【本編完結】瓦解

星の書庫

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約束は、果たされない。

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 九月一日。俺の通う高校は、今日から二学期に入った。
「……眠い」
「あんな時間まで起きてたら、そりゃあ次の日眠いだろうな」
「純は眠くないわけ?」
「俺だって眠いよ」
「ふぅん。今日は自由登校なんだから、眠いなら休めばよかったじゃない」
「それ、茉莉にも言えるよな」
うちの高校は、始業式は基本自由登校となっている。教室内には、十人ほどしかいなかった。
「う……。それはほら、私はあんたに会いたかったから来たのよ」
俺の頬をつねりながら、茉莉は顔を赤くする。彼女のこんなところは、世界一可愛い。
「俺も、茉莉に会いたかったから来たんだよ」
「うぅ……はいはい。分かってるわよ」
茉莉は恥ずかしそうに笑いながら、席に座る。すると、タイミングよく、始業のチャイムがなった。
担任が教室に入ってきて、出席を取り始める。
「今日来たのはこれだけね?まったく、皆だらしない生活を送ってきたんでしょうね。……まあ良いわ」
そう言うと、担任は教室を出て行った。今日はこの後、集会がある。俺と茉莉を含め、教室内にいる生徒たちは皆、体育館へと移動を始める。


 校長の話は、いつの時代も長くてつまらないものだと思う。小中高と色々な人が前で話すのを聞いてきたが、今目の前に立っているこのハゲ頭は、桁違いに話が長い。
周りを見ても、真面目に聞いている生徒はほとんどいない。皆寝ているか、友達と喋っている。
茉莉も、最初こそはきちんと聞いていたが、五分ほど経つと瞼が閉じていた。
十分経って、ようやく校長の話が終わった。今まで寝ていた生徒達も、終わったのに気付いて起き出す。

 それからは特に何も起こることなく学校も終わり、下校時間になった。
「純、今日も暇よね?」
手を繋いで俺の横を歩く茉莉は、当然と言うように聞いてくる。
「暇だけど、何かある?」
「行ってみたいところがあるんだけどさ……」
「うん?」
彼女は深刻そうに、俺の顔を覗き込みながら言う。そんなに言いにくいことなのか。
「その……。ゲームセンターに、行きたいのよ……」
「……ん?」
思わず聞き返してしまった。ゲームセンターと、茉莉は確かにそう言った。
「だから、ゲームセンターに行ってみたいの!」
聞き間違いではなかったらしい。敷居が高いわけでもないし、誰でも気軽に行けると思うが。俺は少し気が抜けてしまった。
「お、おう……。俺で良いならいくらでも付き合うけど」
「本当に!?」
「うん」
「やったぁ!早く行きましょう!」
茉莉は、俺の手を握って駆け出した。感情の起伏が激しくて、時々彼女に付いていけなくなりそうだ。
「そんなに急いでも、ゲーセンはどこにも行かないって……」
このセリフ、前にも言った気がするが……。どうでもいいか。


 クーラーが効いていて涼しい店内は、それほど人も多くなく、二人で楽しむには丁度良かった。茉莉はクレーンゲームを見て、目を光らせている。
「純、これは何!?」
「これはクレーンゲームと言って、アームを動かして景品を取るやつだ」
「面白そう!やる!」
そう言って笑う彼女は、娯楽を覚えたばかりの子供みたいだ。
茉莉は、ピンクのクマのぬぐるみの入った台を見つけると、それに駆け寄ってお金を入れた。
「よぉし、やってやるわよ」
威勢の良い声とは裏腹に、アームは何もない所へ行き、クマを取ることはできなかった。
「あれ?もう一回!」
二回目も失敗。どんどんお金を投入する茉莉だが、結局、目当てのクマを掴むことさえできなかった。
「取れないよ~」
「……お前、下手すぎるだろ」
涙目になりながら、茉莉は俺に取ってと言ってきた。俺もあまり得意ではないが、彼女のためになるなら、頑張るとするか。
一回目はクマを掴み、穴の近くまで持ってきたところで、クマがアームから落ちてしまった。次こそはと思い、二回目に移るが、少し動かす程度で終わってしまった。
「あんた下手ねぇ」
「茉莉に言われたくないな」
「私は良いのよ」
「なんだよその理屈」
三度目で、ようやくクマが穴に落ちた。茉莉は落ちてきたぬいぐるみを受け取ると、満足そうに笑う。
「えへへ、ありがとぉ」
満面の笑みでクマを抱き抱える彼女は、とても良い絵になっていた。


 それから、俺たちは色々なゲームをした。レースゲームやエアホッケーはもちろん、店内対戦型の格闘ゲームにも手を出した。
 気付くと、辺りは薄暗くなり始めていた。
「もうこんな時間?全く気付かなかったわ」
「俺も、そこまで気にしてなかったから」
「そうよねぇ。今日はもう帰る?」
「そうしようか」
俺たちは、そこで別れた。
別々の道を歩くのは久しぶりだったが、茉莉は用事があると言って先に帰ってしまった。
その日の夜から、茉莉からの連絡は途絶えた。


 次の日。いつも待ち合わせする場所に、茉莉は来なかった。
学校で、彼女が交通事故で亡くなったと聞いた。
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