【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

NOX

文字の大きさ
87 / 177
四章 一幕:管理者と筥の秘密

四章 一幕 8話-3 △

しおりを挟む
 
 体を震わす程の衝撃が、空気を揺るがす。
 指をひとつ鳴らす程度の間が空いたあと、地鳴りのような大きな音がし、不規則に地面が揺れた。

 静けさを取り戻したタイミングで身を起こすと、さっきまで空を飛んでいたトカゲの魔物三羽が、燻りながら荒野に落下し、絶命していた。

 いったい、何が起きたのか。ルヴィウスだけでなく、戦闘態勢を取っていた騎士達も呆然としている。

「ルゥ!」

 レオンハルトの声に反応し、ルヴィウスがそちらを振り返る。
 レオンハルトはルヴィウスに駆け寄ってくると、座り込んだままの彼を抱きしめてくれた。

「ごめん! 遅くなった!」
「れお…」

 安堵から力が抜けたルヴィウスは、くたり、とレオンハルトに身を預けた。すぐに異変を察知したレオンハルトは、片手でルヴィウスの腰を抱きとめたまま、もう片方の手で後頭部を支えると、躊躇うことなく、深く口付ける。

「んぅ…っ」

 ぶわっ、と一気に魔力が流れ込んでくる。数年ぶりの口付けでの魔力交換。枯れた泉が満ちるように、ルヴィウスの体が蘇っていく。
 心地良さと、安堵と、愛しさでいっぱいになったルヴィウスは、レオンハルトの背中に手を回し、力いっぱい抱きついた。

 はぁ、と濡れた吐息が漏れ、離れた唇と唇の間に唾液の糸が伝う。
 レオンハルトはルヴィウスのこめかみにキスをして、「もう大丈夫」と治癒魔法を掛けた。あちこち擦り切れたり、かすり傷が出来ていたりしたものが、綺麗に治っていく。

 ほっと息をついたルヴィウスを、レオンハルトは縦抱きにし、立ち上がる。ルヴィウスは甘えるようにレオンハルトの首に腕を回し、縋りついた。

 そうしてやっと、冷静さを取り戻しかけたルヴィウスの耳に、騎士たちの話し声が聞こえてくる。

「なぁ、俺たち、何を見せつけられてるわけ?」
「濃厚なラブシーン」
「それよりあれ見ろよ。ワイバーンが焼き鳥になってる」
「一騎当千とはこのことだな。ここまでの威力となると、もはや魔王と言っていい」
「勇者じゃなくて? 見た目からして魔王っていうよりイケメン勇者じゃん」
「冒険小説読みすぎじゃね?」
「てか、狼に追われてた子、超かわいーんだけど」

 最後の言葉に反応したのはレオンハルトだ。
 ルヴィウスを抱き上げたまま、騎士たちを鋭い視線で射抜く。
 会話を繰り広げていた7人の騎士は平然としていたが、後方に控えていた他の騎士たちは、皆一様に体を強張らせた。

「何者だ、お前たち」

 レオンハルトが威圧するように言う。
 それに返事をしてきたのは、手前にいる騎士たちだった。

「それはこっちの台詞だよぉ、カッコいい魔法使いさん」
「君たち、どこの子?」
「ねぇ、それよりこの子達、魔力の波長が寸分たがわず一緒ってすごくない?」
「そんなことあり得るのか?」
「これ、報告したほうが良くね?」
「賛成」
「君たち、申し訳ないが―――」

 騎士の一人が一歩近づいた瞬間、氷の刃が当該騎士の足元に突き刺さる。

「寄るな」

 敵意をむき出しにしたレオンハルトに、騎士らは戦闘態勢を取る。

 騎士は全部で17名。鎧を着用し、剣を構えているが、全員が魔剣士で魔法の属性も強い。一度に相手をするには、いくらレオンハルトでも分が悪すぎる。
 だからと言って、実践経験のないルヴィウスが参戦しても、戦力どころか足手まといになるのが関の山だ。

「ルゥ、下がってて。もしもの時は転移以外の魔法ならなんでも使っていいから」

 ルヴィウスは、こくり、と頷き、レオンハルトから数メートル下がって距離を取った。
 魔力が満ちて、バングルの保護魔法も復活している。せめて、自分のことは自分で守ろう。そう決めたルヴィウスは、きゅっと自分の手を握りしめた。

 すらり、と剣を抜いたレオンハルトは、17人の魔剣士を前に彼らの力量を測る。
 後方の10名はたいしたことはない。だが、前方の7名を一度に相手にするなら、気を抜くわけにはいかない。

