【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

NOX

文字の大きさ
156 / 177
最終章:神様が紡ぐ恋物語

最終章 1話ー2

しおりを挟む
 
 ふと、進行方向に笑いを堪えている見知った顔たちがあるのが見えた。カトレアにハロルド、アレンとガイル、グラヴィスにエレオノーラ、そして未来の義姉ノアールだ。
 それぞれ何かを言いたそうに口元を緩めている彼らに気づいたレオンハルトは、小さなため息をついたあと、そちらへと足を向けた。

「さすが、主君。登場しただけで会場を無音にするなんて、なかなか出来る芸当ではありませんわ」

 レオンハルトがやってくるなり、挨拶もなく揶揄うのはカトレアだ。深紅にグレーのパイピングが施された華やかなマーメイドドレスが、良く似合っている。

「別に俺は芸を披露しているわけではないんだが」
「でも特技ですよね、殿下の」
「どういう意味だ、ハロルド」
「人を黙らせるのが上手い―――ぐぅ」

 レオンハルトは容赦なくハロルドの顎を掴み上げる。

 今夜のハロルドは、カトレアと衣装を合わせているらしく、グレーをメインにところどころ深紅の装飾が入ったデザインの正装だ。さすがに深紅をメインカラーにはしづらかったようだが、彼にしては、よく頑張ったほうだろう。

「お前、図々しすぎると消し炭にするぞ」
「ほんほとひっへへひふひひはほほ(そんなこと言って本当に消し炭にしたこと)―――ぐぇ」
「主君、わたくしの伴侶をいじめないでくださいませ」

 カトレアが強引にハロルドを奪って腕の中に閉じ込める。レオンハルトは「ははっ」と笑った。

 少し落ち込んでいた気持ちがあっという間に浮上する。本当に、ハロルドの存在はありがたい。ずけずけと遠慮なく物を言い、からかえば思った通りの反応を見せる。何より、いつだってルヴィウスとの仲を信じてくれる。

「なんともないか、ハロルド」

 カトレアに抱きしめられたままのハロルドに、レオンハルトは静かな笑みを浮かべて問いかけた。
 なんのことを気遣われているかを理解したハロルドは、にかっ、と満面の笑みで言い返す。

「ボクの図太さ、知ってますよね? もう平気ですよ。それに憧れのルヴィウス様に助けてもらったうえにトア様に蜂蜜のプールに落とされるくらいの勢いで甘やかされたんですよ? 復活しないはずないでしょう?」

 レオンハルトは短く「そうか」とだけ答えた。蜂蜜のプールは少々想像しづらいが、いつものハロルドに戻ったのならそれでいい。

「二人の激甘ぶりを見せられるこっちの身にもなってほしいよ」

 そう文句を口にしたのはアレンだ。
 濃緑をメインカラーにした正装は、ガイルの瞳を意識してのものだろう。正式にアクセラーダ公爵家の次期当主として社交界に紹介され始めた彼は、その話術と柔らかい雰囲気で淑女の視線を独り占めしているらしい。おかげで、ガイルはいつも嫉妬心を煽られている。

「ガイルは真面目だからな」
「なぜ私に話を振るんですか、殿下?」
「いや、アレン殿がハロルドを羨ましがってるみたいだから」
「だからって私が真面目だって言う話になるのはおかしくないですか?」
「おかしくないだろう? お前の性格上、結婚するまでは清くいましょう、って言いかねないし」
「それのどこに問題が?」
「ここ?」
 と、レオンハルトがむっとした表情のアレンを指さす。

 どうやらレオンハルトの予想通り、ガイルが真面目過ぎる所為で愛情表現が足りていないようだ。アレンはもっと先へと進みたいが、ガイルが固辞する。そんなところだろう。

「殿下の言う通り問題だと思うけど?」
 アレンが拗ねた顔で言う。途端、ガイルは慌てふためいた。
「アレンっ、あの、違うんです、私はですね、こういうことは順を追って進めたいと言いますか……。って言うか、こんなところでする話じゃないですから、ちょっとだけバルコニーに行きましょう!」

 ガイルはアレンの手を引いてバルコニーへと足早に歩いていく。レオンハルトは彼らの背中に「陛下が来るまでには戻れよ~」と声を掛けた。それが聞こえたのか、アレンが顔だけ振り返って頷く。

 まったく、仲のいいことだ。レオンハルトは小さく笑った。
 心の中が、なんだか温かい。自分のことではないのに幸せを感じられるとは、良き友に恵まれた証だろう。

「殿下」

 順番を待っていたかのように、グラヴィスが声を掛けてくる。隣には彼の妻、エレオノーラ。今でも多くの者が憧れてやまない社交界きっての仲睦まじい夫婦だ。
 今夜も揃いの夜会服に、メインの装飾はお互いの瞳の色を付けている。これで親としても文句のつけようもないのだから、頭が下がると言うものだ。

