフトが入っていたのでティナとハンガーにやってきたのであった。
勿論、新型モアの調整を行いに、である。

 新型モアは、既に外装や兵装等も取り付けられており、ワイヤーでベンチに固定され、ベンチテスト最終試験段階の最大魔石の出力試験中であった。
 
 「こんにちは!」
 
 物々しい警備の中、そんな事も意に介さず、マサキとティナは、既に顔馴染みになっている作業員達に挨拶をしながら[厳重区画]になりつつある新型モアが置いてある場所に歩を進めたのであった。

 「おお、今日はこっちかい?」

 フランクのオッサンが、ディスプレイ作業の手を止め視線をこちらに向けるや否やそう声を掛けてきたのである。

 「お疲れ様です。今日はシャーロットもアリシアもアラート勤務なので午後からはこっちです。」

 「そうか、なら、ビッチリ今日は付き合って貰うから覚悟せいよ!」

 「……は、はい……」

 それを聞いたマサキは、ティナに助けを求める様に視線を送ると、目を瞑り「やれやれ、諦めろ」と云った感じにジェスチャーで応えたのであった。

 この新型モアなのだが、一応型式番号として700型NX-Bと云う型番が与えられていた。
 意味合い的には700N型の後継機であり、開発ナンバーの「X」に、複座型を意味する「B」が付くという何とも安直な型式番号である。
 今後、正式にロールアウトの兵隊に供給されるプロダクションモデルは、単座型のA型になる予定らしいのだが、この複座型は自分達の為という訳ではなく、偵察、哨戒等の用途を見越しての事らしいのであった。

 「お前さんのお披露目に合わせて、こいつも間に合わさんと行けんからのぅ!」

 フランクは機首をバンバンと装甲板を叩きながらそう言ったのである。

 「何故、俺のスキルのお披露目に間に合わさ無いと行けないんですか?
今回の目的はスキルの方なんだから、モアは別の機会にすればいいのに……と思うんですけど。」
 
 「なら、聞くが、一旦お前さんの住んどる町に戻って[モアの新型お披露目だから来い]と言われて直ぐ来るかい?」

 「いや、それ無理!てか面倒臭いっす!それに新型モアは余り自分等には関係ないと言うか……開発は手伝ってますけど、認定式が終わった後、それに乗ってアラート任務等の予定は無いので。」

 「ふむ。まぁ、そういう事にしといてやろう。」

  (なんだ?なんか含みのある言い方だな……)
 
 「まぁ、今のは例えで本当の意味は別の所にあるがの。」

 「別のとは?」

 「普通に考えても見てみぃ、各国主要人、高スキル持ちが一同に会するなんて滅多に無いでの、それぞれ忙しい中、時間を調整して来るからの、度々は無いんじゃよ。
 お前さんの、新スキルと最新鋭機の組み合わせで、新型モアのパフォーマンスってのもあるんじゃ。」

 「あ~……なるほど。」
 (ロリ子も言ってたよな……俺のスキルと新型モアでどんな機動力になるのか気になる、って。)
 
 「今回はチャンスだからの、お前さんのスキルと新型モアのお披露目を一度に済ませば、事も楽だでの。
 まぁ、実際はギルドの立場やら政治的な意味合いが大きいんじゃが。」

  それを聞いたマサキは、以前ジミさんから言われた言葉を思い出し、少しばかりギルドに対して不信感を感じたのであった。
 
 「言っとくけど、政治的と言うのは新型モアの事じゃからの!第六世代の抑止力としての。」

  フランクは何かを感じ取ったマサキに対してそうフォローしたのであったが、一度感じた不信感をマサキはそうそう簡単に拭え無かったのだった。

 「今日は表で試験するで準備するから、暫く待っととくれ!」

 「解りました!ならハンガーの外で待機してますんで、準備が整ったら声をかけてください!」

 「分かった!」

  フランクはそう言うと急ぎ足でモアの元へ駆け寄り、他の作業員達に指示を出したのだった。

 「今日は外でやるんだね!」

 「みたいだな。」

 「何をやるんだろう?ちゃんと動くか?的な事かな?」
 
 「さぁ?でも、一応は普通に動くのは動くんじゃないのか?
 まぁ、俺らは兵隊から与えられたプログラムに沿って動かせば良いだけだろ?多分、耐久テストのデータ取りとか、そんな感じじゃ無いのかな?。」

