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「あんたたちみたいな大人が、子供の遊びを危険だからとやめさせたから、子供はテレビゲームしかしなくなった。野山を駆けめぐり、魚釣りをしたり、工作をしたりと、昔の子供はもっと元気に遊んだものだ。みんな危険だからとやめさせられ、ころんでケガをしたら管理者の責任だという風潮が生まれた。だから、子供はカッターナイフの扱いさえわからなくなった。小さい頃に手を切ったりしてナイフの恐ろしさをわかっていないから、平気で人を刺す。刺してもどうなるかそもそもわかってないんだ。命の尊さも知らない。昆虫や魚を捕ったりすることを野蛮だと言うようになったからだ。子供がゆがんだのはあんたたちみたいな大人のせいだ。くだらん綺麗事ばかり述べて、何でも人のせいにしているあんたたち汚い大人のせいだ!」
ヤジを無視して論説した東風平に対して、委員たちは憤慨の様子を見せていた。
「言いたいことはそれだけか!」
北川がまたしても脅迫口調で言った。
「人のせいとは何だ! おまえこそ悪の代表じゃないか! おまえこそ人のせいにしているんだ!」
拳をドンと机に叩きつけて北川はわめき散らした。
「悪の代表だと! 土地売買でリベートを得ていたようなあんたにそんなことを言われる覚えはない! 今でもそうじゃないか、放送局に圧力をかけて、目を付けられたくなければ、賄賂を寄こせと露骨に圧力をかけているそうじゃないか!こちらはちゃんと証拠まで集めてある!」
嘘ではなかった。
東風平は調査会社から報告を得ている。
北川が賄賂を受け取っている映像を東風平もこの目で見ている。
そもそも、国会議員時代もこの男は疑惑事件が起こるたびに名前が挙がり、秘書に罪をかぶせて自殺させ、逃げているような人物だ。東風平などより余程悪人だろう。
「で、でたらめだ! 名誉毀損だ! 思い通りにならんからといいかげんなことを言いよって!」
北川は椅子を蹴飛ばし立ち上がり、東風平を威嚇した。暴力反対が聞いて呆れる。
「なんなの、この男! 少しも反省しないで、嘘までついて!」
赤木も身を乗り出して、東風平を偉そうに指さして喚いた。
涙で化粧が流れ、見るに堪えない「顔の不自由な人」になっていた。
「完全な名誉毀損だな。これがアメリカでのことなら、確実に多額の賠償金を払わされるだろう」
藪はアメリカ的オーバーアクションで両手を左右に広げ、クビをすくめながら、呆れたような口調で述べた。
「私たちはあなたのためを思って言ってあげているのに、少しも懲りないようね。まったく子供だわ」
落ち着き払った声で言ったのは安田である。にやりとかすかに口元がゆるんだのを東風平は見逃さなかった。
「ホントよねえ」
「全くだ! でたらめばっかりいいやがって! 誰に向かって口をきいているんだ!」
「アメリカのようなフェアな社会では到底通用しないよ」
それぞれが思い思いの暴言を吐いていた。
それは止まる様子もなく、ひとことひとことが東風平の怒りを増幅させた。
「黙れ! この(表記不可能)どもが!」
安物の椅子を蹴飛ばして東風平は怒号した。
四人は東風平の怒号に呆然としていた。迫力に負けたのか暴言の内容にかはわからない。
ひとつだけ東風平は確信していたことがあった。
こいつらはきっと親にも教師にも殴られたことがないにちがいない。
クラスにひとりはいた綺麗事ばかり並べて、親や教師にゴマをすり、陰では弱い者いじめをしていたような奴らだ。実際はうるさいだけで、単なる根性なしである。
東風平は重い身体を揺らし、突進した。
おびえて、四人が逃げ出す。
「警備員! 何をしているはやくこの男を押さえろ!」
一瞬あっけにとられていた警備員たちであったが、悲鳴によって、本来の職務を思い出したようだった。すばやくその鍛えられた身体で、東風平に飛びかかった。
無念にも、あとわずかで藪の首根っこをつかめるというところを、東風平は警備員二人の身体に覆い被さられることになった。
もがいたが、相手はプロでありどうしようもなかった。
「は、ははは……やはり最後は暴力か。なんて野蛮なんだ。紳士の国イギリスでは最も嫌われる人種だな。皆さん、どうですか、こんな人間には矯正の見込みも反省も見られない。終身刑が妥当だと思うのですが」
東風平が動けなくなったのを見計らうと、藪は身を翻らせ、倒れる東風平をのぞき込みながら提案した。
