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「さて、東風平くん、まずはこの場で嘘をつきませんと、宣誓をしてもらおうかね」
司会進行を勤める銀縁眼鏡の男は、東風平に起立を促した。
上から物を言うような言いぐさに腹を立てながらも、東風平は小太りの身体を椅子から持ち上げ、形ばかりの宣誓を行った。
「では、まず私から質問させてもらおう」
銀縁眼鏡の男が、机上の資料を広げながら口を開いた。
広げる際に資料の一部が見えた。
漫画を拡大コピーしたものに、多数の赤丸と付箋紙が多量に付けられているようであった。
「君の作品には暴力シーンが多いね。これはどういう理由なのか答えてもらおうか」
嘆息してから、男は聞き取りにくい声で尋ねてきた。
「簡単なこと。悪いことをした人間は成敗されないといけない。少なくても漫画の世界ではそうでないと夢がない」
堂々と答える東風平に対してどよめきが起こった。
「あなたは暴力を肯定するというの!」
叫んだのは東風平から見て、銀縁眼鏡男の左隣に座る中年女性だった。
ブルドッグがくしゃみをしたような顔と、そこに厚塗りされた派手な化粧、ジャラジャラと音の鳴りそうな宝飾品、甲高い声で相手を怒鳴りつける口調――そのすべてに東風平は覚えがある。
赤木という政治評論家であった。
女性の権利関係に一過言ある人物であったが、議論で相手に主導権を握られると、すぐにヒステリーを起こして泣き出すので、それが面白いとテレビ局に起用されていたおばさんだ。
誰も彼女の政治論など聞かず、珍獣を見る目で見ていたと言った方が正しい。
元々の肩書きは女性週刊誌の記者で、常に女性は被害者であるという視点から偏狭的な記事を書いていたという。
「暴力を肯定しているわけではない。あんたたちはすぐにそういう言い方をするが、短絡的なものの見方はやめてもらいたい。主人公が相手を殴っているのは、相応の理由があってのことだ」
「まあ!」
赤木はオーバーアクションでわざとらしく呆れた表情を作ってから、「それが暴力を肯定していると言うのよ! どんな理由があったとして暴力は許されないわ! それ相応の理由があるですって! 何を言ってるのよ! 野蛮だわ!」と、さらに1オクターブ音域の上がった声で叫んだ。
「相手が言いがかりを付けて殴りかかって来たら、自分の身を守らないといけないだろ? 私は決して主人公が理由もなく手を出すような真似をさせてはいない。悪役が弱い物いじめのような根性の腐ったことをしているから、主人公は相手を叩きのめしているのだ。全体を読まずに、その部分だけを抜き出して『野蛮だ』『暴力的だ』というのはやめてもらいたい!」
東風平も声を張り上げて力説した。
しかしながら、心の中にはこの女性に対して、何を言っても無駄だろうという意識がある。
自分を正義の味方だと思いこんでいる人間には何を言っても通じない。
こういう人間は意に添わない相手に対して、一方的に悪者というレッテルを貼り付ける。
「何を言ってるの! 暴力には暴力という考え方が戦争を招くのよ! ああ、恐ろしい! 弱い物いじめをする相手だからって、暴力を奮っていいわけがないじゃない! 時間をかけて説得して、いじめがいけないということを教える必要があるのよ! 私たちが努力してそういうことをしているのに、あんたみたいな人間がいるからいじめがなくならないのよ! 皆さんも何とか言ってください! これがこの男の卑しい本音よ! こんな人間が戦争を起こし、親を親とも思わない子供を作る手助けをしているのよ!」
事実、赤木は理解しがたいほど飛躍した領域まで、想像の翼を羽ばたかせ、叫んでいた。
声といい、イントネーションといい、いちいちカンに障る話し方が東風平をイライラさせた。
「あんたは、もし、薬物で頭のやられた少年が、刃物を持って襲いかかってきたらどうするんだ? 抵抗もせずに、『刃物は危ないから振り回さないようにしましょう』と説得するのか? 自分の身を守る暴力は存在していいはずだ」
