【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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四章 二幕:望まぬ神の代理人

四章 二幕 1話-6

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「レオン、王族教育で建国史は習ったな?」
「はい」

 なぜ、いまここで建国史? レオンハルトの眉間にしわが寄る。

「現在、王国は建国何年だ」
「1373年です」
「建国の理由はなんと習った」
「初代国王が流民の民を率いて闇を抜け、女神の導きにより、光の大地ヴィクトリアにたどり着いたためと習いました」
「闇とは何だと思う?」
「魔物ですか?」
「では、魔物はどこから湧く」
「魔の森―――……え、もしかして、エルグランデルとヴィクトリアは一つの国だった?」

 ヒースクリフが「そうだ」と頷く。彼がこれから話すのは、王となる者だけが知る、忘れ去られた建国史だ。

「今から二千年以上前の神話の時代の終わり、エルグランデルとヴィクトリアは、エルトリアという一つの国だった。統治していたのは神の代理人であり、世界樹の守護者、ウェテノージル」
「ウェテノージル……ただ一人の、と言う意味ですね」
「そうだ。寓話の中で魔王ジルとして登場することが多い」

 レオンハルトは合点がいったように「あぁ」と呟いた。

「寓話では、魔王が世界を危機に陥れましたが、実際はウェテノージルがなんらかの事情で居なくなり、世界樹ユグドラシルが守護者を失ったことで世界が荒れたんですね。その影響で一つの国だったエルトリアは、エルグランデル皇国とヴィクトリア王国に分かれた。まさか、世界樹が実在するとは思いませんでした。ずっと何かの比喩だと思っていましたから」

 レオンハルトの推測に、ヒースクリフは満足して頷きを返す。

「察しがいいな、レオン」
「一応、王族ですので」
「そろそろ反抗期が終わってもいいと思うのだが」
「父上が反抗されるようなことをしなければ、俺も大人しくしますけど」
「減らず口が」

 ヒースクリフはどこか嬉しそうに目をすがめてレオンハルトを見る。同じような表情で、イーリスもレオンハルトを見つめていた。

 あぁ、こんなにも大きくなって。心配が絶えない子だったが、強く成長し、誰かを守れる強い人に成長した。
 だからと言って、遠くに行ってほしくはない。ずっと、ずっと、我が子のままでいてほしい。
 イーリスは涙を堪えるのが精いっぱいで、ヒースクリフは手を離れていくレオンハルトを繋ぎ留めたい気持ちを抑え、話を続ける。

「とにかく、ウェテノージルが居なくなった後、世界樹が役割を果たせず、世界は荒れ始めた。この世に神がいるかどうかは知らんが、神が不在の間も、世界は壊れないように出来ている。それが自浄作用であり、変革であり、進化とも呼ばれているものだ」

 ヒースクリフの言葉の続きを受け持ったのは、レオンハルトだった。

「世界の理、ですね。居なくなったウェテノージルの代わりに世界樹の守護者が必要になったが、地上には人間しかいない。だから、管理者が現れた」

「そのとおりだ。世界はウェテノージルの代わりになる世界樹の管理者が生まれるよう、変革の時を迎えた。だが、人の身で神話の大樹を管理するのは容易ではない。管理者は生まれるようになったものの、大いなる力を宿すには精神が弱く、寿命も短い。そのうち魔力の元、魔素に耐えられる者と耐えられない者が現れ始め、国は二つに分かれた。これがエルグランデルとヴィクトリアの始まりのきっかけ、今から1500年以上前のことだ」

「その頃はまだ、筥が存在しないということですか」

 レオンハルトの疑問に、カトレアが答える。

「おっしゃるとおりです、殿下。管理者が成長しきれず、世界樹をうまく守護できない過程を経たことで、世界はさらに歪み、逆に管理者が生まれなくなった時期がありました。そして王国の誕生以後、再び管理者がこの世に生を受けた時、新しい変化も生まれたのです」

