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第五話 夢と孤影が交わるとき
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ここしばらく、魔物の存在を探知できていない。
広大な宇宙を旅していると、そんな時期も度々ある。これまでの経験を踏まえれば、そんなときは急がずに近くの宙域を周遊していればいい。そうすれば、魔物の反応がどこかに現れる。
こんなときは「待つ」以外の選択肢はない。
ここしばらくは戦い続きで髪を切る暇もなかったため、髪が長くなりすぎてしまった。時間に余裕があったし、しばらくは髪を切らなくてもいいように、久しぶりに髪をばっさりと切った。
切った髪は無駄にならないよう、〈アルフェルム〉の資源循環システムに投入する。
資源循環システム用のダストボックスに、髪を投入しながら。
私は久しぶり……もう何百年ぶりになるのだろう……に、私の髪を撫でてくれた恋人のことを思い出していた。
ベッドの上で私の髪を撫で、甘い言葉を耳元で囁いてくれて、そして……。
……なんでこんなことを思い出してしまったのだろう。
彼ははるか昔に私の目の前で魔物によって引き裂かれてしまっている。そんな甘い思い出など、反芻したところで魔物を絶滅させるという私の使命を曇らせる要因にしかならないというのに。
私はわき上がってきた感情を脇にどけた。
次の瞬間。
〈アルフェルム〉の魔物探知システムが、魔物の存在を告げた。……〈ドルソーラス〉に搭載されていた魔物の探知球。調べてみたところ、やはり〈アルフェルム〉にも似たようなシステムが搭載されていることを発見し、そのシステムを常時起動しておいたのが功を奏した。
距離はかなり近い。私は〈アルフェルム〉の操縦室へと走った。
〈アルフェルム〉の魔物探知システムは、〈ドルソーラス〉の探知球よりもはるかに広い範囲をカバーできる。
ただそのかわりに距離や魔物の数など、探知の精度はかなり劣っている。範囲が広くなると精度が低くなる、こんなふうに利点と欠点が重なってしまうのは、私が探知魔法を使うのと変わらない。
……この距離だと、空間転移を何回かすれば魔物のところに到達できるだろう。
私は〈アルフェルム〉の操縦席に座り、転移の準備を始めた。
転移装置に魔力を注入し、転移装置を起動する。目標地点を設定して、転移。
とても私には扱えないような高度な魔法だった転移魔法も、〈アルフェルム〉に搭載された装置と、私に付与された無限の魔力のおかげで手軽に扱うことができる。
一瞬のめまいのような感覚。次の瞬間には、〈アルフェルム〉の操縦室から見える宇宙の景色は一変していた。先ほどまで左手に見えていた赤い巨大な太陽が消失し、真正面の遠いところに、水に覆われた岩石惑星と思われる、青い惑星が見えた。
惑星の大きさや、遠目に見える地形はまるで異なっていたけれども、その姿は私の故郷、惑星アトラニカを思い起こさせる。
一瞬だけ、胸に何かが刺さったような痛みがあった。その痛みを無視して、〈アルフェルム〉の魔物探知システムを確認する。転移した先は若干の誤差はあったけれども、おおむね想定通りの場所だった。
続けて二回の転移を実行する。
最後の転移で魔物の集団の近くに到達することができたけれども、今回は距離が近すぎた。即座に魔物から襲撃されるような距離ではないけれども、〈アルフェルム〉はもう魔物に発見されていると見るべきだろう。
私は駆け足で〈ドルソーラス〉の格納庫へと向かった。
魔力を注入して〈ドルソーラス〉を起動する。
「今日もよろしくね、〈ドルソーラス〉」
いつものように〈ドルソーラス〉に告げ、片膝立ちをしている〈ドルソーラス〉の膝を足がかりに、胸部の操縦席に乗り込んだ。
〈ドルソーラス〉の胸部装甲を閉じて。
……そういえば。
ここ何回か、〈ドルソーラス〉は、私を手助けしてくれるかのように、自らの意思のようなものを示してきていた。
本来意思などもつはずのない魔導機兵になにかを問うなど、無意味なことだ。
それでも。
戦闘開始前に「よろしく」と挨拶し、戦闘が終われば「ありがとう」と礼をいう。毎回〈ドルソーラス〉に心があるかのように見立てて告げている儀式の一環として、なんの気なしに私は問うていた。
「今日も、私を手助けしてくれる?」
〈ドルソーラス〉からの反応はない。
──まあ、そうよね。
〈ドルソーラス〉に……魔導機兵に……意思が宿るなどということは、理屈を考えればあり得ない。
無駄な問いを発して、無駄な時間を使ってしまった。魔物はすぐにでも押し寄せてくる。早く出撃しなければ。
思いながら操縦桿を握った次の瞬間。
何の操縦もしていないはずの〈ドルソーラス〉が、まるで自らの意思があるかのように、右腕を持ち上げて握りこぶしをつくり、親指を立てた。
少しの間〈ドルソーラス〉は親指を立てた姿勢のまま静止し、その後駐機状態の姿勢に腕の位置を戻す。
「〈ドルソーラス〉……?」
思わず声が漏れた。
──なに、これ……?
