1 / 5
1
しおりを挟む
月の冴え渡る夜だった。
アリーシャは城の上階にある自室の大窓から外の光景を眺めていた。
眼下に広がる城下の街は、その大半がいまや暗い闇の中に沈んでいる。
以前は近隣に比類なき王都らしい、活気に満ち溢れた街だった。
大勢の旅人や商人たちがこの王都シエリムを目指してやってきた。
どの街区のどんな細い辻も人々で溢れ返り、世界各地の文物が絶え間なく取り引きされ、シエリムに来ればないものはない、とまで言われていたほどだ。
日が落ちれば歓楽街では当然のこと、眠らぬ夜が更けていき、その狂乱にも似た猥雑さはしかし多くの老若男女を虜にした。
住宅地ではどの家々にも例外なく暖かな火が灯り、国民は満ち足りた穏やかな時間を過ごすことを約束されていた。
だが、そんな光景は今となっては最早過去の幻に過ぎない。滅び行く国が最後に見るまどろみの中の夢のようなもの。
一年ほど前に戦が始まり、敗戦の色が濃くなるに連れ、住民たちは次々に王都から脱出し新天地を目指し始めた。
いかに王都の守りが堅固とはいえ、沈み行く泥船に自ら残りたいと思うものがいないのは道理だ。
彼らにも生活があり、何より失いたくない命がある。
だが、そこに忠誠心や愛国心といった感情が入り込む余地は一片もなかったのだろうか。
アリーシャたち王家の人間は国民たちのために尽くし、その生活を守ることを第一義に生きてきたつもりだ。
しかし、そこに確かに感じられていたであろう絆というものが、こんなにも脆いものだったのかと今更ながらに思い知らされる。
アリーシャは深い溜め息を吐いた。しかし、そのうら若き女王の嘆息を聞くものは周囲に誰もいない。
アリーシャは城の上階にある自室の大窓から外の光景を眺めていた。
眼下に広がる城下の街は、その大半がいまや暗い闇の中に沈んでいる。
以前は近隣に比類なき王都らしい、活気に満ち溢れた街だった。
大勢の旅人や商人たちがこの王都シエリムを目指してやってきた。
どの街区のどんな細い辻も人々で溢れ返り、世界各地の文物が絶え間なく取り引きされ、シエリムに来ればないものはない、とまで言われていたほどだ。
日が落ちれば歓楽街では当然のこと、眠らぬ夜が更けていき、その狂乱にも似た猥雑さはしかし多くの老若男女を虜にした。
住宅地ではどの家々にも例外なく暖かな火が灯り、国民は満ち足りた穏やかな時間を過ごすことを約束されていた。
だが、そんな光景は今となっては最早過去の幻に過ぎない。滅び行く国が最後に見るまどろみの中の夢のようなもの。
一年ほど前に戦が始まり、敗戦の色が濃くなるに連れ、住民たちは次々に王都から脱出し新天地を目指し始めた。
いかに王都の守りが堅固とはいえ、沈み行く泥船に自ら残りたいと思うものがいないのは道理だ。
彼らにも生活があり、何より失いたくない命がある。
だが、そこに忠誠心や愛国心といった感情が入り込む余地は一片もなかったのだろうか。
アリーシャたち王家の人間は国民たちのために尽くし、その生活を守ることを第一義に生きてきたつもりだ。
しかし、そこに確かに感じられていたであろう絆というものが、こんなにも脆いものだったのかと今更ながらに思い知らされる。
アリーシャは深い溜め息を吐いた。しかし、そのうら若き女王の嘆息を聞くものは周囲に誰もいない。
0
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる