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第六話 刃が刻む言葉
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今度の戦いは壮絶だった。出撃前に見た青銀色の髪の女性の髪ははっきりとわかるくらい昨日の夢よりも伸びていることに気付いて「あっ、伸びてきたなあ」なんてのんきに考えていたことなんて、あっという間に忘れ去ってしまうくらいに。
ガスに覆われた巨大な惑星の近く。普段なら慣性などといった物理法則は無視して戦闘ができるというのに、今回は間近にある巨大な惑星に引き寄せられるような力が働いている。
その大きな力に対抗するためだろうか。今回は〈ドルソーラス〉の自己修復の速度はこれまでに比べるとゆっくりになってしまっていた。加えて武器の切り替えにも時間がかかり、移動速度もだいぶ遅くなっている気がする。
敵の数も膨大だった。たぶん「惑星の重力に引かれている」という条件そのものは同じなのだろうけれども、敵は数を頼みにこちらに殺到してくる。
倒しても倒しても、敵はレーダーの外から次々にやってきた。
エネルギーの供給が滞りがちなのか、まずは自己修復機能が低下した。普段なら一瞬で直るような小さな損傷の修復にも時間がかかるようになる。
続いて、武器の使用と切り替えに制限がかかり始めた。火力の大きな攻撃魔法が使用できなくなり、接近戦用の武器も、魔法で輝く剣ではなく、金属製になった。
右脚の膝から下が破損。続いて六基ある背中の推進器が一基、吹き飛ばされた。小さな損傷の修復にも時間がかかるようになっているのだから、こんな大きな損傷を修復している余裕などないのだろう。いつまでたっても、脚も推進器も修復される気配がない。
それでも少しずつ、敵は数を減らしていった。
長時間の戦いの末、どうにか敵を全滅させたときには、右脚に加えて左腕が全損し、さらに推進器は四基が使い物にならなくなっていた。
……よくこんな状態で勝つことができたものだ。
これまで色々なゲームの大会で優勝してきたけれども、ここまでギリギリの勝利というのは、そう滅多にあるものではない。
〈ドルソーラス〉が宇宙船に帰還する。
戦闘行動にエネルギーを使う必要がなくなったためか、自己修復機能がそれなりに働くようになっていた。宇宙船の格納庫に到着した際にはなくなっていた右脚の膝から下が復活していて、無事に格納庫のケージに降り立つことができた。
〈ドルソーラス〉はいつものように膝立ちの姿勢になり……。
いつもと違い、今回は胸部のコックピットハッチが開かなかった。
しばしの間。
コックピットの青銀色の髪の女性が、大きく息をつく音がした。
それからまた、少しの間があって。
「任務成功。今回も魔物の殲滅を完了しました。……いつもありがとう、〈ドルソーラス〉」
いつもの言葉が、いつもとは違うシチュエーションで繰り返される。
そして。
……そして彼女の言葉が続いた。
「不思議なものね。あなたは魔法で作られた戦闘機械のはずなのに、最近のあなたからは人の意思みたいなものを感じるの」
彼女が息をつく。
「私ね。ずっと一人で魔物と戦い続けて、人の心なんて失くしてしまったと思っていたんだけど」
もう一つ、大きな息。
「戦いを楽しいなんて思うのはよくない、ってわかってる」
さらにもう一つ、息。
「でも、最近ね、あなたと一緒に戦っていると、楽しいって思えるようになったの。……誰かと一緒に同じ目的を共有して、目的の達成を目指すのって、こんなに楽しいことだったんだなって、久しぶりに実感できたから」
そのとき。
わき上がってきた思いを、どう表現すればいいのだろう。
彼女は「ずっと一人で戦ってきた」といった。疑問の一つに答えが出たけれども、今はそれよりも。
一緒に戦うことが楽しい、か。
正直をいえば、それはぼくも同様だった。名前も知らない彼女と一緒に敵と戦って勝利する。そんなことを何度も繰り返すうちに、彼女に対して戦友というか同僚というか、そんな親近感をもつようになっていたのは確かだった。
彼女に応えたい。
彼女の言葉に、なにか反応したい。
方法はないんだろうか。彼女の言葉に応える方法は。
考えろ。考えるんだ。
多分このとき、ぼくはこれまでにないくらいに頭を回転させていた。
急がなければ、彼女は〈ドルソーラス〉から降りて、いつものようにぼくは目覚めてしまうだろう。
現在のぼくは、彼女がいうところの「魔法で作られた戦闘機械」である〈ドルソーラス〉だ。言葉を話す機能はなく、できるのは彼女の言葉を聞くこと、そしてロボットの身体を動かすこと。
……身体を動かす?
