瞳いっぱいの微笑みを

中富虹輔

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終章 二月

-瞳いっぱいの微笑みを-

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「長路、何やってんの?」
 校門で、久我にあった。
「ん? ああ、香澄さん、待ってるんだ」
「香澄さん?」一時首をかしげていた久我は、けれどもすぐに、納得顔になった。「今日だっけ? 合格発表」
 うん、とぼくはうなずきを返し、「合格、してるといいね」久我はいった。
「してるよ」確信に近く、ぼくはそう思った。「あれだけがんばったんだから。してなきゃ、香澄さんがかわいそうだよ」
 にやにや笑いで、久我はぼくの方に目を向けた。
「香澄さんがこっちにいられるかどうかの瀬戸際だもんね」
「それもあるけどね」ぼくは素直に認めた。
 今日合格発表のある、香澄さんの本命校は、ちょっと距離はあるけれども、香澄さんが家から通えない距離ではないのだ。すでに合格の決まっているすべり止めの方は、県外の学校なので……まあ、そういうことだ。
 どうやら、一緒に香澄さんが来るのを待つことにしたらしい。久我はぼくの隣に立って、ぼくの方に顔を向け、ぼくと香澄さんの関係の、進展具合を問うた。
 ぼくはそれにはあいまいに言葉を返し、空を見上げた。春の近い、冬の青空。
 どこまでも……どこまでも広がっている空を見上げていると、空の音を聞くことができる。
 最近、ようやくぼくも、空の音を聞くことができるようになった。雲がちぎれてゆく音を。空が輝く音を。
 不意に、久我がぼくのコートの袖を引っ張った。道路を指さし、香澄さんの姿が見えたことを告げる。そちらに目を向けると、確かに、私服姿の香澄さんが、こちらに歩いてきている。
 香澄さんはぼくらの姿に気づいたらしい。大きく手を振って、駆け出した。
 その表情は晴れ晴れと輝いていて、それだけでもう、ぼくは香澄さんが、本命に見事合格を果たしたことを確信した。
 香澄さんの合格報告のあと、きっと久我が、冷やかしの言葉を投げつけてくるだろう。ちらりとそんな考えが頭の中を横切っていったけれども、今は、そんなことでさえもが、香澄さんの合格を祝福しているようで、ぼくは久我の投げつけてくるであろうその言葉でさえも、歓迎したいような、そんな気分だった。
 香澄さんがぼくらのところに到着して、久我が、香澄さんに結果を問う。香澄さんは満面の笑みをたたえて、合格したことを告げ、そしてそれを待ちかまえていたらしい、久我の言葉に、赤面しながら微笑みを返した。
 香澄さんはぼくの方に目を向け、もう一度、微笑みを浮かべた。
 ぼくの瞳いっぱいにうつる、とびっきりの微笑みを。
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