【本編完結】瓦解

星の書庫

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愛のカタチ

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 文化祭。体育祭に次ぐ、高校生にとって大事なイベントの一つだろう。
各々の教室を好きに飾り付け、様々なサービスを提供するもので、文化祭の時期になると学校中が騒がしくなり、準備に追われる日々が続く。
それは俺の通う高校も例外ではない。特に今年は、創立から六十年という大きな節目の年でもあるため、より一層力を入れているようだ。
 青山さんは実行委員をやることになり、クラスをまとめようと奮闘している。
「こういうの好きなんだ。誰かを引っ張っていける人って、かっこいいと思うから」
彼女はそう言った。俺なら絶対にやらないだろうなと皮肉を込めて言うと、島崎くんらしいねと彼女は笑った。


 うちのクラスでは、演劇をやろうという話になった。
演目は『ロミオとジュリエット』。体育館に設置される特設ステージの上で、二日間の計四回と予定された。
青山さんはクラスの中心的存在なので、ヒロインであるジュリエットをやるよう皆に頼まれていた。
一方の俺は交友関係も少なく、隅で生きるような人間なので主役はやれない。ロミオを演じるのは輝樹だろう。
彼なら青山さんの演じるジュリエットに相応しい演技が出来ると、誰もが思っているに違いない。
俺は邪魔だと思い、舞台のセットを作る裏方の仕事を買って出た。
青山さんは俺にロミオを演じて欲しかったようで、少し拗ねていた。


 小道具を作る横で、一度だけ演技の練習風景を見た。
青山さんと輝樹の熱演は本当に愛し合っている恋人同士のようで、自分の中にある劣等感を刺激された。気分が悪くなるので、その後の作業は全て別室で進めることにしよう。
 文化祭まであと三日。いつも通り別室で作業する俺のところに、青山さんが顔を出した。
「島崎くん、少し休憩しない?」
背景の絵に色を塗っていると、彼女は手に冷たい飲み物を持って現れた。
「作業は順調?」
「文化祭までには間に合うよ。青山さんは……聞くまでもないか」
「そんな事ないよ。みんな演技が上手で、実はついていくのに精一杯だったりするかな……」
そう言って彼女は苦笑する。
「私さ……ロミオの役を、島崎くんにやってもらいたかった」
「……どうして?」
「好きな人とやるの、憧れるでしょ?」
「……そういうものかね」
俺としては、なんでも出来る輝樹が適任だと思うが……。
「そういうものなんだよ。なんだか今の私たち、ロミオとジュリエットみたい……」
「それってどういう……青山さん?」
彼女は泣いていた。涙の理由は、俺には分からない。
「ごめん、違うの。変だよね、私……」
「……変じゃないよ」
俺は青山さんの体をそっと抱き寄せた。ただ泣いて謝るだけの彼女に、俺は何もしてあげられなかった。
 十分後。青山さんは一言「ありがとう」とだけ言って、練習に戻っていった。


 本番を明日に控えた最後の全体練習。体育館で、本番のようにセッティングして劇を行った。
物語は中盤。誰もが知るであろう、有名なシーンに差し掛かった時だった。
『あぁロミオ。あなたはどうしてロミオなの……』
そのセリフを言わなくてはいけない場面で、青山さんが言葉を詰まらせた。
「カット!!青山さん、何してるの!」
演出を仕切る生徒が青山さんを叱っている。本番は明日だ。皆真剣にやっている中で、セリフがわからなくなるというミスは士気を下げることにも繋がる。全員が張り詰めた空気の中にいた。
「やる気がないなら帰ってよ!みんな、一生懸命やってるんだよ!」
その一言は、必死で頑張ってきた青山さんには重すぎた。
「ごめん、なさい……ごめんなさい、そんなつもりじゃ……」
彼女は初めて、大勢の前で涙を見せた。クラスメイトたちはざわめきだし、その場は収集がつかなくなった。


 考えるよりも先に、体が動いていた。舞台袖にいた俺は青山さんへと駆け寄ると、彼女を抱えてステージを降りる。
「青山さん、今朝からずっと体調が悪いみたいなんだ。保健室へ連れて行くよ」
もちろん嘘だ。だが、青山さんに何かあったのは間違い無いと思う。だが、今は彼女をこの場から離して、落ち着かせることが重要だろう。
 泣いている彼女を抱えて、俺は体育館を後にした。
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