 「なら、久しぶりにマサキの、頭おかしい運転に乗らないと行けない訳ね……はぁ……」

 「ぶふぉ!頭おかしいは余計だわ!」 

 「だってそうじゃない!」

 「いやいや、その頭おかしい運転に着いてこられるティナも、相当のもんだと思うけど……」

 「心外だなぁ……はぁ……でも、そうなっちゃうのかな?」
 
 「まぁ、そうなるだろうな。
 片や「頭おかしいミジンコオッサン」で、もう片方は頭おかしい「美少女」の組み合わせって認識だろうなぁ(笑)
 全く「混ぜるな危険」だよwww」

 マサキとティナは、待ち時間に他愛の無い世間話で時間を潰していたのであった。



ロードランドより百㌔程西に位置するヤストーツク地方のズドルイと言う寂れた寒村で、部屋の窓からまだ明けない、鉛色に一面覆われた空を見詰めて一人の少女が呟いた。

「はぁ……今日も寒くなりそぉだなぁ……」

 その少女の名前は『デイジー』
 今年で10歳になる、色白で何処にでも居るような黒髪の編み込みがトレードマークの田舎娘である。
 お世辞にも裕福な身なりとは言い難い、質素な麻の長袖ワンピースに前掛けをして、家の手伝いをするのが日課になっているのであった。
 基本的にこの時代、と云うよりもこの世界に於いて、若者は家計を助ける貴重な労働力と云うのが一般的な位置付けであった。

「ほら、デイジー。寒いからこれ着て行っておいで。その間に私は食事の準備をしてるから。」
 
 その男性は右脚を引き摺りながら、その少女に上着を渡したのである。

「ありがとう!じゃ行ってくるね!」
 
 デイジーはニコッと笑い、寒さでかじかんだ小さな手を擦りながら家畜小屋へ足を向けた。

 その男は、この家のあるじであり名はルドルフと言う。
 そして、五年前に行き倒れていたデイジーを助けた者であった。

 昔は冒険を生業なりわいにしていたのだが、魔獣との戦闘の際、脚に致命傷を負った為に後遺症が残り、冒険が出来なくなったのを期に故郷である、このズルドイへ戻り農業を営みながら生活を送っているのである。

 冒険者の頃はBランクで、仲間と共に各地を転々と周りながら幾つ物クエストをこなし、魔獣を狩っており、知名度は低いながらもベテランの枠に入る実力があったのだが、運悪くその日はSランク指定されているアイスドラゴンと相見える事になってしまったのであった。

 それなりのベテランが故に、実力以上を相手にする筈も無く、即離脱をしようと試みた矢先に、先制攻撃でアタッカーを始め、他の仲間も氷漬けにされてしまい、反射的に岩陰に身を隠したルドルフ以外パーティーは全滅してしまったのである。
 
 そして、ドラゴンが去った後に、ギルドからアイスドラゴン討伐依頼を請けていたA級パーティーが訪れ、満身創痍のルドルフの治癒して何とか生き延びたのであった。

「助けられた」

 確かにルドルフはこの時、上級パーティーに命を救われたのは事実である。
 そして、その後 デイジー(仮)の命を救ったのだが、言い方を変えると《幼女を拾った》とも言えるのであった。

 「幼女を拾う」
  
 前世日本では、絶対に口に出来ないパワーワードである(笑)

 「俺さぁ、昨日幼女拾っちゃってさぁ!」等と言ってみたいと思ってはいけない。駄目!絶対!(笑)

 だがこの感覚は、成人イコール二十歳と云う情報あっての感覚であり、元服の祝いと言われて居た時代には、男子は十五歳、女子は十四歳で成人になってしまうと云う、恐るべき国民総○リ○ンな歴史があるのだ(爆)

