【本編完結】瓦解

星の書庫

文字の大きさ
33 / 54

愛のカタチ(2)

しおりを挟む
 保健室のベッドに青山さんを寝かせてしばらくすると、彼女は普段のような落ち着きを取り戻した。
「……ごめんなさい」
「青山さんのせいじゃないよ」
「島崎くんは優しいね。でもね、私が皆の劇の障害になってるのは、自分が一番分かってるんだよ……」
「……ごめん」
青山さんがあの場でどうして泣いたのかは分からない。俺は、気休め程度の言葉しかかけてあげられなかった。
彼女はそれを見抜くように、自虐的な笑みを浮かべる。
「島崎くんは、私以外にも誰かを好きになった事があるんだよね」
青山さんは今日二度目の涙を溢す。それは一度目とは違い、静かな涙だった。
「島崎くんと出会った時、私の王子様はこの人だって思った。仮面舞踏会でロミオと出会ったジュリエットは、私と同じ気持ちだったのかな……」
「……そう、だったのかもしれないね」
「この劇の配役を決める時ね。私がジュリエットならロミオは島崎くんだって期待しちゃった」
「……ごめん」
「好きな人と恋人役を演じる事ができたら良いのになんて、そう思ったのは、私だけだったのかなぁ……」
大粒の涙を流す彼女を前に、俺は気の利いた言葉が思いつかなかった。


 青山さんはひとしきり泣くと、「もう大丈夫だから」と笑ってみせた。それは、表面上はいつもと変わらない、屈託のない笑顔だった。
「ねえ、島崎くん。一つだけ、わがままを言っても良いかな」
「……うん」
「一回だけで良いからさ……」


 クラスの皆には、二人で謝りに行った。下校時間が近かったので、リハーサルをぎりぎりで切り上げて下校した。


 翌日。いよいよ本番だ。開演まであと五分。舞台袖では、各々が励ましあったりして、士気を高めていた。
「緊張するね……」
「青山さんならきっと大丈夫だよ」
「……うん、頑張る」
青山さんは、拳を胸の前で握りしめて気合を入れる。
開演のブザーも鳴り、彼女は「ジュリエット」を演じるべく舞台に立った。


 場面は仮面舞踏会。ロミオとジュリエットが初めて出会うシーン。
俺は、前日の主役変更で手直しの間に合わなかった衣装を身に纏い、青山さんと舞台に立っている。
真っ白な手袋をはめて彼女の手を取り、台詞を口にする。
「また、会いに来てもよろしいでしょうか?」
「もちろん、待っていますわ」
青山さんは笑顔で答える。
ジュリエットを呼びに来た侍女によって、場面は次へと切り替えられた。


 お城のバルコニーで想い人を待つジュリエット。
それを陰から見守るのは、ロミオの幼馴染役を演じる事になった輝樹だ。
やがて、隠し通路からロミオが姿を表した。
「遅れてしまってすみません」
「気にしないでください。私は貴方様に会えるだけで良いのですから」
「僕にはもったいないお言葉です……」
今の二人には、いがみ合っている家同士とは思えぬほど幸せな時間が流れていた。
しばらく談笑していると、不意にジュリエットが何かを思い出したように泣き出してしまう。
「あぁロミオ。貴方はどうしてロミオなの……?」
ジュリエットの嘆きは悲痛だった。二人の生まれた家柄のせいで、こうして隠れて会うことしか許されない。二人の愛を阻むのは、どうしても覆せないものだった。
「……それは分からない」
ジュリエットは夜空を眺めて、独り言を漏らす。
「貴方は一体誰なのでしょうか……」
ロミオはその独り言に沿って、返事をした。
「私は誰でもありません。名はもう捨てました」
「私の事を本当に愛していますか?」
「愛しているとも」
「じゃあ、誓ってください」
「今宵の満月に誓います」
「それはダメよ。月なんて、日が経てば消えてしまう。なくなるものになんて誓わないで」
ロミオは不満を口に出す。
「じゃあ、私は何に誓えば良いのですか?」
「貴方様に誓ってください」
「私に?」
「神に誓うのが一番だから。貴方は私の神様よ」
「わかりました。誓います」


 遅くまで起きているジュリエットの部屋に、侍女が近づいてくる足音が聞こえた。
ロミオは城を離れ、その足で町外れの教会に住む神父の所へと走った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安
恋愛
穏やかな美青年王子が、即位した途端に冷酷な王に変貌した。そしてそれが、不羈の令嬢ベアトリスの政略結婚相手。 ポストファンタジー宮廷ロマンス小説。 ※拙作「山賊王女と楽園の涯」の完結編という位置づけでもありますが、知らなくとも問題ないよう書いてあります。興味があればそちらもお読みください(ただしずいぶんジャンルが違い、とても長いです)。

処理中です...