それだ!
うまくいくかはわからない。でも、やってみる価値はたぶんある。
まずぼくは、〈ドルソーラス〉が思うとおりに動いてくれることを確認した。右手を持ち上げ、手を握ったり開いたりする。
大丈夫、問題ない。第一段階はクリア。
続いて、今回の戦闘でもっとも活躍してくれた武器……金属製の実体剣……を装備する。
これも問題なし。
「〈ドルソーラス〉……?」
青銀の髪の彼女が、なにかを訝しむかのようにつぶやく。
ぼくは片膝立ちだった〈ドルソーラス〉を立ち上がらせた。そして宇宙船の床に、剣の切っ先で傷をつけていく。
まずは『ハ』。
続けて『ジ』。
そして『メ』。
さらに『マ』。
加えて『シ』。
最後に『テ』。
『ハジメマシテ』。
ぼくはそう書いたつもりだったけれども、宇宙船の床を傷つけることで書いた文字は、ぼくの知っている文字ではなかった。けれども、ぼくにはその文字が「ハジメマシテ」と読める。
夢のつながりを通してお互いの言語の変換がおこなわれているのだろう、とぼくは解釈した。夢の中での彼女の話し言葉は日本語だったけれども、たぶん彼女の言葉は、彼女の世界の言語で話されているのだ。
「初めまして?」
明らかに動揺している様子の、彼女の言葉が聞こえた。
「どういうこと? 私は〈ドルソーラス〉とずっと一緒に……」
彼女の疑問はもっともだ。
少しの時間をおいて、ぼくは宇宙船の床を確認した。予想していたとおり、「ハジメマシテ」と書いた床の傷が消えている。宇宙船には、たぶん〈ドルソーラス〉の自動修復機能と同じような機能が搭載されているのだ。
ぼくは続きの文章を書いた。
『ぼくは今、〈ドルソーラス〉の中にいる。ぼくの名前は「蓮」。ここ何回か、きみと一緒に戦った』
床に文字を刻みつけながら。
気付かざるを得なかった。この「筆談」はとにかく非効率だ。床に傷をつけて文字を書くのは相応に時間がかかるうえ、宇宙船の自動修復機能のおかげで長い文章を書くのには向いていない。
加えて床に書いた文字を彼女が読んでから受け応えをしなければならないのだから、それもまた相応に時間がかかるはずだ。
それでも今は、この効率の悪い筆談しか、彼女とコミュニケーションをとる方法がないというのも事実ではあったけれど。
次からはもう少し短い言葉を使おう。
……それはともかくとして、ぼくの書いた長文を読んで、彼女は少しの間沈黙した。
「中にいる? レン? 一緒に戦った?」
つぶやくように彼女はいった。その間にも宇宙船の修復機能が働き、書いた文字が順番に消えていく。
「待って、消えないで……!」
彼女はあわてた様子でいったけれども、宇宙船の修復機能は無慈悲にぼくが書いた文字をすべて消してしまった。
彼女が、大きく息をついた。
「最近の出撃で、〈ドルソーラス〉が私の手助けをしてくれていることには気付いていました。その手助けをしてくれていたのが、レン、あなただった、という認識で間違いないですか?」
『合っている』
ぼくは短い言葉で応えた。続けて。
『きみの名前は?』
まずは一番最初に訊いておきたいことを訊いてみた。いつまでも「彼女」とか「青銀の髪の女性」とか呼んでいたのでは、彼女にも失礼だろう。
「アーシャ。アーシャです」
アーシャ。きれいな響きの、いい名前だ。
『アーシャ。了解』
「一つ、訊いていいですか? あなたはアトラニカの生き残りですか?」
アトラニカ?
