【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

NOX

文字の大きさ
98 / 177
四章 二幕:望まぬ神の代理人

四章 二幕 2話-2

しおりを挟む
 
 レオンハルトが、少しだけ靄が晴れたような顔をしていることに、ルヴィウスはほっとし、同時にやる気をみなぎらせる。
 これで対処の方向性がはっきりした。絶対に、レオンハルトを禁書庫に近づけてはならない。レオンハルトの話では、禁書庫は藍玉宮の敷地内の地下にある。それなら、最初の対策はこれではないだろうか。

「レオ、誕生日までは公爵家で寝泊まりしよう」
「は?」唐突な申し出に、レオンハルトは目を丸くする。
「だって、禁書庫に近づいちゃダメなんだよね? それなら王宮から離れたほうがいいよ」
「まぁ、そうかも……?」

「ルヴィウス様」マイアンが可笑しそうに笑いながら言う。「殿下の魔力なら瞬時に王宮へ戻れてしまいますよ。場所は関係ないのでは」

「大丈夫です。レオの従者に魔道具に詳しい人がいるので、その者とイルヴァーシエル家の方に魔力を弱める手枷か足枷でも作ってもらって、あとは結界でも張ってレオを完璧に監禁しますから」

「ははっ」アルフレドが吹きだすように笑う。「監禁ですか。エスタシオを訪問された時は、ルヴィウス様が軟禁されていましたから、仕返しですね」

「そうなりますかね?」

「ふふふっ、では殿下に破られないくらい強力な結界を張ることが出来るよう、私とアルも協力いたしましょうか」

「ありがとうございます、助かります。僕は攻撃より守りの魔法のほうが得意なのですが、さすがに師匠であるレオを閉じ込めるとなると、自分の術展開だけでは心もとないですし」

 ルヴィウスが笑顔で言った言葉に、マイアンとアルフレドが「え?」と目を瞬かせる。
 ルヴィウスが後天的に魔法使いになったことは、新聞に載った。が、掲載箇所が王都エリアの情報誌面だったため、エスタシオには広まっていないようだ。

「あ~……、実はルゥが魔法使いになりまして」と、言ったのはレオンハルトだ。
「いつのことですか?」マイアンが目を丸くする。
「三ヶ月くらい前でしょうか」答えたのはルヴィウスだ。「今はアカデミーの専攻を変えて、魔法科専攻に通っています」

「お体は、特に問題なく?」

 アルフレドが急に神妙な面持ちになる。これにはレオンハルトが不安を覚え、どきり、とする。

「特に、なんともありませんが……」
「そうですか……」

 アルフレドが考え込んでしまった。レオンハルトが無意識に、ルヴィウスの手を握りしめる。

「マイスナー卿、ルゥに何か問題でも」
「いえ、なんともないのならいいのです」
「言ってください。ルゥに関わることなら知っておきたい」

 レオンハルトが今日一番の真剣な顔をする。自分のことより、伴侶のことか。と、アルフレドは自分にも身に覚えがあるな、と小さく苦笑いした。

「お二人はどうやって魔力の受け渡しをされているのですか?」
「これです」

 すっ、と二人揃って、手首のバングルを見せる。

「俺が作った魔道具で、常にルゥに魔力が流れる状態を作っています。あとは……口づけ?」

「殿下、」マイアンが完璧すぎる笑みを浮かべる。「なぜ疑問形なのです? 交接していると素直にお認めになられたらいかがでしょう」

「えっ、聖下には分かるのですかっ?」

 慌てたのはルヴィウスだ。隣でレオンハルトが「カマを掛けられただけだって……」と項垂れる。
 ルヴィウスは「なんか、ごめん……」と小さくなって謝った。

「まぁ、お二人もご成長されましたし、子どもではなのですから、よろしいのではないでしょうか」

 ため息交じりにそう言ったマイアンは、「避妊はしっかりと」と小言を付け加える。まるで、親が一人増えたようだ。
 マイアンの前世―――クレアにとって、レオンハルトは子孫だ。レオンハルトを身近に感じているのかもしれない。

 その様子を窺っていたアルフレドだったが、わざとらしく咳払いし、レオンハルトの意識を自分へと戻した。

「とにかく、ルヴィウス様が魔法を使えるようになった理由として考えられるのは、殿下の魔力量が関係しているのではないかと思います」

「それは俺も考えました。ルゥに流れていく魔力量を減らしたほうがいいかもしれないですね」

「そうですね。以前の私、管理者のニルスが持つ魔力量も人ならざるものでした。殿下が成長し、殿下自身が使う魔力が増えていると言っても、受け取る側のルヴィウス様に渡る魔力もまた膨大な量になっているはずです。もしかしたら、体が不調をきたさないよう、魔法使いとして魔力を多用することでバランスを取っているのかもしれません。だとすれば、どこかで無理がくる可能性はあります」

