【本編完結】瓦解

星の書庫

文字の大きさ
5 / 54

勉強会(3)

しおりを挟む
 三十分ほど茉莉に勉強を教えただろうか。辺りはもう暗闇に包まれていた。
「もう外が暗いわね。今日はもうやめておく?」
「そうだな。じゃあ、俺は帰るとするか。さっき教えた所はきちんと復習しておけよ」
「分かってるわよ」
俺は、散らばっていた勉強道具を片付け始める。その横で茉莉は腰を上げ、見送りの準備を始めた。
「駅まで送って行きましょうか?」
「いや、大丈夫。一人で帰るよ」
「そう?じゃあ玄関先までね」
「はいよ」
 二人で階段を降りながら、他愛もない話をするくらいには、仲が良くなったと思う。別に彼女に気があるわけではないが、嫌いだという訳でもないので、そこは素直に嬉しいと思うことにする。
「何ニヤニヤしてるのよ、気持ち悪い」
「別に普通だが?」
「ふーん。じゃ、気をつけて帰りなさいよ」
「言われなくても。また学校でな」
 そう言いながらドアノブに手をかけ、ドアを開けた時だった。眼前に広がるのは、いつの間にか降り出していた豪雨だった。
「……」
「……」
今は梅雨の時期だった事を、すっかり忘れていた。
「あー……」
「ちょっと、これどうするのよ」
「これは……走って帰るしかないな」
勉強道具は濡れてしまうが、仕方ない。俺は覚悟を決める。
「ま、待ちなさいよ!風邪引くわよ!」
「でも、帰るしかなくないか?」
「泊めてあげるから、今帰るのはやめておきなさいよ」
「そんなわけにもいかないだろう?」
「でも、危ないわよ」
 恋人でもない年頃の男女だ。そんな二人が一つ屋根の下で一晩過ごすなんて、何か間違いが起きてもおかしくない。
「とにかく!危ないから今帰るのはダメよ!もうすぐママが帰ってくるから、車で送ってもらいましょう」
「……分かった」
 特に急ぎの用事もないし、幸いにも明日は土曜日だ。俺は茉莉の提案を受け入れることにした。
「じゃあ、勉強の続きでもしましょうか」
そう言って、彼女は上機嫌で二階へと上がっていった。嫌いな男と一緒にいる時間が長引くのに、なぜ嬉しそうなのか。俺にはよく分からない心情だ。
「はぁ……」
俺は、頭を抱えながら階段を上がった。

 茉莉の母親が帰ってきたのは、午後八時になろうかという時間だった。
「まつりちゃんただいまぁ。外がひどい雨でね、遅くなってごめんねぇ。……あら、来客かしら?」
二階にいても聞こえるような大きな声が、玄関に響いた。
「ママが帰ってきたわね。一度下におりましょうか」
「そうだな」
部屋を出ようとするより、彼女の母親が部屋に入ってくる方が早かった。
「まつりちゃぁん、友達が来てるのー?あら、男の子じゃない。彼氏?初めまして。まつりちゃんのママの史乃ふみのって言いますぅ。よろしくね?」
部屋に入り俺の存在を認識したかと思えば、次の瞬間には流れるようなマシンガントークを繰り出してきた。
「は、初めまして。の島崎純です。彼氏ではありませんが、よろしくお願いします」
戸惑いながらも挨拶を返すと、史乃さんは微笑みながら俺の肩を掴んだ。
「友人だなんてそんな、隠さなくてもいいのよ。まつりちゃんをよろしくね?」
割と真剣な口調でそんなことを言うものだから、茉莉は耐えられなくなって間に割って入った。
「ちょっとママ!こいつは本当にただの友達だから!勉強を教えてもらってただけよ!」
「あら、そうなの?つまんないの」
口を尖らせる史乃さんの横で、顔を赤くした茉莉が恥ずかしそうにしている。
「つまらなくないわよ!雨で帰れなくなっただけ!送ってあげて!」
「えぇでも……。この雨だし、もう遅いし。明日休みなんだから、泊まって貰えばいいじゃない?」
「「……は?」」

 彼女の何気ない一言で、俺は茉莉の家に泊まることになってしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安
恋愛
穏やかな美青年王子が、即位した途端に冷酷な王に変貌した。そしてそれが、不羈の令嬢ベアトリスの政略結婚相手。 ポストファンタジー宮廷ロマンス小説。 ※拙作「山賊王女と楽園の涯」の完結編という位置づけでもありますが、知らなくとも問題ないよう書いてあります。興味があればそちらもお読みください(ただしずいぶんジャンルが違い、とても長いです)。

処理中です...