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二度目の夏祭り
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七月下旬。高校は終業式を迎え、夏休みに入った。
四月から変わった事と言えば、塾に通うようになったことくらいだ。俺は大学に進学するために、休日を返上して勉強するようになった。もちろん、それは夏休み中も変わらない。
夏休み初日。ふと、一年前の今日を思い出した。
茉莉の家に泊まって、恋人になった次の日だった。
二人して寝坊して、大慌てで浴衣の着付けに行った。茉莉のワガママに付き合って、色々なものを見た。疲れて休憩しようと入ったファミレスで、柄の悪い連中にも絡まれた。
「……楽しかったなぁ」
今でも昨日の事のように思い出せる、色鮮やかな記憶。
今でこそ青山さんがいるが、彼女との思い出は比べ物にもならないだろう。それくらい、茉莉と恋人として過ごした一ヶ月は濃く、密度が高かった。
茉莉は今、どうしているだろうか。天国でうまくやっていけているだろうか。気の強い性格だから、仏様に噛み付いていたりするのかな。
そんな事を考えながら、俺の意識は真夏のジメジメとした空気に沈んでいった。
『~~~♪』
メールの着信音で目が覚めた。携帯に表示されている時刻を見ると、すでに十四時を回っている。
俺のメールアドレスを知っているのは、家族を除いて三人。今日は夏祭りの日だし、この日この時間にメールを送ってくるのは、一人しかいないだろう。
送り主の宛先は俺の予想通りだった。
『今日お時間があれば、一緒にお祭りに行きませんか?』
短いながらも、俺の事を気遣ってくれているなと感じる。彼女も物好きな人だと思いながら、俺は返信の文面を打った。
二時間後。時刻は午後六時。他所行きの服に着替えた俺を待っていたのは、浴衣に着替えた青山さんだった。
「どう、ですか?」
お得意の上目遣いで俺を見上げる彼女は、贔屓目抜きにしても、十分可愛い部類に入るだろう。
「うん……可愛いと思う」
「そうですか……えへへ……」
思わず見惚れてしまい、そっけない返事しか返せなかった。青山さんも褒められて嬉しそうにしているし、良い返事ではあったのだろう。
「それじゃあ、行こうか」
「は、はい!」
俺たちは手を繋いで、屋台の並ぶ商店街を歩き始めた。
「何か食べたいものとかある?」
「そうですね……じゃあ、りんご飴が食べたいです」
「……りんご飴か」
茉莉も、一番にりんご飴を食べたがっていたな。女子とはそういう習性があるものなのだろうか。
「どうかしましたか?」
「ん、何でもないよ」
いけない。今は青山さんとのデート中だ。茉莉のことは考えないようにしよう。
慌てて平静を装い、俺は青山さんの所望するりんご飴を買うべくして、屋台の前にできている列に並んだ。
「おいしい?」
「はい、美味しいです……」
幸せそうにりんご飴を頬張る青山さんを見て、勉強の疲れが少し癒えた気がする。誘ってもらえて良かったなと感じた。
「……それは良かった」
「はい!」
楽しい時は早く過ぎる。気がつけば、花火が打ち上がる時間になっていた。俺と青山さんは花火の見やすい河川敷に移動し、適当な場所に座った。
「いよいよですね!」
「そうだね。高校に入ってから花火を見るのは初めてだから、楽しみだよ」
「え、初めてなんですか?」
「うん。去年もここには来たんだけど、変な奴らに絡まれちゃってね。結局花火を見ずに帰る羽目になったんだ」
「そうなんですね……」
「……うん」
気まずい雰囲気にしてしまった。ここはどうにかして場を盛り上げないと。
「青山さんは、去年も花火を見たの?」
「はい、去年は愛佳ちゃんと一緒に来ました」
「あぁ、あの人か」
修学旅行の時の、失礼な人か。仲が良いんだな。
「はい。今年はあの子も、彼氏と行くって張り切ってましたよ」
青山さんは友達の事を、自分の事のように嬉しそうに話す。人想いの優しい人だ。
「そうなんだね……あ、花火が始まるよ」
会話も弾んできたところで、打ち上げ花火の開始のアナウンスが流れた。それまで騒がしかった人々が、一斉に空に注目したのが分かった。
程なくして、夜空を彩る無数の花火が打ち上げられた。
「わあ、綺麗……」
「そう、だね」
横で微笑む彼女と空に咲く色鮮やかな花は、とても良い画になる。不満はないし、むしろ満足しているくらいだ。
だが、願わくばこの景色を、他の誰でもない「茉莉」と見たかったと思う自分がいた。
俺達は、手を繋いだ。花火を見上げながら、真夏の暑い夜に体を寄せ合った。