意味がわからない。ドルソーラスは意味ありげに親指を立ててみせたけれども、そもそも親指を立てるという行為になにか特別な意味があるというのだろうか。
──いや、問題はそこじゃない。
意識や知性などといったものはもたないはずの魔導機兵が、私の問いに応えるかのように、自発的に動いてみせた。
「どういうことなの?」
私はつぶやいていた。
操縦室を見回す。いつもどおりの薄暗い、ほのかな青白い光に照らされたけっして広くはない空間。
「まさか、本当に……?」
〈ドルソーラス〉に、意識が宿ったとでもいうのだろうか。
もう一度操縦室を見回して。
唐突に地面……〈アルフェルム〉……が揺れた。
「しまった」
失態だ。
思いもかけない事態に動転してしまって、戦闘開始直前であることを失念してしまっていた。
私は操縦桿を握り直し、〈ドルソーラス〉を直立させると、宇宙空間へと身を躍らせた。
魔物の探知球を確認する。〈アルフェルム〉の近くまで到達した魔物の数はまだ少ない。……とはいえ、ここで手間取ってしまうと、大量の魔物を相手に〈アルフェルム〉の防衛を行わなければならなくなってしまう。
私は〈ドルソーラス〉からのサポートも得ながら〈アルフェルム〉周辺にいた何体かの魔物を殲滅し、残りの魔物の元へと向かった。
魔物の思考は単純だ。近くに攻撃対象を見つければ優先的にそちらを狙ってくる。こうして私が〈アルフェルム〉から離れて魔物の集団に近づいてしまえば、まず真っ先に狙われるのは私と〈ドルソーラス〉になる。
あとはいつもどおりの殲滅戦だ。
遠隔魔法で先頭集団の一角をくずし、そのまま集団の中に飛び込む。光の剣を召喚し、次々に押し寄せてくる魔物を片端から切り捨てていく。
想定どおり、魔物の群れは標的をこちらに定めたようだった。
〈ドルソーラス〉からのサポートを受けながら、こちらに殺到してくる魔物の群れを、時にはまとめて焼き払い、時には一体ずつ仕留めていく。
いつもなら被弾してしまうような場面でも、〈ドルソーラス〉が的確に私を導いてくれる。そんなサポートのおかげで、魔物の撃退にかかる時間は、これまでよりもはるかに短かった。
探知球から敵影が消える。私は念のため、〈ドルソーラス〉の身体をぐるりと回転させて、周囲を目視でも確認した。
遠くに、青白い太陽が輝いている。黄金色に輝いていた惑星アトラニカの太陽とは異なる太陽が。
その太陽を横目に見ながら、私は〈アルフェルム〉に帰還した。
それから何回か、魔物を殲滅するための戦いを繰り返した。
〈ドルソーラス〉が意味不明な親指立てを見せた戦闘から二ヶ月ほどが経って、比較的近傍にあった星系の、岩石宙域で。
岩石宙域での戦いから数日後、はるか遠くの氷結惑星の上空で。
その二週間後、赤色矮星のごく近傍で。
それから三ヶ月ほどは魔物の姿を見ることはなかったけれども、やはり魔物は現れた。この戦いはガスに覆われた巨大な惑星の重力圏での戦いとなった。魔法による重力制御をおこなっている〈ドルソーラス〉の魔力消費が激しく、魔力の回復が追いつかなくなってしまうという、めったにない事態が起きたりもした。
その戦いのすべてで、〈ドルソーラス〉は意志を持っているかのように……いや、「ように」ではない。自らの意志を持って……私の操縦をサポートしてくれた。
出撃のたび、「手助けしてくれる?」と問えば、右腕を上げ、親指を立てて応えてくれる。
ほんの何回かの出撃で、それは出撃前の儀式の一環となってしまっていた。
そして一回ごとに戦いを経るたび、〈ドルソーラス〉のサポートは的確になっていった。
