30年越しの手紙

星の書庫

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クリスマスイヴ・イヴ

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 十二月二十三日。今日は終業式だ。午前で学校が終わるので、僕は彼女とデートすることになっている。
「ハルキおはよぉ~」
「おはよう、ひな。……やけに眠そうだね」
目を擦りながら歩み寄ってくる彼女。眠れなかったのだろう。
「楽しみすぎて一睡もできなかったよぉ~」
「やっぱりですか」
「やっぱりですよぉ」
「ちゃんとしたデートは初めてだから、仕方ないよね」
「仕方ないんです~」
「終業式まで寝とく?」
「そうする~」
彼女は、フラフラと自分の席に戻って行った。すると、僕の唯一の男友達が近寄ってきた。

「ようハルキィ。今日デートなんだってぇ?」
「なんだ君か。なぜそれを知ってるんだよ……」
「お前の彼女が言って回ってるんだよ。余程楽しみなんだろうな。……それより、いい加減俺の事を君って呼ぶのやめないか?」
「人の名前はすぐ忘れるんだ。ごめんな」
「彼女の名前は覚えてるのに?」
「……彼女は特別だから。何より、僕は君の名前を聞いた事がない」
「おいおい!自己紹介くらいちゃんと聞いとけよ!翔だよ!前沢翔!」
「翔か。良い名前だな」
「良い名前だって?……なんか照れるな」
「他に用がないなら一人にしてくれないか?読書がしたい」
「連れないこと言うなよ。もっと話そうぜ」
「えぇ……」
今日の彼はなんだかウザいな。……いつもか。


 終業式と帰りのホームルームが終わったら、僕たちは駅に直行した。
「ハルキとデート……。えへへぇ……」
彼女は始まる前からご満悦のようで、茹で蛸のように赤くなっていた。
「ひな、電車乗るよ~」
「う、うん!」
しっかり僕の手を握ってくる彼女。柔らかくて、暖かかった。
車内は割と空いていて、高校生二人が座る分のスペースは、簡単に確保できた。
「ハルキの手、冷たいねぇ」
「ひなの手はずいぶん暖かいね」
「ハルキが冷たすぎるんだよぉ」
「そうかなぁ」
「絶対そうだって~」
なんて、他愛もない話をしながら目的地まで進む車内を過ごした。平常運転で、どこかいつもよりも甘くて、僕には勿体無い幸せだった。
「今、僕には勿体無いって思ったでしょ~」
「……ひなはすぐ僕の心を読むね」
「そんな顔してるんだって~」
「君はメンタリストになれるよ」
「最強のメンタリスト・HINA⭐︎……なんちゃって」
彼女は舌を出しておどけてみせた。本当に、彼女の言動はいちいち可愛い。
「ひなはいつも可愛いねなんて、嬉しいこと言うじゃん~」
「……そこは言わないでほしかったな」
「ハルキは可愛いなぁ」
「僕は可愛くないよ……」
「またまたそんなぁ」
「可愛いのはひなの方だから」
「言ってくれるじゃん!」
僕の肩をバシバシと叩く彼女。力が弱くて、全然痛くなかった。
「そろそろ着くよ」
「はっ!もう着くの⁉︎」
「うん」
「緊張してきたぁ」
 電車は、時間通りに目的地に到着した。意外と人が多かったので、僕たちははぐれないように手を繋いだ。
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