亡国の女王は月夜に甘い夢を見る

森いちほ

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   ※                             ※                            ※

   ファルディア大国はミネア大陸のほぼ中央に位置する。
交通の要衝として、また交易の中心地として、大陸の東西を繋ぐ役割を担うファルディアは千年の昔から途切れることのない栄華を誇ってきた。
海には面していないものの鉱物資源・植物資源に恵まれ、温暖で穏やかな気候は終始安定した収穫をもたらす。
   建国時より続くヴァノワ王家は常に善政を敷き、国民たちに不満は皆無とは言えなかったであろうが、反乱の兆しはかつて一度もなかったと伝わる。
   しかし――
   その千年の栄華にも翳りの見え始める時が訪れる。
きっかけは全世界規模での気象変動だった。
ただでさえ実りの少ない南の砂漠の国々では不作による飢餓が進行し、寒冷化の進む北国では先の見えない長い厳冬が続く。
海に面した国々では台風による塩害が頻発し、国土は荒れ、富める者とそうでないも者の差がより顕著になる。
   そんな中、相も変わらずこれまで通りの豊かさを誇るファルディアに周辺諸国が羨望の眼差しを向けるのも当然のことだった。
もちろん、その豊かさは王家の不断の努力あってのものだったのだが、そんなことは周囲の国々には知るよしもない。
羨望は嫉妬へと変化し、嫉妬はさらに憎悪へと変わっていく。
 最初にファルディアに反旗を翻したのは西の国、アガルマだった。
元来ファルディアに次ぐ大国であったアガルマは、その地理条件も手伝い、度重なる自然災害により国土の荒廃が進み、多くの人民たちが貧困に喘いでいた。
もちろんファルディアはできうる限りの援助を試みたのだが、それを“持てる者”からのほどこしと受け取ったのか、準大国としてのプライドを傷つけられたと、アガルマから国交断絶の通告が届く。
それに倣う形で多くの国々がファルディアに背を向け出し、いつしか大国は孤立状態と化した。
さらに、飢えに苦しむ国々がファルディアの肥沃な土地に目をつけ国境線へと軍隊を送り込み始める。
国境付近で発生した散発的な小競り合いは次第に大規模な戦争へ発展し、やがて各国は対ファルディアの同盟を組み、共同戦線が張られ、ファルディア包囲網が完成する。
ファルディアは元々貿易国ということもあり、どの国に対してもどちらかというと中立の立場であったため、それほど強力で規模の大きな軍隊は所有していなかった。
軍隊を持たないこと、戦争をしないことは長年ヴァノワ王家のモットーでもあったのだが、今回はそれが仇になった。
ファルディアが付け入られる隙はあまりにも大きく、一度国境線が破られると同盟軍の国内への侵入、進行を許すのはあっという間だった。
ファルディア軍は善戦も虚しく各地で破れ後退を余儀なくされ、敗戦に次ぐ敗戦のため国土は次々と割譲され、千年の大国は僅か一年のうちにその領土の大半を失った。
 そして・・・。
 一月前の最後の総力戦でファルディアは王とその全ての息子たちを亡くした。
総力戦の前に王は王妃と一人娘を国外へ逃がそうとしたのだが、運悪く途中で同盟軍に捕らえられ、王妃は虜囚となり、王女だけが近衛隊が決死で活路を開いたことにより辛くも難を逃れた。
 そのため――
アリーシャ・デ・カトリーヌ・ヴァノワは弱冠二十歳にしてファルディアの女王となった。
明日にも滅び行くこの国の運命を担う者として。
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