私の戦い方のクセをフォローするように、けれども決して押し付けがましくない操縦の指示。死角にいる魔物に注意をうながてくれる。また私が遠距離攻撃魔法が不得意であることも理解してくれたようで、射撃よりも接近戦主体の戦い方を選択してくれるようにもなった。
そして、巨大なガス惑星の重力圏での戦いを終えて。
いつになく厳しい戦いだったため、〈ドルソーラス〉の損傷の回復が追いつていない。左腕はまるごと欠落し、右脚も膝から下が失われている。さらに重力制御を担う翼も六枚のうち四枚が機能不全に陥るという大損害だった。確認はできていないけれども、機体じゅうの装甲板には無数の傷がついているだろう。
惑星の重力圏を抜けて、転がり込むように〈アルフェルム〉に帰還する。失われた右脚はどうにか骨格と魔導筋肉の復元ができたので、格納庫で擱座するなどというという失態は回避できたけれども、〈ドルソーラス〉が満身創痍の状態であることに変わりはない。
大量の魔力を消費しながらの長時間にわたる戦闘のため、私に付与された無限の魔力も回復が追いつかず、現状でも回復する魔力の量よりも、機体修復などのために消費する魔力の量の方が大きい。
このため、体調は最悪だった。……とはいえ、戦闘行動が終わり、〈アルフェルム〉に帰還できたことで、魔力の消耗速度よりも回復速度のほうが早くはなっている。この体調の悪さもじきに解消するだろう。
〈アルフェルム〉の船体の維持は、船内の魔石に貯蔵してある魔力でしばらくはまかなえるだろうから、私の魔力がそちらに使われる心配はない。
私は〈ドルソーラス〉の操縦席に座ったまま、損傷の自動修復が進むのを待つことにした。
大きく息をつき、目を閉じて操縦席の椅子に身をもたれる。
時間はいくらも経っていないけれども、私に付与された無限の魔力が次第に回復していく。身体の不調は軽快していき、同時に大きく傷ついた〈ドルソーラス〉も、修復の速度を早めていった。
「任務成功。今回も魔物の殲滅を完了しました。……いつもありがとう、〈ドルソーラス〉」
私は操縦席の椅子にもたれながら、いつもの儀式の言葉を口にした。
そして。
……そして私は、目を閉じたままいった。
「不思議なものね。あなたは魔法で作られた戦闘機械のはずなのに、最近のあなたからは人の意思みたいなものを感じるの」
一つ、息をつく。
「私ね。ずっと一人で魔物と戦い続けて、人の心なんて失くしてしまったと思っていたんだけど」
もう一つ、息をつく。
「戦いを楽しいなんて思うのはよくない、ってわかってる」
そう、それは危険な思想だ。「戦いを楽しむ」ようになってしまったら、「争いは起こすべきではない」とされてきた、当時の思想に反するのだから。
もう一つ、息をつく。
「でも、最近ね、あなたと一緒に戦っていると、楽しいって思えるようになったの。……誰かと一緒に同じ目的を共有して、目的の達成を目指すのって、こんなに楽しいことだったんだなって、久しぶりに実感できたから」
広大な宇宙を旅していると、そんな時期も度々ある。これまでの経験を踏まえれば、そんなときは急がずに近くの宙域を周遊していればいい。そうすれば、魔物の反応がどこかに現れる。
こんなときは「待つ」以外の選択肢はない。
ここしばらくは戦い続きで髪を切る暇もなかったため、髪が長くなりすぎてしまった。時間に余裕があったし、しばらくは髪を切らなくてもいいように、久しぶりに髪をばっさりと切った。
切った髪は無駄にならないよう、〈アルフェルム〉の資源循環システムに投入する。