 今で言う中二、中三で成人式を祝う事なのである。
 
 何歳が成人なのかは一先ず置いといて、前世で云う所の、一世紀前の日本は子供を「拾い」「貰い」が日常茶飯事にあった事は事実である。

 何故ならば生活水準が低ければ、明日より今日が大事な訳で、皆生きるのに必死だからである。
 
 所謂、丁稚奉公も「奉公」という名の免罪符を持って、語弊のある言い方になるのだが、公に「間引き」行為を正当化していた時代だからである。

 「拾いっ子」「貰いっ子」はその時代は普通に存在していたのである。良い意味でも悪い意味でも。

「お前は橋の下で拾ったんだよ!」 

 ある一定の世代になると、一度はどこかで耳にする迷?台詞である(笑)

 ただ、この文言は、映画やドラマの台詞でも何でも無く、これは事実、過去に通常運転の日本で行われて居た事でもあったのだ。

 実際の所、五年前にデイジー(仮)を見つけた時のルドルフの心情は「助けた」のか「拾った」のか、それともデイジーに自分を重ね合わせて見えていたのかは解りかねないのである。

 が、明日より今日が大事と云うこの世界では、前世現代の様な「歪んだ感覚」が一般的では無い世界である事を付け足しておきたい。

 どちらにせよ、今のデイジーはルドルフに「助けられた」と思うであろう。
 所謂オーさん曰く、「勝手に助かるもの」だからであった。

 自分がそうであったように。

 上級パーティーはアイスドラゴン討伐をギルドに依頼されて来た所へ偶然自分が居たのである。
 
目的が自分の救出では無く、討伐であっても、行きがかり上であったとしても、ルドルフは命を救われた事には全く変わり無かったのである。

 そんな事も有り、放って置けば朽ちて行く小さな命を無下には出来ず引き取ったのだが、閉鎖的な風潮な残る村人は、素性の知れないデイジーを最初は些か訝しむ様に見ていたのであった。

 しかし、元Bランクのルドルフが身元引受け人との事もあり、今では村人からも素直に受け入れられており、逆に姿を見せないと心配される程になっていたのであった。


  まだ雪が降る季節では無いものの、気温はかなり下がっており、脚元から冷気を感じてデイジーはブルブルと小さな手を擦りながら思わず武者震いをしたのであった。
 
先ず、入口に置いてある木製のバケツを一つ持って畜舎に入り、二頭の白黒の牛の横に座って乳搾りを黙々とこなし、いっぱいになったバケツを重そうに持って家に戻ったのであった。

 デイジーの一日の始まりは、大抵何時もこの様な感じで始まるのだ。
 そして、これが家の[住まわせて貰っている手伝い]の一つでもあったのだ。
 
 寝たきりでは無いにしろ、歩行移動が困難なルドルフに替り、買い物に行ったり、水を汲みに行ったりと、思いの外体力を使う仕事全般を任されていた。

「ご苦労さま。こっちで暖まりなさい。」
 
 食事の支度をしていたルドルフはバケツを受け取り、寒さで頬を赤く染めたデイジーに優しく言ったのである。 

「ふぅ~……ありがとう!」
 
 デイジーはそう一息ついた所で、真っ赤になった炭が澄んだ高い音を立てている暖炉の前に移動して、手を広げて温めたのだった。

「はぁ~……あったまるぅ……」

 デイジーは温まりながらボーッと炎を見詰めていると、急に生き物の様に、迫り狂う炎と煙から逃げるビジョンが脳裏に過ぎったのだった。

「っ!……?」

 一瞬、何かの記憶を思い出す感覚がしたが、頭を振って気を取り直したのだった。
(またあの光景……)

 実は、デイジーにはルドルフに助けられる以前の記憶が無かったのであった。

「デイジー」と云う名前も、便宜上ルドルフが付けたものであり、歳も本当の所は解らないのだが、容姿から想像して10歳と言う事にして村民に紹介したのであった。

 普段は何も思わず生活をしているデイジーであったが、何かの切っ掛けでフラッシュバックする光景が偶にあったのである。

 それは、薄々ルドルフに助けられる以前の記憶なのだろうと予想は出来た物の、本人も何が切っ掛けでフラッシュバックするのかを理解していなかった。

 敢えて、意識的に理解しようとは思わなかった節もある。

 一般論的に、十歳、プラスマイナス一歳程の誤差が有ると考えて、現代に換算すれば小学二年生から四年生の子供である。
 所謂、童女で少女な幼女である。
 十歳で「幼女」と云う言葉は、些か似つかわしく無いかもしれないのだが、ルドルフに拾われた時は今から五年前、間違い無く幼女であった。

