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第2杯 この瞬間がものすごく好き。
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大学から戻り、ひと休みしていた部屋でくつろぐあたしは、暇なので昨日のカップを届ける事にした。
「さてと、カップでも返しに行こうかな」
あたしはひとり呟いてから、寝る前に洗っておいた昨夜のカップをキッチンに取りに行く。真っ白な柄もないシンプルなカップを手に取り、下の階にあるCafeに行くため玄関を出る。
大学から直で帰ってきたから、Cafeはまだ営業中。夕方だからかはわからないけど、店内にはちらほらお客さんの姿も。
「いらっしゃい、トウコちゃん」
自動ドアをくぐった瞬間に大家さんがいつもの穏やかな物腰で迎えてくれた。
あたしも早速そんな大家さんへ話かける。
「あっ大家さん。はい、コレ」
あたしはカウンター席の空いていた場所に腰かけて、手に持っていたカップを手渡す。
「昨日のカップだね。洗わなくてもよかったのに」
「でも、昨日借りた物だったから、洗わないと気持ち悪いかなって」
「それもそうだね」
大家さんは自分の言葉がおかしかったのか、クスッと小さく笑って頷いている。
ひと通り大家さんと話した後、昨日の女性が店内に入ってきた様子。横切りかけて、ふと――あたしの目前で止まる。
「あれ、昨日の――えっと、董子ちゃん?」
声をかけられたあたしは顔が見える様に彼女のいる方へ少し振り返った。
「そうですよ、岡島さん」
「名前あっててよかった」
ホッとしたのか岡島さんはそう言って、いつものカウンター席奥じゃないとこに座っていた。それはあたしのすぐ傍だった。
仕事に専念していた大家さんがこちらを振り返る。
「いらっしゃい、岡島さん」
軽く視線を大家さんに向け、岡島さんは手で挨拶してからこちらに話しかけてくる。
「昨日のカップ返しに来たのね」
「ですね、岡島さんはこの時間からいつもここに?」
「ま~ね」
「ふ~ん、そうなんですか」
「あ~今暇なやつって思ったんじゃない?」
「えっ、そそんな事はないですっ」
「まぁいつもって訳じゃないけど、野暮用がない日や嫌な出来事とかあった時は大概ココにいる」
岡島さんは笑ってあたしに少し恥ずかしそうな、照れているような、そんな感じの表情をみせる。
「そうなんだ。確かにココって居心地いいですよね」
「っん、そうそう。居心地良すぎって、董子ちゃんもそう思ってるのか」
「もちろんです」
「そんなんじゃ嫁に行き送れるぞって、あたしには言われたくないか」
自虐ネタ話で盛り上がって来た所、あたし達はお互い顔を見合わせて笑う。そこに大家さんが目を細め、ふたりに声をかけてきた。
「ふたりとも、楽しそうだね」
「えっ」
大家さんの声掛けにあたしたちふたりの声がハモって、それがまたおかしくて笑った。その数秒後に静かだった自動ドアが、微かな機械音とともに開く。
そこにはふたりの人影。
人影はふたつ共男の人のよう、入口から少し遠めのあたしにも聞えた声でわかった。
会話をしながらCafeに入って来る。何やら少しもめている様子。
「じゃあ、こっちの問題もちょっと見てくれよ」
「んっこれはココが間違ってるんだよ。これはこの数式じゃない。別の――――」
私服を着た男性の説明が中断される。
声をかけたのは入口側に座っていた岡島さん。
「あんたら、うるさいよっ!」
「よっマス姉じゃん。ばんわっ」
軽い口調で制服を身にまとう男の子は岡島さんに気づいたのか挨拶した。
「ばんわじゃない、何をもめてんの?」
岡島さんの問い掛けに答えたのが、もう一人いた男の人。落ち着いた口調と雰囲気で、説明してくれる。
「いや、洋輔が数学の問題なんで間違ってるのか尋ねてくるから、説明したのに……どうも――理解してくれないんですよね」
苦笑して首を傾げている男の人。
「も~う少し慎一が分かり易く、説明しろよ」
「あのな、お前がもっと基礎をしっかり身につけてから訊いてくれよな」
「仕方ないじゃん。自慢じゃねえけどさ、最近なんだぜ――まともに勉強し始めたの」
「――それは確かに自慢じゃないな」
呆れてなのか、岡島さんがため息をつきながら、ふたりの会話に割り込んだ。
「まぁ――ほらっなんだ……勉強し始めたのはいい事な訳だから、もう少し基礎をしっかりとすればいいんじゃないかな」
「そんなに基礎基礎って、言うからには慎一教えてくれんだろうな?」
「おっ俺が?」
「そうだよね、あんたが教えてあげりゃいいんじゃない?」
「俺ですか?」
「そそ、あんたさ頭いいんだから」
男の人は頭をかきながら、少し戸惑っている様。
「いや、人に教えるとなると……難しいんですよね」
「じゃあ、後は――――」
岡島さんがそう言いながら、こちらに向きなおし、なぜかあたしを見て来た。
完全に油断してたあたしと彼女の目と目が合う。
「っえ、ああたしっ?」
「そうだ、董子ちゃんが教えてあげればいいんじゃない?」
突然の流れで驚きを隠しきれないあたし。皆がこっちに注目している。その答えになんて返答してよいのかわからなくて動揺していると、誰かが手を軽く叩いた。
それは岡島さんで何か思いついたのか、あたしの答えをきかない内にまた話出した。
「そういえば、3人は初顔合わせだった?」
「だな。マス姉――誰だよ?」