「それが筥だ」ヒースクリフが言った。「管理者の膨大な魔力の余剰分を受け取り、成長を助けると同時に、その精神を支える者。筥はいつでも王国側に生まれた。二つは必ず惹きあう。だから管理者も、王国側に生まれるようになった」

「それがずっと、繰り返されてきたんですね」

「あぁ、小さな変化を繰り返しながらな。だが、管理者と筥にはどうにもならない壁が存在した。寿命だ。人でしかない筥は、管理者を置いて逝く。管理者は筥を追うように死に、世界はまた歪み始める。それを打破したのが、先代の管理者ニルスと、筥だったクレア王女だ」

「その話はルゥが本人から聞きました。魔力と魔法の才があったニルスが、クレア王女の寿命を引き延ばしたと。それでもクレア王女は結局、王国の人間。エルグランデル皇国で過ごしても、その地の人のように長寿にはならない。なぜなら、筥であった彼女には、魔力を貯めこむ器がないから。膨大な魔力によって長寿になった管理者とは違い、共に同じ地で過ごしても魔力を貯められないがために王国人の寿命のままの筥。管理者にとって、筥の消失は死と同じ。このままではまた世界が歪む。世界の理は、筥の消滅を問題だと判断した」

「推測しかできないが、その考え方がほぼ正しいだろう。重要な点は、ニルスが統治した約200年間が、ウェテノージル亡き後の世界で、最も安定した時期だということだ。長い年月を掛けて、管理者にとって筥がかけがえのない存在だと世界に知らしめたことで、世界は応え、ニルスが安定をもたらした恩恵により逆鱗が遣わされた。レオンの代でも凶龍が出現したことで、この説は成り立つ。彼らは恩恵を受け取るのに時間が掛かったが、お前たちはそうではない。レオンが管理者を継ぎ、長寿となったとしても、逆鱗でルヴィに器ができれば、共に生きられる」

 共に、生きられる。ヒースクリフのその言葉に反応し、レオンハルトとルヴィウスは、繋いだ手をぎゅっと握り直す。

 生きていける。一緒に。レオンハルトの寿命が長くなったとしても、ルヴィウスは彼の隣を共に歩いて行けるのだ。
 レオンハルトとルヴィウスは、喜びを分かち合うように顔を見合わせて笑った。

 二人の純粋な想いを見て、ヒースクリフは深く息をつく。
 幸せになってほしい。ただそれだけのことが、どうしてこんなにも難しいのだろうか。

「私が思うに」

 ヒースクリフの声に、レオンハルトとルヴィウスが顔を上げる。

「お前たちは集大成だ。世界が、そして世界樹がウェテノージルを喪失したあとに生まれてきた数多の管理者と筥の、もっとも成功した形となるだろう。私は、それが意味するところの結果が怖い」

 意外な言葉に、レオンハルトは戸惑う。

「それは、どういう意味ですか……」

 レオンハルトの声は、どこか乾いていた。ヒースクリフが滲ませる哀しみを思わせる視線に、喉の奥が強張っている。

 ヒースクリフは言葉を探すように、しばし目を閉じる。再び瞼を開けた時、彼はただ、ただ、父親の顔をしていた。

「レオン、私はお前が愛おしい。どんな憎まれ口を叩こうが、お前は私とイーリスの愛する息子だ。もし、世界の理がウェテノージルの代理として管理者を作ったのではなく、ウェテノージルと同じものを作るために長い年月を費やして管理者と筥を作り続けてきたのだとしたら、お前の役割は今までの管理者の範疇を超える。私は、神の代理人の父親になど、なりたくはない」

 レオンハルトは目を瞬かせた。
 荒唐無稽な話に聞こえる。人が神の代理人になるなんて、あり得ない。そう笑い飛ばしたい。でも、出来ない。

「レオン……」
 イーリスの目に涙が溜まっている。
 
 
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