資源循環システム用のダストボックスに、髪を投入しながら。
私は久しぶり……もう何百年ぶりになるのだろう……に、私の髪を撫でてくれた恋人のことを思い出していた。
ベッドの上で私の髪を撫で、甘い言葉を耳元で囁いてくれて、そして……。
……なんでこんなことを思い出してしまったのだろう。
彼ははるか昔に私の目の前で魔物によって引き裂かれてしまっている。そんな甘い思い出など、反芻したところで魔物を絶滅させるという私の使命を曇らせる要因にしかならないというのに。
私はわき上がってきた感情を脇にどけた。
次の瞬間。
〈アルフェルム〉の魔物探知システムが、魔物の存在を告げた。……〈ドルソーラス〉に搭載されていた魔物の探知球。調べてみたところ、やはり〈アルフェルム〉にも似たようなシステムが搭載されていることを発見し、そのシステムを常時起動しておいたのが功を奏した。
距離はかなり近い。私は〈アルフェルム〉の操縦室へと走った。
〈アルフェルム〉の魔物探知システムは、〈ドルソーラス〉の探知球よりもはるかに広い範囲をカバーできる。
ただそのかわりに距離や魔物の数など、探知の精度はかなり劣っている。範囲が広くなると精度が低くなる、こんなふうに利点と欠点が重なってしまうのは、私が探知魔法を使うのと変わらない。
……この距離だと、空間転移を何回かすれば魔物のところに到達できるだろう。
私は〈アルフェルム〉の操縦席に座り、転移の準備を始めた。
転移装置に魔力を注入し、転移装置を起動する。目標地点を設定して、転移。
とても私には扱えないような高度な魔法だった転移魔法も、〈アルフェルム〉に搭載された装置と、私に付与された無限の魔力のおかげで手軽に扱うことができる。
一瞬のめまいのような感覚。次の瞬間には、〈アルフェルム〉の操縦室から見える宇宙の景色は一変していた。先ほどまで左手に見えていた赤い巨大な太陽が消失し、真正面の遠いところに、水に覆われた岩石惑星と思われる、青い惑星が見えた。
惑星の大きさや、遠目に見える地形はまるで異なっていたけれども、その姿は私の故郷、惑星アトラニカを思い起こさせる。
一瞬だけ、胸に何かが刺さったような痛みがあった。その痛みを無視して、〈アルフェルム〉の魔物探知システムを確認する。転移した先は若干の誤差はあったけれども、おおむね想定通りの場所だった。
続けて二回の転移を実行する。
最後の転移で魔物の集団の近くに到達することができたけれども、今回は距離が近すぎた。即座に魔物から襲撃されるような距離ではないけれども、〈アルフェルム〉はもう魔物に発見されていると見るべきだろう。
私は駆け足で〈ドルソーラス〉の格納庫へと向かった。
魔力を注入して〈ドルソーラス〉を起動する。
「今日もよろしくね、〈ドルソーラス〉」
いつものように〈ドルソーラス〉に告げ、片膝立ちをしている〈ドルソーラス〉の膝を足がかりに、胸部の操縦席に乗り込んだ。
〈ドルソーラス〉の胸部装甲を閉じて。
……そういえば。
ここ何回か、〈ドルソーラス〉は、私を手助けしてくれるかのように、自らの意思のようなものを示してきていた。
本来意思などもつはずのない魔導機兵になにかを問うなど、無意味なことだ。
それでも。
戦闘開始前に「よろしく」と挨拶し、戦闘が終われば「ありがとう」と礼をいう。毎回〈ドルソーラス〉に心があるかのように見立てて告げている儀式の一環として、なんの気なしに私は問うていた。
「今日も、私を手助けしてくれる?」
〈ドルソーラス〉からの反応はない。
