7 / 11
7
しおりを挟む「揚げ足取りはやめてもらいたい! 確かにそう言ったが、その部分だけを取り上げて認めたと喚くのは、あんたら特有の卑怯なやり方だ!」
東風平は腰を浮かせて力説した。
内心あせっていた。安田のひとことで流れを変えられたように思えたのである。
「おや、やけにムキになるではないか。まあいい、確かに先ほどの発言は記録させてもらったからね」
銀縁眼鏡の奥で細い目をニヤニヤさせながら、藪はメモをするそぶりを見せた。
安田以外の二人もニヤニヤと目を細めている。
東風平は反論する気が失せ、再び腰を下ろした。
それを満足げな表情で藪は見ると、質問が続いた。
「性描写の件はよくわかった。次の質問は登場人物の言葉遣いについてだ。差別的と見られる発言が多々見られる。また、話の内容についても、暴力的なのは先ほど述べたとおりだが、一部子供に対して誤解を与える表現が見られる。例えば、なんだねこの『スーパーデラックスビーム』とかいうのは? ばかばかしい。人間の手から光線など出るわけないだろう。余程、古い時代のSFでも読んだのではないか? 子供たちが誤解して喧嘩ばかりしたらどうするのかね? 子供の破壊欲を増幅しているとも考えられる。実に問題の多い漫画だ」
藪は長々と述べると満足そうな表情を浮かべていた。
こいつは官僚にでもなって国会で答弁しているのが向いているんじゃないのかというのが東風平の感想であった。
「どうだ、何とか言ったらどうだ!」
久々に北川が口を開いた。
汚いものを見る目で東風平は北川を一瞥してから嫌々口を開いた。
「あんたらの子供はそんなに馬鹿なのか? 現実と仮想との区別が付かないほど馬鹿なのか?」
「うちのコーちゃんが馬鹿だというの!」
またまたヒステリーを起こしたのは赤木であった。
誰もそんなことを言っていないのに、どうして、そう都合のいいようにこじつけられるのだろうと東風平は嘆いた。
まったくもって、赤木の思考回路が理解できなかった。赤木も東風平を理解できないだろうが。
『コーちゃん』については東風平にも調べがついていた。
名門私立中学に通ってはいるが、中学生にもなって、気に入らないと泣き叫んで暴れ、他の生徒に迷惑をかける困った子供だという。
しかも、教師が叱ると、すぐにこの母親が抗議に飛んで来るので学校も困っているという。
「コーちゃんはわがままで悪い子だな。人の物をやたらと欲しがって、時には相手を殴って物を獲り、何度か警察の厄介になったことも……」
「コ、コーちゃんはやさしいいい子よ! 私が風邪を引いて寝ていたりしたら添い寝をして身体をなでてくれるのよ! あんないい子は居ないわ!」
その姿を想像して東風平は鳥肌が立ったが、赤木のおばさんはかまわずヒステリックに喚き続けた。
「大体、何よ、自分のやっていることを棚に上げて、人が手塩にかけて育てた子を悪い子だなんて! 夫と離婚してから、あの子を女手ひとりで育てるのにどれほど苦労したことか……それをそれを……」
赤木は感極まって泣き出していた。しかし、これがこのおばさん得意のパフォーマンスとわかっているので、全く東風平は罪悪感を感じなかった。
ずいぶんと便利な涙腺だと東風平はつくづく思う。
おそらく、このおばさんは『都合が悪くなったら泣けばいい。そうすれば、みんな同情してくれて、正義が自分の方にやってくる』ということを、人生の知恵としてどこかで学んだのであろう。
女手ひとりで育てたなどと言えば、なおさら同情が誘える。
コーちゃんの方も、母親のそんな姿を見て、自分もそうすればいいと学んだのだろう。まさに子供は大人の鑑である。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる