If I fell

メールを始める

その日の晩、早速挨拶代わりにメールを送った。

彼女もその日のうちに返事を送って来た。

その日から僕たちは、ほぼ毎日、交換日記をするかのように、長文のメールを互いに送り続けた。

彼女は高校時代、文芸部に所属していたそうで、筆まめでもあった。

僕も女の子とメールをするなんて経験が皆無に近かったので夢中になった。

もっとも、メールの内容は相変わらず、仕事のことや職場のゴシップや誰かの悪口ばかりだった。

だけど、この関係は心地良かった。

誰かの悪口を言って共感してもらえる関係、愚痴を言っても受け止めてもらえる関係というのは、余程信頼がないとできない。

僕らはふたりとも口下手な方だった。

職場でもおとなしくて損をするタイプだった。

けれど、メール文章の上ではすごく饒舌だった。

互いに溜まっていたものをぶちまけていたのだと思う。

何でも話し合えるような関係が続いていたふたりだったが、決して話題にしないことがあった。

それはお互いの恋愛事情だった。

職場内カップルの噂なんかは散々しているくせに、自分たちのことは決して話題にしなかった。

お互い、一緒に出かけようとか、食事に行こうとか、そんな誘いをすることもなかった。

そんなことをすると、この関係が壊れてしまうのではないか、と僕は思っていた。

彼女もそう思っていたのかどうかはわからないが、お互いの本音とでもいうか、一番醜い部分をすでに見せ合っていたので、今更……という思いもあったのではないだろうか。

ある日、彼女から来たメールにこう書かれていた。

「まだ職場のみんなには内緒なんだけど、今度結婚することになった」と。