彼女は、初めての彼氏との思い出として。俺は、今は亡き元恋人の、穴埋めとして。
一番大きな花が咲いた瞬間。人目も気にせずに、俺たちは唇を重ねた。
四月から変わった事と言えば、塾に通うようになったことくらいだ。俺は大学に進学するために、休日を返上して勉強するようになった。もちろん、それは夏休み中も変わらない。
夏休み初日。ふと、一年前の今日を思い出した。
茉莉の家に泊まって、恋人になった次の日だった。
二人して寝坊して、大慌てで浴衣の着付けに行った。茉莉のワガママに付き合って、色々なものを見た。疲れて休憩しようと入ったファミレスで、柄の悪い連中にも絡まれた。
「……楽しかったなぁ」
今でも昨日の事のように思い出せる、色鮮やかな記憶。
今でこそ青山さんがいるが、彼女との思い出は比べ物にもならないだろう。それくらい、茉莉と恋人として過ごした一ヶ月は濃く、密度が高かった。
茉莉は今、どうしているだろうか。天国でうまくやっていけているだろうか。気の強い性格だから、仏様に噛み付いていたりするのかな。
そんな事を考えながら、俺の意識は真夏のジメジメとした空気に沈んでいった。
『~~~♪』
メールの着信音で目が覚めた。携帯に表示されている時刻を見ると、すでに十四時を回っている。
俺のメールアドレスを知っているのは、家族を除いて三人。今日は夏祭りの日だし、この日この時間にメールを送ってくるのは、一人しかいないだろう。
送り主の宛先は俺の予想通りだった。
『今日お時間があれば、一緒にお祭りに行きませんか?』
短いながらも、俺の事を気遣ってくれているなと感じる。彼女も物好きな人だと思いながら、俺は返信の文面を打った。
二時間後。時刻は午後六時。他所行きの服に着替えた俺を待っていたのは、浴衣に着替えた青山さんだった。
「どう、ですか?」
お得意の上目遣いで俺を見上げる彼女は、贔屓目抜きにしても、十分可愛い部類に入るだろう。
「うん……可愛いと思う」
「そうですか……えへへ……」
思わず見惚れてしまい、そっけない返事しか返せなかった。青山さんも褒められて嬉しそうにしているし、良い返事ではあったのだろう。
「それじゃあ、行こうか」
「は、はい!」
俺たちは手を繋いで、屋台の並ぶ商店街を歩き始めた。
「何か食べたいものとかある?」
「そうですね……じゃあ、りんご飴が食べたいです」
「……りんご飴か」
茉莉も、一番にりんご飴を食べたがっていたな。女子とはそういう習性があるものなのだろうか。
「どうかしましたか?」
「ん、何でもないよ」
いけない。今は青山さんとのデート中だ。茉莉のことは考えないようにしよう。
慌てて平静を装い、俺は青山さんの所望するりんご飴を買うべくして、屋台の前にできている列に並んだ。
「おいしい?」
「はい、美味しいです……」
幸せそうにりんご飴を頬張る青山さんを見て、勉強の疲れが少し癒えた気がする。誘ってもらえて良かったなと感じた。
「……それは良かった」
「はい!」
楽しい時は早く過ぎる。気がつけば、花火が打ち上がる時間になっていた。俺と青山さんは花火の見やすい河川敷に移動し、適当な場所に座った。
「いよいよですね!」
「そうだね。高校に入ってから花火を見るのは初めてだから、楽しみだよ」
「え、初めてなんですか?」
「うん。去年もここには来たんだけど、変な奴らに絡まれちゃってね。結局花火を見ずに帰る羽目になったんだ」
「そうなんですね……」
「……うん」
気まずい雰囲気にしてしまった。ここはどうにかして場を盛り上げないと。
「青山さんは、去年も花火を見たの?」
「はい、去年は愛佳ちゃんと一緒に来ました」
「あぁ、あの人か」
修学旅行の時の、失礼な人か。仲が良いんだな。
「はい。今年はあの子も、彼氏と行くって張り切ってましたよ」
青山さんは友達の事を、自分の事のように嬉しそうに話す。人想いの優しい人だ。
「そうなんだね……あ、花火が始まるよ」
会話も弾んできたところで、打ち上げ花火の開始のアナウンスが流れた。それまで騒がしかった人々が、一斉に空に注目したのが分かった。
程なくして、夜空を彩る無数の花火が打ち上げられた。
「わあ、綺麗……」
「そう、だね」
横で微笑む彼女と空に咲く色鮮やかな花は、とても良い画になる。不満はないし、むしろ満足しているくらいだ。
だが、願わくばこの景色を、他の誰でもない「茉莉」と見たかったと思う自分がいた。
俺達は、手を繋いだ。花火を見上げながら、真夏の暑い夜に体を寄せ合った。
彼女は、初めての彼氏との思い出として。俺は、今は亡き元恋人の、穴埋めとして。
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