初めて聞く名前だ。彼女の出身地かなにかだろうか。
『違う。アトラニカは知らない』
なるべく短い言葉で。剣で床を傷つけた。
「ではどこかの星系で進化した知的生命体ですか? 〈ドルソーラス〉の意識になれるということは、精神生命体とか?」
矢継ぎ早の質問に、ぼくはなんと答えようか迷った。
『どちらも違う。長くなるので、筆談で答えるのは難しい』
「そう、ですね」
落胆のものらしき息をつきながら、アーシャはいった。
「このやり方では時間もかかりすぎますし」
少しの沈黙。そのあと「あ」という小さな声が聞こえ、
「こうして私の言葉を理解できているんですから、あなたは音声で会話ができる言語をもっている種族ということですよね? レン」
いい回しはややこしかったけれども、要は「言葉を使ってコミュニケーションを取れるか?」と問うているのだろう。
『肯定』
「でしたら、〈ドルソーラス〉に、あなたの思考を音声に変換する機能を増設してみます」
アーシャの言葉は、心なしか弾んでいるように思えた。
……というか、そんなことができるのか?
『できる?』
問うたぼくに。
「ええ。私はそんなに優秀な魔法使いではありませんでしたが、そのくらいのことなら、できると思います」
『頼む』
言葉を短くしようとするあまり、ちょっと横柄な感じになってしまっているかもしれない。彼女が気を悪くしていたら申し訳ないな、と思いつつ、ぼくは彼女がそのあたりの事情を汲んでくれていることを願った。
「わかりました。ですが、まだ〈ドルソーラス〉の自己修復も終わっていませんし、私の魔力も万全ではありません。しばらくの間、待ってもらうことは可能ですか?」
『待てる』
待つことはできる。ただ……。
ぼくは続けて文字を床に刻んだ。
『でも、ぼくはいつでも〈ドルソーラス〉の中にいるわけじゃない』
「……? どういうことですか?」
ぼくの言葉の意味が理解できず、アーシャは混乱しているようだった。まあ同じ状況でぼくがアーシャだったら、同じように混乱しているだろう。
『長くなるから説明は難しい』
「そうですか。ではその説明は、あなたと直接お話できるようになったら、聞かせてください」
『了解』
「どちらにしても〈ドルソーラス〉の自己修復が終わるまでは、少し休憩ですね」
アーシャが〈ドルソーラス〉を操縦して、いつもの片膝立ちの姿勢に戻す。
「私も魔力が回復するまで、休ませてもらいます」
アーシャのその言葉を最後に、ぼくは目を覚ました。
ガスに覆われた巨大な惑星の近く。普段なら慣性などといった物理法則は無視して戦闘ができるというのに、今回は間近にある巨大な惑星に引き寄せられるような力が働いている。
その大きな力に対抗するためだろうか。今回は〈ドルソーラス〉の自己修復の速度はこれまでに比べるとゆっくりになってしまっていた。加えて武器の切り替えにも時間がかかり、移動速度もだいぶ遅くなっている気がする。
敵の数も膨大だった。たぶん「惑星の重力に引かれている」という条件そのものは同じなのだろうけれども、敵は数を頼みにこちらに殺到してくる。
倒しても倒しても、敵はレーダーの外から次々にやってきた。
エネルギーの供給が滞りがちなのか、まずは自己修復機能が低下した。普段なら一瞬で直るような小さな損傷の修復にも時間がかかるようになる。
続いて、武器の使用と切り替えに制限がかかり始めた。火力の大きな攻撃魔法が使用できなくなり、接近戦用の武器も、魔法で輝く剣ではなく、金属製になった。
右脚の膝から下が破損。続いて六基ある背中の推進器が一基、吹き飛ばされた。小さな損傷の修復にも時間がかかるようになっているのだから、こんな大きな損傷を修復している余裕などないのだろう。いつまでたっても、脚も推進器も修復される気配がない。
それでも少しずつ、敵は数を減らしていった。
長時間の戦いの末、どうにか敵を全滅させたときには、右脚に加えて左腕が全損し、さらに推進器は四基が使い物にならなくなっていた。
……よくこんな状態で勝つことができたものだ。
これまで色々なゲームの大会で優勝してきたけれども、ここまでギリギリの勝利というのは、そう滅多にあるものではない。
〈ドルソーラス〉が宇宙船に帰還する。