「まさにその通り! こんな男は痛い目に遭わせてやるのが一番だ」
北川は東風平の顔を踏みつけて、吐き捨てるように言った。
赤木はまたまた狂喜して何かを喚いていたように思えた。
思えたと曖昧なのは、東風平の意識が薄れてきたからである。
気を失う直前、安田の顔が見えた。
かすかに口元をつり上げ、笑っているようであった。
この世の者とは思えない、不気味な笑顔であった。
ヤジを無視して論説した東風平に対して、委員たちは憤慨の様子を見せていた。
「言いたいことはそれだけか!」
北川がまたしても脅迫口調で言った。
「人のせいとは何だ! おまえこそ悪の代表じゃないか! おまえこそ人のせいにしているんだ!」
拳をドンと机に叩きつけて北川はわめき散らした。
「悪の代表だと! 土地売買でリベートを得ていたようなあんたにそんなことを言われる覚えはない! 今でもそうじゃないか、放送局に圧力をかけて、目を付けられたくなければ、賄賂を寄こせと露骨に圧力をかけているそうじゃないか!こちらはちゃんと証拠まで集めてある!」
嘘ではなかった。
東風平は調査会社から報告を得ている。
北川が賄賂を受け取っている映像を東風平もこの目で見ている。
そもそも、国会議員時代もこの男は疑惑事件が起こるたびに名前が挙がり、秘書に罪をかぶせて自殺させ、逃げているような人物だ。東風平などより余程悪人だろう。
「で、でたらめだ! 名誉毀損だ! 思い通りにならんからといいかげんなことを言いよって!」
北川は椅子を蹴飛ばし立ち上がり、東風平を威嚇した。暴力反対が聞いて呆れる。
「なんなの、この男! 少しも反省しないで、嘘までついて!」
赤木も身を乗り出して、東風平を偉そうに指さして喚いた。
涙で化粧が流れ、見るに堪えない「顔の不自由な人」になっていた。
「完全な名誉毀損だな。これがアメリカでのことなら、確実に多額の賠償金を払わされるだろう」
藪はアメリカ的オーバーアクションで両手を左右に広げ、クビをすくめながら、呆れたような口調で述べた。
「私たちはあなたのためを思って言ってあげているのに、少しも懲りないようね。まったく子供だわ」
落ち着き払った声で言ったのは安田である。にやりとかすかに口元がゆるんだのを東風平は見逃さなかった。
「ホントよねえ」
「全くだ! でたらめばっかりいいやがって! 誰に向かって口をきいているんだ!」
「アメリカのようなフェアな社会では到底通用しないよ」
それぞれが思い思いの暴言を吐いていた。
それは止まる様子もなく、ひとことひとことが東風平の怒りを増幅させた。
「黙れ! この(表記不可能)どもが!」
安物の椅子を蹴飛ばして東風平は怒号した。
四人は東風平の怒号に呆然としていた。迫力に負けたのか暴言の内容にかはわからない。
ひとつだけ東風平は確信していたことがあった。
こいつらはきっと親にも教師にも殴られたことがないにちがいない。
クラスにひとりはいた綺麗事ばかり並べて、親や教師にゴマをすり、陰では弱い者いじめをしていたような奴らだ。実際はうるさいだけで、単なる根性なしである。
東風平は重い身体を揺らし、突進した。
おびえて、四人が逃げ出す。
「警備員! 何をしているはやくこの男を押さえろ!」
一瞬あっけにとられていた警備員たちであったが、悲鳴によって、本来の職務を思い出したようだった。すばやくその鍛えられた身体で、東風平に飛びかかった。
無念にも、あとわずかで藪の首根っこをつかめるというところを、東風平は警備員二人の身体に覆い被さられることになった。
もがいたが、相手はプロでありどうしようもなかった。
「は、ははは……やはり最後は暴力か。なんて野蛮なんだ。紳士の国イギリスでは最も嫌われる人種だな。皆さん、どうですか、こんな人間には矯正の見込みも反省も見られない。終身刑が妥当だと思うのですが」
東風平が動けなくなったのを見計らうと、藪は身を翻らせ、倒れる東風平をのぞき込みながら提案した。
「まさにその通り! こんな男は痛い目に遭わせてやるのが一番だ」
北川は東風平の顔を踏みつけて、吐き捨てるように言った。
赤木はまたまた狂喜して何かを喚いていたように思えた。
思えたと曖昧なのは、東風平の意識が薄れてきたからである。
気を失う直前、安田の顔が見えた。
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