「理屈を言うんじゃないわよ! ありもしないことをベラベラと! 卑怯者!」
司会進行を勤める銀縁眼鏡の男は、東風平に起立を促した。
上から物を言うような言いぐさに腹を立てながらも、東風平は小太りの身体を椅子から持ち上げ、形ばかりの宣誓を行った。
「では、まず私から質問させてもらおう」
銀縁眼鏡の男が、机上の資料を広げながら口を開いた。
広げる際に資料の一部が見えた。
漫画を拡大コピーしたものに、多数の赤丸と付箋紙が多量に付けられているようであった。
「君の作品には暴力シーンが多いね。これはどういう理由なのか答えてもらおうか」
嘆息してから、男は聞き取りにくい声で尋ねてきた。
「簡単なこと。悪いことをした人間は成敗されないといけない。少なくても漫画の世界ではそうでないと夢がない」
堂々と答える東風平に対してどよめきが起こった。
「あなたは暴力を肯定するというの!」
叫んだのは東風平から見て、銀縁眼鏡男の左隣に座る中年女性だった。
ブルドッグがくしゃみをしたような顔と、そこに厚塗りされた派手な化粧、ジャラジャラと音の鳴りそうな宝飾品、甲高い声で相手を怒鳴りつける口調――そのすべてに東風平は覚えがある。
赤木という政治評論家であった。
女性の権利関係に一過言ある人物であったが、議論で相手に主導権を握られると、すぐにヒステリーを起こして泣き出すので、それが面白いとテレビ局に起用されていたおばさんだ。
誰も彼女の政治論など聞かず、珍獣を見る目で見ていたと言った方が正しい。
元々の肩書きは女性週刊誌の記者で、常に女性は被害者であるという視点から偏狭的な記事を書いていたという。
「暴力を肯定しているわけではない。あんたたちはすぐにそういう言い方をするが、短絡的なものの見方はやめてもらいたい。主人公が相手を殴っているのは、相応の理由があってのことだ」
「まあ!」
赤木はオーバーアクションでわざとらしく呆れた表情を作ってから、「それが暴力を肯定していると言うのよ! どんな理由があったとして暴力は許されないわ! それ相応の理由があるですって! 何を言ってるのよ! 野蛮だわ!」と、さらに1オクターブ音域の上がった声で叫んだ。
「相手が言いがかりを付けて殴りかかって来たら、自分の身を守らないといけないだろ? 私は決して主人公が理由もなく手を出すような真似をさせてはいない。悪役が弱い物いじめのような根性の腐ったことをしているから、主人公は相手を叩きのめしているのだ。全体を読まずに、その部分だけを抜き出して『野蛮だ』『暴力的だ』というのはやめてもらいたい!」
東風平も声を張り上げて力説した。
しかしながら、心の中にはこの女性に対して、何を言っても無駄だろうという意識がある。
自分を正義の味方だと思いこんでいる人間には何を言っても通じない。
こういう人間は意に添わない相手に対して、一方的に悪者というレッテルを貼り付ける。
「何を言ってるの! 暴力には暴力という考え方が戦争を招くのよ! ああ、恐ろしい! 弱い物いじめをする相手だからって、暴力を奮っていいわけがないじゃない! 時間をかけて説得して、いじめがいけないということを教える必要があるのよ! 私たちが努力してそういうことをしているのに、あんたみたいな人間がいるからいじめがなくならないのよ! 皆さんも何とか言ってください! これがこの男の卑しい本音よ! こんな人間が戦争を起こし、親を親とも思わない子供を作る手助けをしているのよ!」
事実、赤木は理解しがたいほど飛躍した領域まで、想像の翼を羽ばたかせ、叫んでいた。
声といい、イントネーションといい、いちいちカンに障る話し方が東風平をイライラさせた。
「あんたは、もし、薬物で頭のやられた少年が、刃物を持って襲いかかってきたらどうするんだ? 抵抗もせずに、『刃物は危ないから振り回さないようにしましょう』と説得するのか? 自分の身を守る暴力は存在していいはずだ」
「理屈を言うんじゃないわよ! ありもしないことをベラベラと! 卑怯者!」
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