──まあ、そうよね。
〈ドルソーラス〉に……魔導機兵に……意思が宿るなどということは、理屈を考えればあり得ない。
無駄な問いを発して、無駄な時間を使ってしまった。魔物はすぐにでも押し寄せてくる。早く出撃しなければ。
思いながら操縦桿を握った次の瞬間。
何の操縦もしていないはずの〈ドルソーラス〉が、まるで自らの意思があるかのように、右腕を持ち上げて握りこぶしをつくり、親指を立てた。
少しの間〈ドルソーラス〉は親指を立てた姿勢のまま静止し、その後駐機状態の姿勢に腕の位置を戻す。
「〈ドルソーラス〉……?」
思わず声が漏れた。
──なに、これ……?
意味がわからない。ドルソーラスは意味ありげに親指を立ててみせたけれども、そもそも親指を立てるという行為になにか特別な意味があるというのだろうか。
──いや、問題はそこじゃない。
意識や知性などといったものはもたないはずの魔導機兵が、私の問いに応えるかのように、自発的に動いてみせた。
「どういうことなの?」
私はつぶやいていた。
操縦室を見回す。いつもどおりの薄暗い、ほのかな青白い光に照らされたけっして広くはない空間。
「まさか、本当に……?」
〈ドルソーラス〉に、意識が宿ったとでもいうのだろうか。
もう一度操縦室を見回して。
唐突に地面……〈アルフェルム〉……が揺れた。
「しまった」
失態だ。
思いもかけない事態に動転してしまって、戦闘開始直前であることを失念してしまっていた。
私は操縦桿を握り直し、〈ドルソーラス〉を直立させると、宇宙空間へと身を躍らせた。
魔物の探知球を確認する。〈アルフェルム〉の近くまで到達した魔物の数はまだ少ない。……とはいえ、ここで手間取ってしまうと、大量の魔物を相手に〈アルフェルム〉の防衛を行わなければならなくなってしまう。
私は〈ドルソーラス〉からのサポートも得ながら〈アルフェルム〉周辺にいた何体かの魔物を殲滅し、残りの魔物の元へと向かった。
魔物の思考は単純だ。近くに攻撃対象を見つければ優先的にそちらを狙ってくる。こうして私が〈アルフェルム〉から離れて魔物の集団に近づいてしまえば、まず真っ先に狙われるのは私と〈ドルソーラス〉になる。
あとはいつもどおりの殲滅戦だ。
遠隔魔法で先頭集団の一角をくずし、そのまま集団の中に飛び込む。光の剣を召喚し、次々に押し寄せてくる魔物を片端から切り捨てていく。
想定どおり、魔物の群れは標的をこちらに定めたようだった。
〈ドルソーラス〉からのサポートを受けながら、こちらに殺到してくる魔物の群れを、時にはまとめて焼き払い、時には一体ずつ仕留めていく。
いつもなら被弾してしまうような場面でも、〈ドルソーラス〉が的確に私を導いてくれる。そんなサポートのおかげで、魔物の撃退にかかる時間は、これまでよりもはるかに短かった。
探知球から敵影が消える。私は念のため、〈ドルソーラス〉の身体をぐるりと回転させて、周囲を目視でも確認した。
遠くに、青白い太陽が輝いている。黄金色に輝いていた惑星アトラニカの太陽とは異なる太陽が。
その太陽を横目に見ながら、私は〈アルフェルム〉に帰還した。
それから何回か、魔物を殲滅するための戦いを繰り返した。
〈ドルソーラス〉が意味不明な親指立てを見せた戦闘から二ヶ月ほどが経って、比較的近傍にあった星系の、岩石宙域で。
岩石宙域での戦いから数日後、はるか遠くの氷結惑星の上空で。
その二週間後、赤色矮星のごく近傍で。