 アルフレドの仮説を聞いたレオンハルトは、内心慌てた。

「よし、ルゥ、魔力の量を調整しよう」
「え、でも……」
「俺は大丈夫だ。魔物狩りでもすればいい」

「どうせなら、お二人で魔物狩りをされてはいかがですか?」

 アルフレドからの意外な提案に、レオンハルトは眉根を寄せ、反対にルヴィウスは満面の笑みを浮かべる。

「それはいい案ですね」

 アルフレドの案を後押ししたのはマイアンだ。彼は少し意地悪い顔で、レオンハルトを脅しに掛かる。

「殿下、魔力を調整するとなれば、ルヴィウス様とは接触できにくくなりますよ? 体液にも魔力は含まれていますから」

 マイアンの意図を汲んだアルフレドが、ここぞとばかりに援護射撃を撃つ。

「殿下のお誕生日は十月でしたよね? 三ヶ月もルヴィウス様と交われなくて大丈夫ですか?」

「そりゃ、ルゥの為なら俺はそれくらい―――」

「無理ですっ」

 え? と三人の顔がルヴィウスを向く。ルヴィウスは半ば涙目でレオンハルトに縋りついた。

「この十日間でさえ我慢ならないのに、三ヶ月も無理だよっ」
「え、俺、そんなにルゥを放置してた?」
「してた! キスも数えるほどだった! ひどいっ! あんなに色んなこと教え込んだくせに、ほったらかすなんてっ!」

 ぽこぽこ、とレオンハルトを小突くルヴィウスは、わざと傍若無人に振舞い、多少の誇張を含んだ言い方をした。
 こうして我が儘なフリをすれば、優しいレオンハルトが、我慢したり傷ついたりしなくて済む。
 自分の所為で魔法使いになり、もしかしたら体調を崩すかもしれなくて、さらには自分の所為で魔物狩りの危険にさらされる。そんなふうに考えるに決まっている。ならば、そのすべてを恋人の我が儘を聞いたことにしてしまえばいい。

「レオ、僕、魔物狩りをしてみたい! いま魔の森から魔物が出てくる被害が増えてるんでしょ? 連れてってよ。上級魔法もだいぶ使えるようになったし、ダイアウルフに震えあがるようなこと、二度とないよ!」
「いや、でも、ルゥ、それは……」

「ルヴィウス様がそうおっしゃるなら、願いを叶えて差し上げたらいかがですか?」

 そう言ってルヴィウスに賛同したのはアルフレドだ。

「殿下が管理者として巣立つ前ですから、そろそろ魔物が溢れる時期です。私の時も、何か所かでスタンピードがあり、対処が大変でした。ルヴィウス様を大切に思われるのは分かりますが、彼は公爵家子息です。才能ある魔法使いになられたのなら、力ある者が民を守らねば」

「そのとおりですよ」ダメ押しとばかりに、マイアンも賛同する。「討伐で魔力を枯渇寸前まで使えば、殿下が思いっきりルヴィウス様をお抱きになっても問題はないのでは?」

 なんと俗物的な言い方をする教皇だろうか。レオンハルトは驚いて声も出なかった。そこに追い打ちをかけるように、アルフレドが納得顔で頷いて言う。

「確かに。討伐後は気も高ぶりますからね。それに、前衛に出なくとも、後方で治癒や回復魔法、瘴気の浄化魔法なら危険から遠ざかる割に魔力が大量に必要です。ルヴィウス様も活躍できるのではありませんか?」

 直接魔物と対峙しない方法を提示してきたアルフレドに、ルヴィウスは満面の笑みでレオンハルトを振り向いた。

「そうしよう! レオ、そうしようっ? ねぇ、いいから頷いて!」
「いいから頷いてって………」

 隣からは可愛い婚約者の愛らしい期待に満ちた瞳を向けられ、正面からは人生の大先輩たちからの圧を感じる笑顔。

 レオンハルトはしばらく「いや、でも」と呟いて時間稼ぎをしていたが、三方向から飛んでくる協力体制抜群の攻撃に、とうとう陥落するしかなかった。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。 元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。 無口俺様攻め×美形世話好き *マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま 他サイトも転載してます。

吸血鬼公爵の籠の鳥

江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。 血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。 吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。

亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される

コムギ
BL
アラバンド国の王弟ルカーシュは、騎士のシモンによって地下牢から救い出された。 その時、肌に触れたシモンに、やけどのような怪我を負わせてしまう。 ルカーシュは北の魔女の末裔であり、魔力を持っていた。 魔力を持たない者に触れると、怪我をさせてしまうという。 騎士団長からの命令で、シモンはルカーシュの護衛につくことになった。 ※他サイトにも掲載しています。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...