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しおりを挟む「揚げ足取りはやめてもらいたい! 確かにそう言ったが、その部分だけを取り上げて認めたと喚くのは、あんたら特有の卑怯なやり方だ!」
東風平は腰を浮かせて力説した。
内心あせっていた。安田のひとことで流れを変えられたように思えたのである。
「おや、やけにムキになるではないか。まあいい、確かに先ほどの発言は記録させてもらったからね」
銀縁眼鏡の奥で細い目をニヤニヤさせながら、藪はメモをするそぶりを見せた。
安田以外の二人もニヤニヤと目を細めている。
東風平は反論する気が失せ、再び腰を下ろした。
それを満足げな表情で藪は見ると、質問が続いた。
「性描写の件はよくわかった。次の質問は登場人物の言葉遣いについてだ。差別的と見られる発言が多々見られる。また、話の内容についても、暴力的なのは先ほど述べたとおりだが、一部子供に対して誤解を与える表現が見られる。例えば、なんだねこの『スーパーデラックスビーム』とかいうのは? ばかばかしい。人間の手から光線など出るわけないだろう。余程、古い時代のSFでも読んだのではないか? 子供たちが誤解して喧嘩ばかりしたらどうするのかね? 子供の破壊欲を増幅しているとも考えられる。実に問題の多い漫画だ」
藪は長々と述べると満足そうな表情を浮かべていた。
こいつは官僚にでもなって国会で答弁しているのが向いているんじゃないのかというのが東風平の感想であった。
「どうだ、何とか言ったらどうだ!」
久々に北川が口を開いた。
汚いものを見る目で東風平は北川を一瞥してから嫌々口を開いた。
「あんたらの子供はそんなに馬鹿なのか? 現実と仮想との区別が付かないほど馬鹿なのか?」
「うちのコーちゃんが馬鹿だというの!」
またまたヒステリーを起こしたのは赤木であった。
誰もそんなことを言っていないのに、どうして、そう都合のいいようにこじつけられるのだろうと東風平は嘆いた。
まったくもって、赤木の思考回路が理解できなかった。赤木も東風平を理解できないだろうが。
『コーちゃん』については東風平にも調べがついていた。
名門私立中学に通ってはいるが、中学生にもなって、気に入らないと泣き叫んで暴れ、他の生徒に迷惑をかける困った子供だという。
しかも、教師が叱ると、すぐにこの母親が抗議に飛んで来るので学校も困っているという。
「コーちゃんはわがままで悪い子だな。人の物をやたらと欲しがって、時には相手を殴って物を獲り、何度か警察の厄介になったことも……」
「コ、コーちゃんはやさしいいい子よ! 私が風邪を引いて寝ていたりしたら添い寝をして身体をなでてくれるのよ! あんないい子は居ないわ!」
その姿を想像して東風平は鳥肌が立ったが、赤木のおばさんはかまわずヒステリックに喚き続けた。
「大体、何よ、自分のやっていることを棚に上げて、人が手塩にかけて育てた子を悪い子だなんて! 夫と離婚してから、あの子を女手ひとりで育てるのにどれほど苦労したことか……それをそれを……」
赤木は感極まって泣き出していた。しかし、これがこのおばさん得意のパフォーマンスとわかっているので、全く東風平は罪悪感を感じなかった。
ずいぶんと便利な涙腺だと東風平はつくづく思う。
おそらく、このおばさんは『都合が悪くなったら泣けばいい。そうすれば、みんな同情してくれて、正義が自分の方にやってくる』ということを、人生の知恵としてどこかで学んだのであろう。
女手ひとりで育てたなどと言えば、なおさら同情が誘える。
コーちゃんの方も、母親のそんな姿を見て、自分もそうすればいいと学んだのだろう。まさに子供は大人の鑑である。
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