【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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最終章:神様が紡ぐ恋物語

最終章 1話ー4

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 不意に、扉をノックする音が聞こえる。ヒースクリフが入室を許可すると、彼の護衛騎士が顔を出した。

「陛下、お時間です」

 ヒースクリフがそれに頷き、「行こう」と立ち上がる。

 ヒースクリフがイーリスを、エドヴァルドがノアールをエスコートし、レオンハルトは彼らの後に続く。二組の仲睦まじい様子を後ろから眺めながら、右手が少し寂しいと感じた。

 今夜、ルヴィウスはレオンハルトと共に入場しない。彼は騎士団所属の魔剣士としての最後の役目があるため、招待客の中でも貴族らの後ろ、魔法省や商団組合の代表らと同じ位置、騎士団の仲間と共にホールに居る。

 ホールへ入るための王族専用の扉は、他の扉よりずっと繊細な彫刻が施されている。薔薇と百合、そして唐草模様。上部中央にはヴィクトリア王国の国旗と同じ、竜と世界樹の紋章。

「国王陛下ならびに王族の皆さまのご入場です」

 宣言と同時に扉が開く。それまで漏れ聞こえていた騒めきが、嘘のように静まり返り、ホール内の招待客から給仕に至るまで、全員が頭を下げた姿勢でレオンハルト達を迎えた。

 ヒースクリフとイーリスに続き、エドヴァルドとノアール、そしてレオンハルトが正面の舞台に上がる。

 中央のひと際立派な椅子の前にヒースクリフ、その左にイーリスが立つ。ヒースクリフの右に配置された二つの椅子にはエドヴァルドとノアール。レオンハルトは、イーリスの左に置かれた椅子の前に立った。

 舞台の左側に立っていた宰相にヒースクリフが頷いて見せる。宰相は軽く頭を下げた後、ホールに向かって国王の代わりに許可を発する。

「顔を上げよ」

 ざっ、と一斉に顔を上げる音が響く。五段高くなっている舞台から見渡すホールは、一人一人の顔がよく見えた。
 レオンハルトは彼らの顔を見て、唐突に理解した。

 ―――あぁ、そうか。俺が永遠に生きる意味は、ただ一人の人のためだけにあるのではないのか。

 今夜の招待客数は五〇〇人程度。隣国の要人四名を始め、国内外の主要貴族、官僚に魔法省や騎士団、そして市井からも商会や組合などの代表者が呼ばれている。

 地位も権力も職業も性別も年齢も、多種多様だ。だが、皆、今日を生きている。そして大切な誰かがいて、本人も誰かの大事な人であったり、家族であったりする。
 生きていれば、いろいろなことがある。例えば、今夜のように、普段は顔を合わせるようなことのない人と、言葉を交わす機会を得られたり、時には心躍るようなことが起こったり、涙に暮れる夜を過ごすこともある。
 それらの出来事は、振り返ればすべてかけがえのない時間であり、物語であり、運命であり、生き様でもある。そしてそれらが連綿と続いていくことが、世界の在りようなのだ。

 イグドラシエルとウェテノージルは、人の醜さや愚かさに絶望した。けれど、人が持つ温かさや優しさに救いを見た。
 どちらも人なのだ。人とは、善であり、悪であり、強くもあり、弱くもあり、愚かしさに身を滅ぼすこともあれば、希望をもって何度でも立ち上がる強さもある。

 人を人たらしめたるもの。それがこの世界の在りようであり、この世界の理であり、これからも続いていくもの。それが担保されるための、絶対的条件とは―――

 ―――明日もこの世界が続くということ。そのために、神の代理人はいる。

 ルヴィウスの為だけに生きられたら良かった。彼を愛し、共に生き、時を重ね、いつか年老いて、共に眠る。そんな人生を送れたらよかった。でも、それは叶わない。けれど、理解してしまえば、いずれ来る彼との別れすらも愛おしく感じる。