戦闘行動にエネルギーを使う必要がなくなったためか、自己修復機能がそれなりに働くようになっていた。宇宙船の格納庫に到着した際にはなくなっていた右脚の膝から下が復活していて、無事に格納庫のケージに降り立つことができた。
〈ドルソーラス〉はいつものように膝立ちの姿勢になり……。
いつもと違い、今回は胸部のコックピットハッチが開かなかった。
しばしの間。
コックピットの青銀色の髪の女性が、大きく息をつく音がした。
それからまた、少しの間があって。
「任務成功。今回も魔物の殲滅を完了しました。……いつもありがとう、〈ドルソーラス〉」
いつもの言葉が、いつもとは違うシチュエーションで繰り返される。
そして。
……そして彼女の言葉が続いた。
「不思議なものね。あなたは魔法で作られた戦闘機械のはずなのに、最近のあなたからは人の意思みたいなものを感じるの」
彼女が息をつく。
「私ね。ずっと一人で魔物と戦い続けて、人の心なんて失くしてしまったと思っていたんだけど」
もう一つ、大きな息。
「戦いを楽しいなんて思うのはよくない、ってわかってる」
さらにもう一つ、息。
「でも、最近ね、あなたと一緒に戦っていると、楽しいって思えるようになったの。……誰かと一緒に同じ目的を共有して、目的の達成を目指すのって、こんなに楽しいことだったんだなって、久しぶりに実感できたから」
そのとき。
わき上がってきた思いを、どう表現すればいいのだろう。
彼女は「ずっと一人で戦ってきた」といった。疑問の一つに答えが出たけれども、今はそれよりも。
一緒に戦うことが楽しい、か。
正直をいえば、それはぼくも同様だった。名前も知らない彼女と一緒に敵と戦って勝利する。そんなことを何度も繰り返すうちに、彼女に対して戦友というか同僚というか、そんな親近感をもつようになっていたのは確かだった。
彼女に応えたい。
彼女の言葉に、なにか反応したい。
方法はないんだろうか。彼女の言葉に応える方法は。
考えろ。考えるんだ。
多分このとき、ぼくはこれまでにないくらいに頭を回転させていた。
急がなければ、彼女は〈ドルソーラス〉から降りて、いつものようにぼくは目覚めてしまうだろう。
現在のぼくは、彼女がいうところの「魔法で作られた戦闘機械」である〈ドルソーラス〉だ。言葉を話す機能はなく、できるのは彼女の言葉を聞くこと、そしてロボットの身体を動かすこと。
……身体を動かす?
それだ!
うまくいくかはわからない。でも、やってみる価値はたぶんある。
まずぼくは、〈ドルソーラス〉が思うとおりに動いてくれることを確認した。右手を持ち上げ、手を握ったり開いたりする。
大丈夫、問題ない。第一段階はクリア。
続いて、今回の戦闘でもっとも活躍してくれた武器……金属製の実体剣……を装備する。
これも問題なし。
「〈ドルソーラス〉……?」
青銀の髪の彼女が、なにかを訝しむかのようにつぶやく。
ぼくは片膝立ちだった〈ドルソーラス〉を立ち上がらせた。そして宇宙船の床に、剣の切っ先で傷をつけていく。
まずは『ハ』。
続けて『ジ』。
そして『メ』。
さらに『マ』。
加えて『シ』。
最後に『テ』。
『ハジメマシテ』。
ぼくはそう書いたつもりだったけれども、宇宙船の床を傷つけることで書いた文字は、ぼくの知っている文字ではなかった。けれども、ぼくにはその文字が「ハジメマシテ」と読める。
夢のつながりを通してお互いの言語の変換がおこなわれているのだろう、とぼくは解釈した。夢の中での彼女の話し言葉は日本語だったけれども、たぶん彼女の言葉は、彼女の世界の言語で話されているのだ。
「初めまして?」
明らかに動揺している様子の、彼女の言葉が聞こえた。
「どういうこと? 私は〈ドルソーラス〉とずっと一緒に……」
彼女の疑問はもっともだ。
少しの時間をおいて、ぼくは宇宙船の床を確認した。予想していたとおり、「ハジメマシテ」と書いた床の傷が消えている。宇宙船には、たぶん〈ドルソーラス〉の自動修復機能と同じような機能が搭載されているのだ。
ぼくは続きの文章を書いた。
『ぼくは今、〈ドルソーラス〉の中にいる。ぼくの名前は「蓮」。ここ何回か、きみと一緒に戦った』
床に文字を刻みつけながら。