 短い黒髪に緑の瞳の大柄な男は、指揮官だろう。この中で最も魔力が強い。

 指揮官の右にいる、赤髪を一つに纏めている優男、魔力はそこそこだが気配が暗殺系だ。

 反対側にいる黒髪に青い目のあどけなさを残す男は、繊細な魔力操作が得意とみえる。

 赤髪の右後ろにいる、黒髪を三つ編みにした細目の騎士は、右足を僅かに下げたからスピード重視。

 黒髪青目の左後ろにいる、金髪に赤い瞳、頬に十字傷がある男は行動が読みにくい陽動戦に向いた騎士。

 この5人の後ろにいるやや小柄な茶髪のショートカットの二名は、顔も魔力もそっくりだ。双子の魔剣士の特性を生かした攻撃など、予測もつかない。

 レオンハルトは右足を少し下げ、剣を構え直した。
 ピリッ、と空気が張り詰める。

 荒野から魔の森へと、砂ぼこりを巻き上げて風が吹き荒れた瞬間、レオンハルトが暴発を意味する古代語を呟き、緊張の糸を切った。

 後方の10名の騎士が、突然爆ぜるように隆起した地面に体を吹き飛ばされていく。
 煙幕のように膨れ上がった砂ぼこりが魔剣士たちを飲み込んだ。その中から、双子の騎士が一直線にレオンハルトめがけて飛んでくる。

 レオンハルトは、右の騎士を剣で受け止め、左の騎士を魔法で魔の森へと吹き飛ばした。

「ラーイっ」

 飛んでいった双子の片割れを気に掛けた隙に、剣で受け止めたもう片方を力任せに振り払う。
 魔力で加速をつけていたため、彼は勢いよく荒野へと弾き飛ばされていった。

 すぐさま、別の騎士たちが攻撃を仕掛けてくる。

 黒髪を三つ編みにした騎士が、驚くほどのスピードで間合いを詰めて、剣を横に払ってきた。
 レオンハルトは防御壁を盾代わりに攻撃を受け、反対から短剣を突いてきた金髪で顔に十字傷がある男の手を凍らせると、足元の地面を泥化させ、バランスを崩させる。

 僅かな隙を生んだ瞬間を狙い、レオンハルトはすぐさま地面を蹴ってルヴィウスの近くまで下がった。

 レオンハルトが指を一つ鳴らす。すると、展開した魔法の盾がなくなり、その拍子に黒髪の騎士がバランスを崩した。
 次いで、泥に足を取られていた金髪の騎士が、その騎士の上に派手に転ぶ。

「いってぇっ! どけっ、シルヴィオ!」
「そんなこと言われても、足が抜けないんだってば!」

 起き上がるのに苦労している間に、レオンハルトは黒髪の騎士の足元の地面を操作し、しゅるり、と伸びてきた木の根で彼の足首を拘束した。

「嘘だろっ、あいつ属性いくつ持ってんだよ!」

 これで4人が戦闘不能だ。
 ルヴィウスを背に庇い、次の攻撃に備えるレオンハルトは、ちりっ、と空気が焼ける気配を感じた。

 すぐさま防御壁と冷却の術を展開し、ルヴィウスを抱いて崖の手前まで後退する。それと同時に炎の塊が飛んできて、先ほどまでいた地点に大きな穴をあけた。

 防御壁が割れ、炎と冷却魔法がぶつかったことで水蒸気が発生し、視界が格段に悪くなる。

 霧散した水蒸気を切り裂くように、赤髪の騎士が気配もなく切り込んできた。
 レオンハルトは、剣を弾き飛ばされつつも、次の左からの攻撃を避けながら拘束魔法で赤髪の騎士の動きを無効化し、避けた反動すら味方につけて、体を回転させ、威力が増した蹴りをわき腹に食らわせる。
 赤髪の騎士は無様に地面に倒れ伏した。

 レオンハルトが、ふっ、と息をついた隙をついて、今度は、しゅるり、と魔力で練られた鎖が伸びてきた。
 レオンハルトはその鎖に両腕両足を拘束されてしまう。

 術を展開した黒髪に青い目の騎士が、じっとこちらを見据えていた。
 レオンハルトは感情のない不敵な笑みを浮かべ、右の指を鳴らす。
 瞬間、ぱりんっ、と魔法の鎖が粉々に砕け散った。

「なかなか上手い術だった。だが、弱い」

 レオンハルトが左手を、くいっ、と振る。すると、地面に転がっていたレオンハルトの剣が、鎖を放ってきた騎士めがけ勢いよく飛んでいった。

 ガキンッ、と鋼がぶつかり合う音がした。
 指揮官と思われる短い黒髪に緑の瞳の大柄な男が、レオンハルトの魔法によって飛んできた剣を、自分の剣で弾いたのだ。

「大丈夫か、ジーク」
「は、はい、ゲルニカ隊長」

 ジークと呼ばれた騎士が立ち上がる。彼を助けに入った男、ゲルニカは隙のないオーラを身にまとい、レオンハルトを見据えていた。
 もちろん、レオンハルトもゲルニカを鋭い目で睨みつけている。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。 元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。 無口俺様攻め×美形世話好き *マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま 他サイトも転載してます。

吸血鬼公爵の籠の鳥

江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。 血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。 吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。

亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される

コムギ
BL
アラバンド国の王弟ルカーシュは、騎士のシモンによって地下牢から救い出された。 その時、肌に触れたシモンに、やけどのような怪我を負わせてしまう。 ルカーシュは北の魔女の末裔であり、魔力を持っていた。 魔力を持たない者に触れると、怪我をさせてしまうという。 騎士団長からの命令で、シモンはルカーシュの護衛につくことになった。 ※他サイトにも掲載しています。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...