それから三ヶ月ほどは魔物の姿を見ることはなかったけれども、やはり魔物は現れた。この戦いはガスに覆われた巨大な惑星の重力圏での戦いとなった。魔法による重力制御をおこなっている〈ドルソーラス〉の魔力消費が激しく、魔力の回復が追いつかなくなってしまうという、めったにない事態が起きたりもした。
その戦いのすべてで、〈ドルソーラス〉は意志を持っているかのように……いや、「ように」ではない。自らの意志を持って……私の操縦をサポートしてくれた。
出撃のたび、「手助けしてくれる?」と問えば、右腕を上げ、親指を立てて応えてくれる。
ほんの何回かの出撃で、それは出撃前の儀式の一環となってしまっていた。
そして一回ごとに戦いを経るたび、〈ドルソーラス〉のサポートは的確になっていった。
私の戦い方のクセをフォローするように、けれども決して押し付けがましくない操縦の指示。死角にいる魔物に注意をうながてくれる。また私が遠距離攻撃魔法が不得意であることも理解してくれたようで、射撃よりも接近戦主体の戦い方を選択してくれるようにもなった。
そして、巨大なガス惑星の重力圏での戦いを終えて。
いつになく厳しい戦いだったため、〈ドルソーラス〉の損傷の回復が追いつていない。左腕はまるごと欠落し、右脚も膝から下が失われている。さらに重力制御を担う翼も六枚のうち四枚が機能不全に陥るという大損害だった。確認はできていないけれども、機体じゅうの装甲板には無数の傷がついているだろう。
惑星の重力圏を抜けて、転がり込むように〈アルフェルム〉に帰還する。失われた右脚はどうにか骨格と魔導筋肉の復元ができたので、格納庫で擱座するなどというという失態は回避できたけれども、〈ドルソーラス〉が満身創痍の状態であることに変わりはない。
大量の魔力を消費しながらの長時間にわたる戦闘のため、私に付与された無限の魔力も回復が追いつかず、現状でも回復する魔力の量よりも、機体修復などのために消費する魔力の量の方が大きい。
このため、体調は最悪だった。……とはいえ、戦闘行動が終わり、〈アルフェルム〉に帰還できたことで、魔力の消耗速度よりも回復速度のほうが早くはなっている。この体調の悪さもじきに解消するだろう。
〈アルフェルム〉の船体の維持は、船内の魔石に貯蔵してある魔力でしばらくはまかなえるだろうから、私の魔力がそちらに使われる心配はない。
私は〈ドルソーラス〉の操縦席に座ったまま、損傷の自動修復が進むのを待つことにした。
大きく息をつき、目を閉じて操縦席の椅子に身をもたれる。
時間はいくらも経っていないけれども、私に付与された無限の魔力が次第に回復していく。身体の不調は軽快していき、同時に大きく傷ついた〈ドルソーラス〉も、修復の速度を早めていった。
「任務成功。今回も魔物の殲滅を完了しました。……いつもありがとう、〈ドルソーラス〉」
私は操縦席の椅子にもたれながら、いつもの儀式の言葉を口にした。
そして。
……そして私は、目を閉じたままいった。
「不思議なものね。あなたは魔法で作られた戦闘機械のはずなのに、最近のあなたからは人の意思みたいなものを感じるの」
一つ、息をつく。
「私ね。ずっと一人で魔物と戦い続けて、人の心なんて失くしてしまったと思っていたんだけど」
もう一つ、息をつく。
「戦いを楽しいなんて思うのはよくない、ってわかってる」
そう、それは危険な思想だ。「戦いを楽しむ」ようになってしまったら、「争いは起こすべきではない」とされてきた、当時の思想に反するのだから。
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