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三章 二幕:呪いと時の神の翼
三章 二幕 紡ぎ話-2 ※
しおりを挟むマイアンは、物心ついたころには持っている神聖力の強さを理由に、神殿に預けられ、自由のない生活を強いられていた。今でこそ教皇を務めているが、経典の神を信じているかと言われたら、否と答えるだろう。なぜなら、経典には登場しない、本物の神様に会った記憶があるからだ。
その神様は、マイアンに愛する人の記憶と、ある欠片を託してくれた。けれど、記憶はすぐには蘇らず、マイアンは幼い頃から何度も、何度も、繰り返し朧な夢を見ては、涙を零す毎日を過ごした。
夢は、いつも同じだった。
ここではないどこかで、誰かと生き、愛し合い、体を造り変えてまで傍にいたいと願った。それでも“彼”が持つ運命には足らなくて、一人置いて先に逝ってしまった。そういう、悲しい夢。
マイアンの中で、居もしない夢の中の“彼”を探しに行きたい衝動が強くなっていく。けれど、そんな彼を引き留めるかのように、教皇に選ばれてしまった。
まるで枷を付けられたかのように国の中央に閉じ込められ、逃れる術を失ってしまったマイアンが、どれほど絶望したか。きっと、誰ひとり想像できないだろう。
それでも、夢の中では、毎夜、毎夜、“彼”が囁く。愛している、と。必ず迎えに行く、と。
貴方は誰? いつまで待てばいいの? 誰も答えてくれない日々と、教皇の仮面を被って過ごす日々は、地獄のようだった。
もう限界だと感じ始めていた頃、奇跡のようにアルフレドが現れた。
黄金の髪、ルビーの瞳。神聖力の強さから教会へ預けられた十五歳の少年は、二百年もの間、ずっと持ち主を待ち続けた聖剣をいとも容易く引き抜き、新たな主となった。
今でも覚えている。アルフレドが聖剣の主として、教皇である自分の元へ祝福を受けに来たあの瞬間を。
『永らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。やっと、あなたを迎えに来ることが叶いました。私の愛はあなただけのものです。以前も、これからも、ずっと』
その瞬間、今まで見続けてきた夢は魂に刻まれた記憶だと知った。
それから、三年待った。アルフレドが成人になったと同時に、婚約をした。さらに二年待って、伴侶になった。
教皇と聖剣の主が肉欲に溺れるのかと責められようとも、構わなかった。愛し合うのに、理由など必要ないのだ。
「ルヴィウス様は強い子ですね。まるで以前の“貴女”のようです」
アルフレドが心地よい声音で話す。マイアンは彼の背に腕を回し、心臓の音に耳を傾けながら答えた。
「私と同じ“筥”ですから。“貴方”を独りにしないためなら、なんだってしようと思った以前の私と、似ているところはあるかもしれません」
今はもう薄れてしまった以前の記憶。マイアンはその頃の感情を、微かに思い出す。
王宮という箱庭に生まれた“前の”自分は、周囲が決めた相手に嫁ぐことが決まっていた、鳥かごの中の王女だった。
それを攫ってくれたのが、いつも隣に居てくれた騎士だった。魔力が大きく、魔法の才に恵まれていた彼は、王国初の魔剣士となった。その名は、ニルス。今のアルフレドだ。
「私は幸せです。もう一度あなたに巡り合えたから」
アルフレドのその言い方に、マイアンは笑ってしまった。
「そうなるように、この世界に影響を与えたのは貴方とあの方でしょう?」
「そうですね。今回こそは、あなたと供に逝きたいものです」
「寿命を縮めてでも?」
「あなたのいない世界に、私が存在する意味はありませんよ」
「それは私も同じだよ。持って生まれた神聖力の強さを嘆いたこともあったけれど、今は感謝している。体の衰えをあなたに合わせられるから」
腕の中から顔を上げると、アルフレドが顔を綻ばせる。
ねだるように足を絡ませると、仕方ない人だ、と言いたげに眉尻を下げられた。
マイアンが心なし顎を上げると、何も言わずともアルフレドの唇が降ってくる。
最初は、重ねるだけ。次は互いの唇を食んで。そっと開いた隙間に舌を差し込むと、次の瞬間には隙間もなく唇を重ねられる。
口内に侵入してきたアルフレドの舌が、マイアンの上あごを撫でる。
マイアンが絡めた脚を使って腰を摺り寄せると、口づけられたままベッドに押し付けられ、上から覆いかぶさられた。
「呪いが解けたばかりで体調が悪いんですから、誘わないでください」
「アルが神聖力を注いでくれたら、元気になれると思うんだ」
「そういうのはどうかと思いますが?」
「でも実際そういう問題だと思うよ」
するり、とアルフレドの首に腕を回したマイアンは、そっと、囁くように誘惑する。
―――ねぇ、だから、今日は私の中でたくさんイって。
アルフレドは自身を支える腕をぷるぷるさせて、黙り込んだ。
トドメとばかりに、マイアンは「ダメ?」と小首を傾げてみる。
「もうっ、どうなっても知りませんよっ」
そう言って、アルフレドはマイアンを搔き抱き、寝衣の裾から手を潜り込ませる。
「ん……っ、アル……っ、もっと、強く、して……っ」
「まったく、あなたは……っ」
文句を言いながらも、アルフレドはマイアンの希望を叶えるべく、知り尽くした体を暴いていく。
アルフレドとマイアンは睦みあい、混じり合いながら、世界を閉ざし、ひととき二人の世界に閉じこもる。
深く、深く繋がって、アルフレドの神聖力に溢れた体液が体の中で弾けると、マイアンの神聖力も満たされていく。
“前”の時も、そうだった。“筥”とは、そういうものだ。きっと近いうち、ルヴィウスも知るだろう。
明け方近くまで求めあった二人は、余韻にひたりながら、指を絡めて微睡む。
アルフレドとマイアンは、気だるく甘い幸せに身を委ね、少しだけ“昔”話をし、そのあと、これからの未来に祈りを捧げた。
いつか、この”昔”の記憶が、彼らを助け、支えられますように、と。
願わくば、彼らが彼らの望む幸せを手に入れられますように、と。
***************
ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございます。
物語は折り返し地点となりました。
後半は一章分が長くなるかと思います。
完結までお付き合いくださると嬉しいです。
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