【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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二章:狂った龍と逆さの鱗

二章 3話ー2

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「じゃあ、私はこれで失礼するから、殿下からの贈り物、ちゃんと確認するのよ。それから、晩餐はダイニングに来ること。いいわね?」

 ぽんぽん、とルヴィウスの頭を撫でたノアールは、お手本のような足運びで部屋を出ていった。

 一人残されたルヴィウスは、じっと宝石箱を見つめる。
 口の中に残っていたサンドイッチの残骸を紅茶で流し込み、テーブルナプキンで手を綺麗に拭った。

 なんだろう。何が入っているんだろう。誕生日にくれると言っていたプレゼントだろうか。手紙はあるのだろうか。レオンハルトはこれに、どんな想いを入れたんだろうか。

 しばらく箱を見つめていたが、答えが出るはずもない。このままでは日が暮れてしまう。
 ルヴィウスは箱を手に取り、膝の上に乗せると、そっと蓋を開けた。現れたのは、大人の人差し指ほどの大きさの透明な水晶柱が七本。

「なに……、これ……」

 しばらく水晶に目を奪われていたルヴィウスだが、蓋側のポケットに封筒が一通、そして見る角度で色が変わる虹色の伝言蝶が納められているのに気づく。
 ルヴィウスは一つ息を飲むと、封筒を取り出し、宝石箱をいったん横へ置いた。レオンハルトの印章である薔薇と獅子の封蝋を外すと、中から手紙を取り出す。


『ルゥ、昨日は怖がらせて悪かった。今までルゥは、俺のことを単なる婚約者としてしか認識していなかっただろう? でも昨日ルゥは房事を習って、やっと俺を一人の男として意識してくれた。だから浮かれてしまったんだ。これで俺と同じ気持ちになってくれるんじゃないかって。でも、性急すぎた。そのうえ、なんて謝ったらいいか分からなくなって、逃げてしまった。許してもらえるなら、どんなことだってするつもりだ。

 本当なら、すぐにでも会いに行きたい。だけど、どうしても俺が対応しなければならない公務ができて、しばらく国を離れ、隣国のエーシャルワイドに行くことになった。
 でも、ルゥの誕生日には必ず帰る。だから、待っていてほしい。

 俺がいなくても魔力の受け渡しができる魔道具を研究してるって話、覚えてる?
 この水晶柱がそうだよ。これは俺の魔力を、俺がいなくてもルゥに受け渡せる“お守り”。
 俺の魔力を水晶柱に入れてあるんだ。ひとまず七本送るよ。一日に一本ずつ、手に握って魔力を吸収してほしい。俺がいなくても、ルゥには普通の生活をしてほしいから。
 一週間では帰れそうにないから、七日後にまた七本送るよ。

 もし、ルゥが俺を許してもいいと思ってくれるなら、誕生日に俺に会いに来てくれる?
 方法は、次の手紙に書くよ。
 なんて、かっこ悪いな。誕生日に会いに行くんじゃなくて、本人に会いに来い、だなんて。
 でも、ルゥをまた怖がらせるかもしれないから。だから、ごめん。俺からは会いに行けない。

 ルゥ、君が大事だよ。ルゥが俺を嫌いになっても、ずっとずっと、君は俺の特別だから』


 ぽろぽろと、涙が零れて止まらない。
 レオンハルトが書いた文字の上にひとしずく落ちて、インクが滲んだ。ルヴィウスは慌てて拭う。せっかくの綺麗な文字が、歪んでしまった。これ以上レオンハルトの言葉が歪んでしまわないよう、ルヴィウスは丁寧に、丁寧に手紙を封筒へ戻し、そっと胸に抱きしめた。

 レオンハルトは、いつだってルヴィウスを大事にしてくれる。いつだって、ルヴィウスが困る前に先回りして障害を取り除いてくれる。
 水晶柱は、離れなくてはいけない状況がくることを考えて、研究して準備していてくれたのだろう。いつもと変わらない生活を送れるよう、自分が傍にいなくてもルヴィウスが困らないように。
 ありがたいと思う。だけど、同時にどうしようもなく悔しくて寂しい。

「レオのばかぁ………っ」

 泣きながら憎まれ口を叩いたら、もっと泣けてきた。
 手紙には、ルヴィウスが不安になった理由を理解しているようなことは、どこにも書かれていなかった。ただ、レオンハルトにとってルヴィウスが、これからも特別な存在だと再認識させられただけ。
 つまり、お互い想いあっているにも関わらず、すれ違っているのだ。

 どうして、傍にいられない日がくるかも、なんて考えたのだろう。
 どうして、触れ合わなくても魔力の受け渡しができるように、なんて考えたのだろう。
 レオンハルトはいったい、何を思って、何に悩んで、この水晶にたどり着いたのだろう。

 確かなのは、レオンハルトがルヴィウスの傍にいないこと。そうなるかもしれない日が来ることを、彼が考えていたこと。そして、そのことをひと言も相談してくれなかったことが、ルヴィウスをより寂しくさせた。
 
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