気付かざるを得なかった。この「筆談」はとにかく非効率だ。床に傷をつけて文字を書くのは相応に時間がかかるうえ、宇宙船の自動修復機能のおかげで長い文章を書くのには向いていない。
加えて床に書いた文字を彼女が読んでから受け応えをしなければならないのだから、それもまた相応に時間がかかるはずだ。
それでも今は、この効率の悪い筆談しか、彼女とコミュニケーションをとる方法がないというのも事実ではあったけれど。
次からはもう少し短い言葉を使おう。
……それはともかくとして、ぼくの書いた長文を読んで、彼女は少しの間沈黙した。
「中にいる? レン? 一緒に戦った?」
つぶやくように彼女はいった。その間にも宇宙船の修復機能が働き、書いた文字が順番に消えていく。
「待って、消えないで……!」
彼女はあわてた様子でいったけれども、宇宙船の修復機能は無慈悲にぼくが書いた文字をすべて消してしまった。
彼女が、大きく息をついた。
「最近の出撃で、〈ドルソーラス〉が私の手助けをしてくれていることには気付いていました。その手助けをしてくれていたのが、レン、あなただった、という認識で間違いないですか?」
『合っている』
ぼくは短い言葉で応えた。続けて。
『きみの名前は?』
まずは一番最初に訊いておきたいことを訊いてみた。いつまでも「彼女」とか「青銀の髪の女性」とか呼んでいたのでは、彼女にも失礼だろう。
「アーシャ。アーシャです」
アーシャ。きれいな響きの、いい名前だ。
『アーシャ。了解』
「一つ、訊いていいですか? あなたはアトラニカの生き残りですか?」
アトラニカ?
初めて聞く名前だ。彼女の出身地かなにかだろうか。
『違う。アトラニカは知らない』
なるべく短い言葉で。剣で床を傷つけた。
「ではどこかの星系で進化した知的生命体ですか? 〈ドルソーラス〉の意識になれるということは、精神生命体とか?」
矢継ぎ早の質問に、ぼくはなんと答えようか迷った。
『どちらも違う。長くなるので、筆談で答えるのは難しい』
「そう、ですね」
落胆のものらしき息をつきながら、アーシャはいった。
「このやり方では時間もかかりすぎますし」
少しの沈黙。そのあと「あ」という小さな声が聞こえ、
「こうして私の言葉を理解できているんですから、あなたは音声で会話ができる言語をもっている種族ということですよね? レン」
いい回しはややこしかったけれども、要は「言葉を使ってコミュニケーションを取れるか?」と問うているのだろう。
『肯定』
「でしたら、〈ドルソーラス〉に、あなたの思考を音声に変換する機能を増設してみます」
アーシャの言葉は、心なしか弾んでいるように思えた。
……というか、そんなことができるのか?
『できる?』
問うたぼくに。
「ええ。私はそんなに優秀な魔法使いではありませんでしたが、そのくらいのことなら、できると思います」
『頼む』
言葉を短くしようとするあまり、ちょっと横柄な感じになってしまっているかもしれない。彼女が気を悪くしていたら申し訳ないな、と思いつつ、ぼくは彼女がそのあたりの事情を汲んでくれていることを願った。
「わかりました。ですが、まだ〈ドルソーラス〉の自己修復も終わっていませんし、私の魔力も万全ではありません。しばらくの間、待ってもらうことは可能ですか?」
『待てる』
待つことはできる。ただ……。
ぼくは続けて文字を床に刻んだ。
『でも、ぼくはいつでも〈ドルソーラス〉の中にいるわけじゃない』
「……? どういうことですか?」
ぼくの言葉の意味が理解できず、アーシャは混乱しているようだった。まあ同じ状況でぼくがアーシャだったら、同じように混乱しているだろう。
『長くなるから説明は難しい』
「そうですか。ではその説明は、あなたと直接お話できるようになったら、聞かせてください」
『了解』
「どちらにしても〈ドルソーラス〉の自己修復が終わるまでは、少し休憩ですね」
アーシャが〈ドルソーラス〉を操縦して、いつもの片膝立ちの姿勢に戻す。
「私も魔力が回復するまで、休ませてもらいます」
アーシャのその言葉を最後に、ぼくは目を覚ました。
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