「アクセラーダ公爵、公爵夫人、王家の夜会にようこそ」

 レオンハルトは芝居じみた口調で軽く頷く程度の挨拶をした。それに反応したのは、グラヴィスではなく、エレオノーラのほうだった。

「まぁ、殿下。わたくしたちの間にそんな堅苦しい挨拶はいらないのではなくて?」

 艶やかな黒髪を優雅に結ったエレオノーラが、揶揄って言う。彼女なりに、親密さをアピールしているようだ。
 レオンハルトに対して言っているというより、徐々に周囲に集まり始めた貴族らに対し、今でも燻っているルヴィウスとの婚約破棄の噂を消すための言動だろう。

 エレオノーラの意図に気づいたレオンハルトは、にこり、と笑って彼女の右手を取り、その甲に口づける仕草で淑女への挨拶をする。

「では、義母上とお呼びしても?」
「もちろんよ」
「いや、まだ早いだろう」

 二人のやり取りを止めたのは、グラヴィスだ。
 レオンハルトがエレオノーラの手を離すと、彼女はその手に扇を持ち替え、バサっ、と広げ口元を隠す。
 微笑んでいるが、エメラルドの瞳に僅かな苛立ちが見える。そのエレオノーラの表情に、グラヴィスは僅かに口端を引きつらせた。天下のアクセラーダ公爵も、愛する妻には弱いらしい。

「旦那様、日取りはまだ決まっていませんが、ルヴィと結婚すれば殿下は私たちの義理の息子ですわ」
「まだ義理の息子じゃない」
「まさか、まだ拗ねていらっしゃるの?」
「拗ねてない」
「いい加減になさいませ。家柄、容姿、才能、性格、資産。殿下は大陸一、完璧な結婚相手ですわ」
「完璧すぎるから認めたくないんじゃないか」

「それはどういう見解かな、公爵?」
 俺にどうしろと言うのだ……。レオンハルトが苦笑いする。

 グラヴィスは深くため息をつき、父親の顔でレオンハルトを見返した。

「殿下は完璧すぎます」
「ダメだったか? 愛息子の結婚相手として条件はいいと思うが」

「そういうことを言っているのではありません。殿下が私の息子になるなら、もう少し情けないところがあっていいのですよ。親なんて、頼られてなんぼでしょう。あなたは一人でなんでもかんでも背負いすぎます。頼ってくれるつもりがあるのなら、父と呼ぶことを許しましょう」

 グラヴィスの愛情あふれる回答に、レオンハルトは数度、目を瞬かせた。まったく、この人は。どこかくすぐったくて、自然と年相応の笑顔になった。

「頼らせてください、義父上。俺はまだまだ未熟者ですから」

 レオンハルトの言葉に満足したのか、グラヴィスは大きく頷いた。

「いいでしょう。これからはもう一人の父として殿下を支えましょう」
「ありがたく、甘えさせていただきます。では、家族の一員として、義姉上を王家の控室までエスコートしてもよろしいでしょうか?」

 レオンハルトは演技がかった言い回しで、エレオノーラの隣に控えていたノアールに手を差し伸べた。

 父譲りの銀髪に、母譲りのエメラルドの瞳、白い肌に黄金律の顔立ち。レオンハルトの兄、王太子エドヴァルドが長年慕い続け、求め続けたただ一人の女性。
 同じ公爵家から二人も王家へ嫁ぐとなれば、さすがに反対の声も出るものだ。だが、レオンハルトに課せられた宿命が、二人の想いを繋いだ。こればかりは、レオンハルトも自分がウェテノージルを継ぐ者で良かったと思えてならない。

 よろこんで、と答えたノアールはレオンハルトの右手に左手を重ねた。
 二人は「また後で」とグラヴィスらに声を掛け、いったんホールを出る。控えていた護衛騎士が待ち構えていたかのように現れ「ご案内します」と二人の前を歩いた。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。 元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。 無口俺様攻め×美形世話好き *マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま 他サイトも転載してます。

吸血鬼公爵の籠の鳥

江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。 血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。 吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。

亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される

コムギ
BL
アラバンド国の王弟ルカーシュは、騎士のシモンによって地下牢から救い出された。 その時、肌に触れたシモンに、やけどのような怪我を負わせてしまう。 ルカーシュは北の魔女の末裔であり、魔力を持っていた。 魔力を持たない者に触れると、怪我をさせてしまうという。 騎士団長からの命令で、シモンはルカーシュの護衛につくことになった。 ※他サイトにも掲載しています。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...