「ああ、宮野董子ちゃん」
「えっと、今月302号室に引っ越したばかりですがよろしくお願いします」
あたしが言い終わったのを見計らってか、今度は視線をふたりに移す岡島さん。私服の男の人を見ながら、あたしに紹介してくれる。
「さてと、カップでも返しに行こうかな」
あたしはひとり呟いてから、寝る前に洗っておいた昨夜のカップをキッチンに取りに行く。真っ白な柄もないシンプルなカップを手に取り、下の階にあるCafeに行くため玄関を出る。
大学から直で帰ってきたから、Cafeはまだ営業中。夕方だからかはわからないけど、店内にはちらほらお客さんの姿も。
「いらっしゃい、トウコちゃん」
自動ドアをくぐった瞬間に大家さんがいつもの穏やかな物腰で迎えてくれた。
あたしも早速そんな大家さんへ話かける。
「あっ大家さん。はい、コレ」
あたしはカウンター席の空いていた場所に腰かけて、手に持っていたカップを手渡す。
「昨日のカップだね。洗わなくてもよかったのに」
「でも、昨日借りた物だったから、洗わないと気持ち悪いかなって」
「それもそうだね」
大家さんは自分の言葉がおかしかったのか、クスッと小さく笑って頷いている。
ひと通り大家さんと話した後、昨日の女性が店内に入ってきた様子。横切りかけて、ふと――あたしの目前で止まる。
「あれ、昨日の――えっと、董子ちゃん?」
声をかけられたあたしは顔が見える様に彼女のいる方へ少し振り返った。
「そうですよ、岡島さん」
「名前あっててよかった」
ホッとしたのか岡島さんはそう言って、いつものカウンター席奥じゃないとこに座っていた。それはあたしのすぐ傍だった。
仕事に専念していた大家さんがこちらを振り返る。
「いらっしゃい、岡島さん」
軽く視線を大家さんに向け、岡島さんは手で挨拶してからこちらに話しかけてくる。
「昨日のカップ返しに来たのね」
「ですね、岡島さんはこの時間からいつもここに?」
「ま~ね」
「ふ~ん、そうなんですか」
「あ~今暇なやつって思ったんじゃない?」
「えっ、そそんな事はないですっ」
「まぁいつもって訳じゃないけど、野暮用がない日や嫌な出来事とかあった時は大概ココにいる」
岡島さんは笑ってあたしに少し恥ずかしそうな、照れているような、そんな感じの表情をみせる。
「そうなんだ。確かにココって居心地いいですよね」
「っん、そうそう。居心地良すぎって、董子ちゃんもそう思ってるのか」
「もちろんです」
「そんなんじゃ嫁に行き送れるぞって、あたしには言われたくないか」
自虐ネタ話で盛り上がって来た所、あたし達はお互い顔を見合わせて笑う。そこに大家さんが目を細め、ふたりに声をかけてきた。
「ふたりとも、楽しそうだね」
「えっ」
大家さんの声掛けにあたしたちふたりの声がハモって、それがまたおかしくて笑った。その数秒後に静かだった自動ドアが、微かな機械音とともに開く。
そこにはふたりの人影。
人影はふたつ共男の人のよう、入口から少し遠めのあたしにも聞えた声でわかった。
会話をしながらCafeに入って来る。何やら少しもめている様子。
「じゃあ、こっちの問題もちょっと見てくれよ」
「んっこれはココが間違ってるんだよ。これはこの数式じゃない。別の――――」
私服を着た男性の説明が中断される。
声をかけたのは入口側に座っていた岡島さん。
「あんたら、うるさいよっ!」
「よっマス姉じゃん。ばんわっ」
軽い口調で制服を身にまとう男の子は岡島さんに気づいたのか挨拶した。
「ばんわじゃない、何をもめてんの?」
岡島さんの問い掛けに答えたのが、もう一人いた男の人。落ち着いた口調と雰囲気で、説明してくれる。
「いや、洋輔が数学の問題なんで間違ってるのか尋ねてくるから、説明したのに……どうも――理解してくれないんですよね」
苦笑して首を傾げている男の人。
「も~う少し慎一が分かり易く、説明しろよ」
「あのな、お前がもっと基礎をしっかり身につけてから訊いてくれよな」
「仕方ないじゃん。自慢じゃねえけどさ、最近なんだぜ――まともに勉強し始めたの」
「――それは確かに自慢じゃないな」
呆れてなのか、岡島さんがため息をつきながら、ふたりの会話に割り込んだ。
「まぁ――ほらっなんだ……勉強し始めたのはいい事な訳だから、もう少し基礎をしっかりとすればいいんじゃないかな」
「そんなに基礎基礎って、言うからには慎一教えてくれんだろうな?」
「おっ俺が?」
「そうだよね、あんたが教えてあげりゃいいんじゃない?」
「俺ですか?」
「そそ、あんたさ頭いいんだから」
男の人は頭をかきながら、少し戸惑っている様。
「いや、人に教えるとなると……難しいんですよね」
「じゃあ、後は――――」
岡島さんがそう言いながら、こちらに向きなおし、なぜかあたしを見て来た。
完全に油断してたあたしと彼女の目と目が合う。
「っえ、ああたしっ?」
「そうだ、董子ちゃんが教えてあげればいいんじゃない?」
突然の流れで驚きを隠しきれないあたし。皆がこっちに注目している。その答えになんて返答してよいのかわからなくて動揺していると、誰かが手を軽く叩いた。
それは岡島さんで何か思いついたのか、あたしの答えをきかない内にまた話出した。
「そういえば、3人は初顔合わせだった?」
「だな。マス姉――誰だよ?」
「ああ、宮野董子ちゃん」
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