【本編完結】瓦解

星の書庫

文字の大きさ
41 / 54

受験期

しおりを挟む
 クリスマスも終わり、年の瀬。俺は家で、机に向かっている。
 二十五日以降、俺は本格的に、受験勉強を始めることにした。今まで休み気味だった塾にもまた通うようにするので、玲との時間はますます減っていくだろうと思う。
『もうすぐ今年も終わるね』
携帯越しに聞こえる玲の声は、少し寂しそうだ。
「そうだね……来年は受験だ」
『うん……私も、頑張らないとね』
玲は看護学校を受験する予定らしい。難易度が高いらしく、合格できるかは分からないが、挑戦してみたいと言っていた。
「お互い頑張ろうね」
『うん、頑張ろう……あっ、純くん』
「うん?」
『あけましておめでとうございます』
気付けば、時計の針は十二時を回っていた。
「おめでとう。今年もよろしくね」
改まって新年の挨拶をする玲に、俺も挨拶を返す。二人で今年も頑張ろうと励ましあって、笑う。
一人でも一人じゃない。そんな年の初めを過ごすうちに、夜も更けていった。


 四月になると、新しい一年生が入学してきた。
この学校では大学受験に集中する人が少ないため、三年生と下級生たちの交流が、他の高校より盛んになる。
俺は数少ない大学受験組なので、特に誰とも仲良くすることなく、受験に集中する日々になるだろう。尤も、元から人と仲良くする気は、あまりない。
加えて、玲と別のクラスになったので、校内ではほとんど声を発さなくなった。唯一また同じクラスになった輝樹も、最後の大会に向けて集中するらしく、最近は話すことはない。
 学校と塾に通い詰める毎日。高校受験で失敗してこの高校に入学した経験を持つ身としては、大学受験だけは絶対に失敗したくないという思いが強い。毎日必死に勉強した。

 そうこうしているうちに、七月。夏休みに入った。
休みといっても、受験生にとって夏休みは勝負の期間だ。休んでいる暇はない。
朝早くから塾の自習室にこもり、夏期講習が終わると、また自習室へ行く。
 そんな日々が続くある日、塾に新しい生徒がやってきた。
無口な女子生徒で、俺と同じ大学を志望しているらしい。能海愛花のうみあいかというらしい彼女は、学力も俺とそれほど変わらず、同じクラスで授業を受けることになった。
能海はほとんど喋らない。誰かに分からない問題を質問することもないので、通い始めて一週間で、周りからは優等生だと思われていた。
 そんな彼女と俺が仲良くなったきっかけは、とても些細なことだった。
ある日の授業後。今日は用事があったので、自習室には行かずに帰ろうとした時だった。困った様子の能海が、俺の着ている服の裾を引っ張ってきたのだ。
「……何でしょうか」
「ん……」
無言のまま、彼女は机に広げられた参考書を指さす。そのページには、俺が授業で解いた問題が載っていた。
「もしかして、これを教えてほしいと?」
能海は、そうだと言わんばかりに何度も頷く。なぜ俺なのか。そう思って辺りを見渡すと、教室の中には俺と能海の二人だけしかいなかった。
「今日は忙しいんだけど……まあ良いか」
俺は自分のノートを鞄から取り出し、彼女に席に座るように促す。彼女の席の向かいに椅子を置いて、俺はそこに座った。
「急いで説明するから、一度で理解してくれ」
 五分ほど解き方を説明すると能海は完全に理解したらしく、応用問題までスラスラと解いてしまった。
「これが解けるなら大丈夫だな」
俺は椅子を元に戻して、変える準備を始める。満足した様子の能海は、俺が帰るのを察すると立ち上がり、頭を下げた。
「あ……ありがとう」
初めて聞いたその声は、聞き取りが困難なほど小さかった。
「おう……それじゃあ、また」
「……うん」
 その日から、俺と能海は一緒に勉強することが増えた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安
恋愛
穏やかな美青年王子が、即位した途端に冷酷な王に変貌した。そしてそれが、不羈の令嬢ベアトリスの政略結婚相手。 ポストファンタジー宮廷ロマンス小説。 ※拙作「山賊王女と楽園の涯」の完結編という位置づけでもありますが、知らなくとも問題ないよう書いてあります。興味があればそちらもお読みください(ただしずいぶんジャンルが違い、とても長いです)。

処理中です...