【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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五章 一幕:お伽噺と魔王の正体

五章 一幕 4話-6

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 心が波立つ。寂しさがこみ上げてくる。それに耐えるため、ぎゅっと目を瞑った。が、不意にドアをノックする音が聞こえる。ルヴィウスは、はっと起き上がって応対に出た。

「はい。どちら様ですか」

 念のため、ドア越しに声を掛ける。すると来訪者は、丁寧な口調で返事をした。

「夜分に失礼いたします。エドヴァルド王太子殿下の侍従を務めておりますミルタリス伯爵家が次男、ロイド・ミルタリスと申します」

 予想外の人物に、ルヴィウスは慌ててドアを開けた。

「お久しぶりにございます、ミルタリス伯爵令息。わざわざのご足労、痛み入ります」

 騎士として凛とした姿勢で頭を下げて礼を告げたルヴィウスに、ロイドは「頭をお上げください」と品のある声を掛ける。

「突然のご訪問、お許しください」
「いいえ、構いません。お呼びいただければ参上いたしましたのに。それより、王太子殿下に何かございましたか?」
「いえ、殿下はご息災ですよ。本日はノアール様と晩餐を取られていらっしゃいます」
「仲睦まじくお過ごしのようで何よりです」
「本日は殿下からルヴィウス様にお手紙を預かってまいりました。それと、ご伝言も」

 ロイドが差し出した封筒を受け取ったルヴィウスは、つと顔を上げた。

「殿下はなんと」
「はい、殿下からの伝言ですが、“二倍にして返しておいた”とのことです」
「にばい……?」

 ルヴィウスが何のことかと首を傾げる。ロイドは苦笑した。

「先日のルヴィウス様に対する不届きな輩たちへの処罰です」
「あぁ」

 なるほど、それで周囲がより遠巻きになったのか、とルヴィウスは理解した。

 ルヴィウスに嫌がらせをした者は他にもいる。被害が小さすぎて報告していないだけだ。なにより、ルヴィウスの境遇を見ていながら、誰も「やめろ」とは言わなかった。
 ルヴィウスと仲良くしたり、彼を庇ったりする必要はないが、これから騎士として生きていくのであれば、少なくとも「その行為は間違っている」と主張すべきだった。今回のことは、将来に重くのしかかるに違いない。

「僕の所為で王太子殿下のお手を煩わせてしまいましたね」
「いいえ、殿下がご自身の判断でしたことです。それに、二倍程度で済んだのはルヴィウス様が一時的に除籍になっておられるからです。犯行を企てた五名は、ルヴィウス様がいずれ公爵家に戻る可能性を知らなかったのでしょうね。殿下の義弟、未来の王妃の実弟ですから、今回の狼藉で首が飛んでもおかしくありませんでした」

 ロイドの言葉に、返す言葉もなかった。ルヴィウスは困り顔で笑うしかない。

 もしルヴィウスに魔法の才がなければ、あの五人にいいようにされていただろう。もちろん、レオンハルトが下腹部に刻んだ紋がある限り、最悪の事態は避けられたに違いない。
 だが、レオンハルトだけに許されていた肌を、あの五人に弄ばれていたかもしれないと思うと、体が竦む。

「ルヴィウス様、私にお手伝いできることはありますか?」

 ルヴィウスの表情が硬いことに気づいたロイドが、気にかけてくれる。
 ルヴィウスの周りには、こうしてちゃんと心を寄せようとしてくれる人がいる。だから、大丈夫。まだ、一人で立っていられる。
 ルヴィウスはそう自分に言い聞かせた。

「お気遣いありがとうございます。では、どうしても困った時、お声掛けさせてもらってもよろしいでしょうか」
「もちろんです。遠慮なさらず頼ってください。立場が変わろうとも、王太子殿下にとっても私にとっても、ルヴィウス様は大切なお方です。どうか、お一人で悩まずに」
「ありがとうございます」

 そう感謝を述べ、エドヴァルドからの手紙を大切に胸に抱き、ルヴィウスはロイドを見送った。
 彼やエドヴァルドを頼るつもりはないが、そのつもりがあるように伝えることで相手は安心するものだ。なにより、頼ってもよいと言われることで、心が救われる。もう少し頑張ろうと思えてくる。

 ルヴィウスはドアを閉め、施錠をすると、机に向かう。
 封蝋を丁寧に外して、中の便箋をそっと取り出した。便箋を開くと、美しく整ったエドヴァルドの文字が現れる。

『親愛なる我が義弟 ルヴィへ

 君が魔剣士として騎士団に入団する日がくるなんてね。
 ノアールから、このために除籍したと聞いた時はお茶を盛大に噴き出したよ。こんなにびっくりするのは、小さい頃にレオンが二日も行方不明になった時以来だ。
 君の剣術センスは昔からよく知っているし、魔剣士としての実力があることも分かっているけれど、心配はさせてほしい。
 くれぐれも、大怪我を負ったりしないように。自分を大事にして。

 さて、前置きが長くなったけれど、本題を伝えよう。
 例の件、どうやら一筋縄ではいきそうもない。
 魔法省がかなり強気に出てきている。すんなり渡せたら良かったのだけど、難しそうだ。証拠はないけれど、君に関する悪い噂の出どころも、嫌がらせも、かのご老人らが疑わしい。

 そこで、君の願いを叶える大義名分を作ろうと思う。
 こういった物事には様式美が必要だ。そして、今すぐにというのは難しい。だから、私が君に依頼する形を取ろうと思う。

 栄えある王国史上三人目の魔剣士殿。あなたにぜひともお願いしたいことがある。
 九月に、魔法省と騎士団の合同討伐隊が最終討伐へ向かうことが計画されている。貴殿には随行してもらい、功績をあげてもらいたい。

 たくさんの魔物を狩るでも、怪我人を複数癒すでも、なんでもいいから目立ってくれ。もちろん、君の無事が最優先ではある。
 そうして私に、君へ贈り物をする理由を作らせてくれないだろうか。義弟の魔剣士としての出陣と活躍に対する、王太子からの個人的な褒章。

 そういう理由をつけて、私がルヴィに渡すというていを取りたい。

 こんなまどろっこしいことになって申し訳ない。王太子という立場は恵まれているけれど、自由はあまりないんだ。
 こんな形でも君の助けになるかな? 良い返事を待っているよ。

 君の未来の義兄 エドヴァルド・トゥルース・ヴィクトリア

 追伸:私のことはエディ兄さまと呼ぶように。アレンだけ兄さまと呼ばれて羨ましいんだ』

 手紙を読み終えたルヴィウスは、ふふっ、と小さく笑い、そしてしばらくエドヴァルドの文字を見つめたあと、抽斗から封筒と便箋を取り出し、ペンを手に持った。

 拝啓、エディ兄さま。
 そうして書き出した手紙には、エドヴァルドへの感謝と、約束の言葉が綴られていった。
 
 
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