宇宙(ソラ)征く孤影は夢の彼方

中富虹輔

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第二話 夢の中で逢う人は

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 ……なんだったんだ、あの夢は。
 ベッドの上で身体を起こし、ぼくはさっきまで見ていた夢を反芻していた。
 明瞭に覚えている。ぼくは一人称視点のアクションシューティングゲームをプレイしていて……。
 いや。
 プレイしていた、というのはちょっと違うか。
 そう。どちらかといえば、ぼくは夢の中で、ゲームの中の自機……〈ドルソーラス〉だったか……と一体になっていた。夢の中でぼくはコントローラーを握っていなかったけれども〈ドルソーラス〉はおおむねぼくの思うとおりに動いていたし、なによりも、そう。夢の中のゲーム画面が、〈ドルソーラス〉の視点に終始していたことが、より一層〈ドルソーラス〉との一体感を演出していた。
 ……ここのところ大会に向けての練習漬けだったから、思考がゲームに引っ張られすぎているのかもしれない。
 ぼくはため息をついて、ベッドから立ちあがった。この先しばらくの間は大きな大会もない。
 ゲーム大会の決勝戦出場のためにわざわざ海外まで足を伸ばしたんだ。
 今日一日はゲームのことは忘れて、異国の地の観光と洒落込もう。

 観光にグルメにショッピング。異国情緒を堪能したぼくがホテルの自室に戻ったときには、夜はとっぷりと暮れていた。
 歩き疲れて体力は限界。夕食はたっぷり地元のグルメを味わってお腹も満足。おまけに少しお酒も入っている。
 部屋に戻ってシャワーを浴びたらそのままベッドにダイブして、ぼくはあっという間に眠りに落ちた。

