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二章:狂った龍と逆さの鱗
二章 2話-2 ※
しおりを挟む「もう全部読んだ?」
「ま、まだ読めてない…、なんか、恥ずかしくて……」
「そっかぁ。ラストシーン、ルゥはどう感じたか聞きたかったんだけどな」
「な、なんでっ?」
「なんか、納得いかなかったから」
レオンハルトが唇をへの字に曲げる。まさか、ハッピーエンドと見せかけて最後は別れるのだろうか。
「ど、どんなラストだった……?」
「言ったらネタバレになるけど」
「いいっ、読まないから教えてっ」
ルヴィウスがそう強請ると、う~ん、としばらく考えてから、レオンハルトは納得いかなかったというラストシーンを端的に語った。
「仲直りした王子と婚約者が夜会に出席するんだけど、そこで王子じゃなくて婚約者のほうがプロポーズするんだ」
「え……」
―――それってつまり、僕がレオにプロポーズするってこと?
考えもしなかった展開だった。もう婚約しているし、結婚の日取りは王家と公爵家で話し合い、当事者である二人には日時が伝えられるだけ、そう考えていた。もちろん、改めてプロポーズなんてこともない。少なくとも、ルヴィウスはそう思っていた。
「でも、この本、俺はうれしいんだよな」
「うれしいのっ?」どこがっ?
レオンハルトは「うん」と頷いて、ルヴィウスに向き直ると彼の髪を耳にかけた。
「だって、国中がルゥは俺の伴侶になるんだと知ってるってことだから。周りがここまで祝福ムードなら、横やりが入るリスクも減るだろう?」
「そういうもの、なのかな……」
「ルゥは可愛いから、俺がどれほど牽制しまくれば悪い虫を遠ざけられるのかって悩んでたくらいだ。脚色されているけど、こんな援護射撃、大歓迎だよ」
レオンハルトは満足そうに言い、ルヴィウスの髪を指に絡めてもてあそぶ。
「僕、そんなにモテないと思うけど……」
「自覚がないの? 俺にとってルゥは天使だよ」
「すぐそういうこと言う……っ」
ルヴィウスは恥ずかしくなってしまい、ふい、っと背を向けるとクッションを抱きしめた。
「クッションじゃなくて俺を抱きしめてよ。ね、俺の可愛いルゥ」
つぅ、とうなじに指を滑らされた。ルヴィウスの胸が、きゅうっ、と甘くなる。
初めて会った日から今日までの数年間、レオンハルトとはたくさんの時間を共有してきた。
愛称で呼ぶことに慣れ、言葉遣いも気安いものになり、手をつなぐことにも、口づけすることにも慣れた。彼がくれれる言葉には愛情あふれる真っ直ぐなものが多く、いまだに赤面してしまう。
魔法の天才と言われるだけあって突拍子もない行動を取ることもあるけれど、人を魅了する容姿と上に立つ者の風格、下の者への心配りなど、生まれついての王子様であるレオンハルトに甘く愛を囁かれ、これでもかと言うほど大切にされて、心が浮つかないわけがない。
「レオ、僕―――」
振り返り、レオンハルトを見た瞬間、ルヴィウスは石のように硬直してしまった。
「で、ルゥは今日、何をしてたの?」
レオンハルトが、ひらひら、と薄い本を揺らしている。
「そ……っ、それは……っ」バレた! 話す前に見つかった!!
「習ったんだね。俺が教えたかったなぁ」
レオンハルトはペラペラと本をめくり、最後のページまでたどり着くと、それを閉じてテーブルの上に戻した。
不意に、にこっ、と王子様スマイルが飛んできた。直後、ぐいっと腕を引かれ、クッションが床に落ちる。その時にはもう、ルヴィウスはレオンハルトの腕の中に納まっていた。
「来月のルゥの誕生日パーティー、俺がエスコートするから。プレゼントも楽しみにしててよ」
急な話題転換に、ルヴィウスは多少混乱したものの、「う、うん…」と答えた。
誕生日は二週間後だが、パーティーは二十日後の七月四日、公爵家の大ホールで行う。
去年まではこじんまりと開いていたが、今年は十二歳で、王族の婚約者ということもあり、デビュタントを兼ねた大掛かりなものになる予定だ。
衣装はレオンハルトが用意してくれていて、彼と揃いのデザインと聞いている。
色は何色だろう。きっとレオンハルトの色だと思うが、出来れば深い蒼がいい。レオンハルトが銀色をメインカラーにすると言っていたから、並べば見栄えするはずだ。
ルヴィウスは「楽しみ」と呟き、レオンハルトの背に腕を回した。レオンハルトは「そうだな」と返し、ゆったりと抱きしめ返してくれる。
レオンハルトはいつも、若草のような爽やかな香りがする。こうして抱きしめてその香りを吸い込むと、ルヴィウスはとても安心する。
ルヴィウスがレオンハルトの体温と香りに酔いしれていると、「ルゥ」と甘く呼ばれた。
顔を上げると、視線が絡み合う。
抱き締めて甘い声で名前を呼ぶと、ルヴィウスの瞳が潤む。このことは、レオンハルトだけが知る秘密だ。
吐息が混じり合う距離に、惹かれるように自然と唇が重なった。
浅い口づけから始まった行為は、吐息に熱が帯びていくにしたがって、ルヴィウスの意識を蕩けさせていく。
唇の輪郭をなぞるように舐められると、勝手に唇が開いてしまう。これはレオンハルトが、ルヴィウスに教えたことだ。その先にある深い口づけが、気持ちいいものだと教え込まされている。
「ん………っ、ぁ……んっ」
濡れた音に、ルヴィウスの甘い吐息が重なる。その音と吐息を、雨の音が消していく。
二人にとってこの行為は、ただの口づけではない。魔力交換だ。
レオンハルトが自身の体内で産む魔力は、ルヴィウスだけが受け取ることが出来るもの。成長して受け入れる魔力量が増えたこともあり、こうして魔力交換の口づけをするたびに、ルヴィウスは全身を愛撫されているかのような気持ちよさに、頭の奥がしびれて何も考えられなくなる。
魔力の交換中は、触れ合っている箇所の感度が上がると知ったのは、今日受けたばかりの閨教育でのことだ。普通に口づけるより気持ちがいいとの話だが、あいにくルヴィウスは“普通の口づけ”を知らない。
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