 レオンハルトは人知れず僅かに微笑んだ。

 ―――心は決まった。もう、前を向くことが出来る。

 いずれ来る永遠の孤独を考えるだけであんなに哀しくて苦しかったことが、嘘のようだ。けれど、いまレオンハルトは、強く実感している。
 考え、教えを乞い、理解することには時間が必要で、限界がある。だけれども、物事を悟るには一瞬で事足りる。それは言葉では言い表すことが出来ない、天啓のようなものだ。

 レオンハルトが自分の存在の意味に心を馳せている間に、ヒースクリフや宰相から招待客に幾つかの発表が行われていた。
 総て事前に根回しが済んでいた事案ばかりだったため、混乱はなかったものの、一つ発表が終わるごとに、小さな驚きや、歓迎の拍手などが起こっていた。

 特に大きな歓声が上がったのが、最初に発表されたエドヴァルドとノアールの婚約だ。慶事であることに加え、やっと決まった未来の王太子妃に、誰もが祝福の声を上げた。

 次に発表されたのは、エルグランデルがヴィクトリア王国と合併し、二年から三年をめどに王国は帝国となることだ。
 その際にエルグランデルは新たな領地となり、グランデルと命名されることも伝えられた。

 これに併せて、魔物の脅威が取り除かれた魔の森はその名を改め、アステラ大森林となることも公表された。
 森で取れる素材や魔石などの乱獲を防ぐため、また保護、管理のため独立機関を発足。エルグランデルのイルヴァーシエル公爵家のカトレア、ヴィクトリア王国のレーベンドルフ伯爵家のハロルドの婚姻を持って、大森林の統治管理を進めることが宣言された。
 表向きハロルドとカトレアの婚姻は、両国を繋ぐ政略結婚の体をとっているが、裏事情を知る者にとっては、カトレアの熱烈な求婚による結果であることは周知の事実である。

 しかし、彼らの処遇は未定となっている部分が多い。婚姻することと森林の統治管理以外の部分が、はっきりと決まっていないのだ。

 当初は、ハロルドがイルヴァーシエル家へ婿入りする方向で話し合いが進められていた。しかし、魔道具開発で名声を得た彼を引き留めたくなった派閥が、空席となる予定のアンヘリウム男爵位を彼に預けてはどうか、と言い出してきたのだ。
 それを聞きつけたハロルドは『ジュリアンを養子に迎えることが条件です』と強気に宣言。アンヘリウム男爵らの裁判が終わっていないためまだ本決まりではないが、この案が議会を通れば、ハロルドはアンヘリウム男爵となり、現アンヘリウム男爵であるロバートとその妻シンシアの子であるジュリアンを養子に迎えることになる。カトレアがどう思うか周りは心配したが、彼女も乗り気だそうだ。

 正直、この案は議会を通ってほしいと、レオンハルトとルヴィウスは考えている。親がどうであれ、庇護されるべき子供であるジュリアンに罪はない。それに、リーノがジュリアンの行く末を気にしていた。あの優しい子の顔が曇るようなことにはなってほしくない。

「次に、新領地の領主について発表したい。―――レオンハルト、前へ」

 ヒースクリフに名を呼ばれたレオンハルトは「はい」と数歩、前に歩み出ると姿勢を正した。

「新領地グランデルは、第二王子レオンハルトが臣籍降下し、大公として領地を管轄することになる」
「新たな帝国の支えとなる領地として発展させることを誓います」

 そう宣言し、頷く程度に頭を下げる。
 ホールからの拍手は、今までのものと比べると控え目なものだった。それも致し方ないことだ。王家を離れ、辺境の領地を与えられるとは言え、レオンハルトの事情を知らない者たちの目には、継承権はく奪や追放というネガティブなイメージを連想させてしまうからだ。

 レオンハルトが元の位置に戻ると、宰相が「次に褒章授与を行う」と告げる。

 授与式の進行はエドヴァルドが務める。彼は前に進み出て、王太子としての挨拶と今回の魔の森の最終討伐についての必要性、および結果報告を行ったのち、予定にはなかった討伐の犠牲者に対し黙とうを捧げる手順を追加した。
 大勢の者がエドヴァルドに倣い黙とうを捧げたあと、彼の「功績をあげた三名へ勲章と褒章を授与する」という宣言で時間は再び動き出す。
 
 
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