 ──夢を見た。
 昨日と同じ、架空のゲームの夢。ぼくは〈ドルソーラス〉というロボットで、ゲーム画面はそのロボットの視界。
 ぼくは昨日の夢が終わる前……今朝目覚める直前……と同じ、片膝をついて上半身をすこし前屈みにした姿勢で佇んでいて、ぼくの目の前には、昨日も夢に出てきた女の人がいた。特徴的な青銀色の長髪に、藍色の瞳。
「今日もよろしくね、〈ドルソーラス〉」
 彼女はぼくを見つめながらいったけれども、その顔には無表情が張り付いていて、その声もまた、「命を預ける戦友」にかける言葉にしては、抑揚が平板な気がした。
 言葉は演じている声優がヘタクソで、表情は予算不足のために作り込むことができなかった……という擁護は、「これは夢の中だぞ?」の一言で押しつぶしてしまえる。
 そう。これは夢の中のゲームなんだ。だからこそ、登場キャラやメカのグラフィックが迫真のリアリティをもっているのに、彼女の演技だけが中途半端に平板なのが目についてしまう。
 これだけリアリティのある映像の夢なんだから、登場キャラの演技や表情の変化だって、もっとそれっぽくたっていいだろう。
 そんなことを考えているぼくをよそに、パイロットの女性は膝立ちしている〈ドルソーラス〉の脚を使って胸部のコックピットまで登り、その中に姿を消した。コックピットハッチが閉じ、ぼくは静かに立ち上がる。
 宇宙船の格納庫の扉が開き、ぼくは漆黒の宇宙へと身を躍らせた。
 なんらかの方法で重力が作り出されている宇宙船の船内から一歩外へ出れば、そこは重力の存在しない宇宙空間。物理学だとかなんだとかいった小難しいことには詳しくはないけれども、〈ドルソーラス〉は慣性の法則だとかそんなものなど存在しないかのように、軽やかに宇宙空間を飛翔する。
 おそらく昨日の夢とは場所が違うのだろう。大きな赤い惑星が少し遠くに見えている。
〈ドルソーラス〉は、ぼくの操作なしに一点を目指して飛翔を続けていた。周辺に敵の姿は見えないから、自動で敵が存在しているエリアに向かっているのだろう。
 そういえば、レーダー的なものはないのだろうか?
 考えると同時に、視界の端に球形の立体図が現れた。球の中心には青い点、そして青い点を頂点に、うっすらと黄色い円錐が描かれている。その黄色い円錐の底面の外側には、多数の赤い点があるのが確認できる。
 ふむ。
 これは青い点が自分で、球体は索敵可能範囲。そして黄色い円錐が今視界に入っている範囲、ということでいいのだろう。とすると、赤い点は目標となる敵、となるか。まあこの手のゲームではよくある感じのレーダーの表現だ。
 赤い点は進行方向真正面、黄色い円錐の少し外側にあり、少しづつ円錐に近づいてきている。
 このスピードだと、赤い点と接触するまでにはもう少し時間がかかりそうか。
 普通のゲームなら出撃したら即戦闘開始となるものなのに、このゲームはやけにのんびりとしている。……まあ夢の中のゲームだし、そんなものなのかもしれないのだけれど。
 ほどなくして、黄色い円錐の中に赤い点が入ってきた。まだはっきりとした形は視認できないけれども、昨日の夢に出てきた敵と似たシルエットの物体が複数確認できる。
〈ドルソーラス〉は、ゆるゆると赤い点に近づいていく。同時に遠目に見えていた敵の姿もよりはっきりと見えるようになり……。
 こちらの遠距離攻撃が届く距離に到達する前に、相手がこちらの存在に気づいたようだった。遠くにあった赤い点が大挙してこちらに押し寄せてくる。
 望むところだ。
 今度の敵は、昨日の夢に出てきたものとは異なってはいたけれども、おおむね似たような傾向をもっていた。生物的なフォルムや身体をもっているけれども、純粋な生物とは違う体表や身体。推進機関なんてなさそうな外見なのに、無重力の宇宙を縦横無尽に駆け回る。
 そして自機……〈ドルソーラス〉……のコントロールは、やっぱり思うとおりにはならなかった。
 まったく思いどおりならない、というわけではない。思ったとおりに〈ドルソーラス〉が動いてくれる場面もある。けれども、たとえば機体の動きに妙な遅延があったり、敵の攻撃を右に回避しようと思ったのに上に避けてみたりなど、「方針としては同じだけれども、思っていたのと異なる行動」をすることがあるのだ。
 ……この状況に、ぼくは既視感があった。
 なんだっけ、これ。
 記憶をたどってみたけれども、ここは(夢の中ではあるけれど)一瞬の判断が勝負を分けるゲーム世界。普段だって既視感の理由に思い至ることなんて少ないのだから、せわしないゲーム(の夢)の中で、既視感の理由をそう簡単に思い出せるはずもない。
 そうこうしているうちにも、ぼくの手を離れて状況は進んでいく。ぼくが操作をしなくても、〈ドルソーラス〉は自らの意思があるかのように戦い続ける。
 敵の波状攻撃をかいくぐってカウンターの一撃を浴びせるファインプレーを見せたかと思えば、次の瞬間には真正面から突っ込んできた敵に自らぶつかりにいくようなお間抜けな失敗もする。
 そんな状況を眺めながら、ぼくはふと気づいた。
 ──ああ、これ、「ほかの人のプレイを見てる」感覚なんだ。
 敵の攻撃に対して、自分なら反応しているというタイミングよりも一瞬遅れて反応する。あるいは自分なら左に避けるという場面で上に避ける。
「自分で〈ドルソーラス〉を操作している」と思うと反応の遅延やら意図と違うことをするようにも感じられてストレスが溜まるけれども、「他人が操作している〈ドルソーラス〉を、〈ドルソーラス〉の視点で見ている」と思えば合点がいく。
 右方向から敵襲。移動速度が突出して高い敵一体が、こちらに奇襲をかけてきた。
 けれどもこちとら歴戦のゲーマーだ。よほどのことがなければ画面内の情報は把握できている。
 そしてこれはレーダーに気を配っていれば十分に対応可能な戦術だった。
 夢の中、どうやら〈ドルソーラス〉を実際に操作している誰かがいるらしいとはいえ。こちらの操作をまったく受け付けないというわけでもない、というのもなんとなく理解できる。
 ……どうせ夢の中なんだ、こっちも好きにさせてもらうさ。
 ほくはそう割り切って、〈ドルソーラス〉を右方向へ方向転換させ、最弱の……だけれども連射能力が高い……遠隔攻撃魔法を連射するよう「操作」してみた。
 わずかな遅延のあと、機体がぼくの「操作」に追従する。
 狙い過たず。魔法の銃弾は右方向からやってきた敵に命中する。攻撃一発の威力は決して高くはないけれども、連射性能に優れるその魔法は、攻撃を受けて硬直した敵に立て続けに命中する。
 魔法の弾が命中するたび、敵はへたくそなダンスを踊るかのように、右へ左へ上へ下へと身体を揺らす。
 そしてついに、こちらに奇襲をかけようとしていた敵は、すべての力を失って、無重力の慣性に従ってゆらゆら後退していった。
 これで撃破だ!
 直後、レーダーに別の敵が遠隔攻撃を放ったマーカーが映し出された。
 それに対応して、ぼくは〈ドルソーラス〉を上方へ移動する「操作」をした。
 やはり一瞬の間があり、機体はぼくの「操作」のとおり上方へ移動する。同時に〈ドルソーラス〉の足元を、敵の攻撃がむなしく通過していく。
 いけるぞ!
 ぼくは確信した。
 任せるべき部分は〈ドルソーラス〉を操縦している別のプレイヤーに任せ、ピンチに陥りそうなときはぼくが「操作」して先導する。そんな連係プレイが成立し、ぼくは……いやぼくらは、前回とは比べものならない速度で、敵の殲滅に成功したのだった。
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