 幼女の定義がはっきりと「何歳まで」として無いので、デイジーは童女で少女な幼女である。

 そんな子供が記憶喪失とは言え「自分は何処から来て、何者なんだろう?自分の親は誰なんだろう?」等と発想するだろうか?
 そして、わざわざ自分の中にある怖さを思い出そうとしたりするのだろうか?
 
「また例の光景を思い出したのかい?」
 ルドルフは、ちょっとしたデイジーの様子の変化に気付いたのか、優しく声を掛けたのであった。

 「……うん。一瞬だけだから大丈夫!」
 
 気遣ってくれたルドルフに気丈に応えるデイジーであったのだが、自分が何に脅え、何に対して恐怖するのかを理解するには経験値が少し足りなかったのである。

そんな事を考えていると、屋外からけたたましい轟音が近付いて来るのが分かった。

「シュゴゴゴゴゴォォォォ~……」
  
 突然ジェット機の様な空気を切り裂く轟音が辺りに響き渡ったのである。
 それも一機や二機の音では無かった。

 その音にデイジーは反応して、ストーブの前から窓際へ小走りで寄って音のする方へ視線を向けたのだった。 

 「あ、モアだ、けど、何か私の知ってるモアじゃないみたいだよ!」

 ルドルフの家から二百メートル程先の草原を、隊列を組んで計十機、騒音の原因であるモアが走り去って居るのであった。

 ルドルフもデイジーに連れられるように窓際にゆっくり寄り、外の異様な光景を目の当たりにしたのであった。

 「こんな所をモアが居るのは珍しいな、しかもこんな馬鹿でかい音を立てるのは軍用モアしか居らんぞ!」
 
 そう言いながら、灰色の軍用モアの行く先を見詰めていたのであった。

 「あれは軍用機なの?何故あんな沢山いるの?」
  
 デイジーは初めて観る形のモアに興味深々であり、反射的に思いついた事を矢継ぎ早にルドルフへ質問したのだった。

 「あれは間違いなく軍用で普通のモアとは違っての、普通の人には扱えんモア何じゃよ、じゃが、何故こんな田舎に軍用モアが居るんじゃ?」
 
事の異常さに、ルドルフは冒険者としての直感で「危険」と悟ったのであった。

 「綺麗に揃ってる走ってるね」

 「なんじゃろうの?演習でもしてるのかの?」
  
 デイジーに悟られまいと平静を保って答えてはいたのだが、内心は穏やかでは無かったのである。

 「あれは、珍しいモアなの?」

  デイジーが、屈託の無い笑顔でルドルフに質問をしたのだった。

 「こんな辺鄙な所をモアが通るのも珍しいのだが、それより、こんな所に国の軍用モアが居るのがおかしい。」

 「私初めて見たよ、なんか普通のモアとは見た目が違うね、何か景色に混じる色って言うか……上手く言えないや!」

 「そりゃそうだ、何時もならもっと西の王都に待機してるからな。何処の部隊かは知らんが全く何があったんじゃ?」

 軍用モアはスーパークルーズで移動しているらしく、幾つ物魔力煙が長距離に渡って直線に伸びていたのである。

 「それが、なんでこんな所にいるの?」

 「ワシにもわからんて、でも、只事では無さそうじゃの?」

  軍用のモアは、スコードロンを組んで轟音と共に、高濃度の魔力煙だけを残し遠くへ去って行ったのであった。 

 「何事も無ければいいんじゃけどの、」

 「この村はなんにも無いから大丈夫だよ」

 「じゃと良いんじゃがのう……」

 二人は窓からそのモアを見送った後、静かに暖炉の側へ戻ったのであった。

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