【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

NOX

文字の大きさ
109 / 177
四章 二幕:望まぬ神の代理人

四章 二幕 9話-1

しおりを挟む
 ―――そろそろ起きてください。

 夢の中で、優しい声が響いた。
 長い髪、美しい容姿、少しわがままで、よく表情が変わる人。

 この人は、誰だ。
 レオンハルトは名を尋ねようと口を開いた。だが、発せられた声は自分のものではなく、言葉も思っていたものとは違った。

 ―――お前はいつもやかましいな。
 ―――必要なことを申し上げているだけです。ほら、起きましょう。遅れますよ。
 ―――構うものか。
 ―――構ってください。叱られるのは私なのですよ。
 ―――お前もいい加減諦めろ。私のような出来損ないの傍に居ても損するばかりだぞ。
 ―――損得でお傍にいるわけではありませんよ。
 ―――損得じゃない理由などあるか。
 ―――私はただ、貴方のお傍にいたいだけです。
 ―――傍に居るだけでいいのか?
 ―――はい、私はレオ様を愛しておりますから。
 ―――勝手に愛称で呼ぶな。
 ―――愛しているのはいいのですか?
 ―――お前は上げ足ばかり取るのだな、ルー。


 ハッとして、目が覚めた。
 心臓が、大きく脈打っている。直感で分かった。これは禁書庫が自分を呼んでいる、と。
 だから、一度目を瞑り、心の中で「行くものか」と強く自分に言い聞かせる。

 鼓動が落ち着くまで待って、再び目を開いた。

 違和感の残る夢だ。いつもなら朧なまま終わるのに、今日はやけにはっきりと記憶に残るものだった。
 彼らは誰だろう。しかし、思い当たる人物は記憶の中に居そうにない。

 考えても仕方ない。そう思い、無意識にルヴィウスの温もりに手を伸ばす。が、そこにルヴィウスはおらず、すでにシーツは冷たかった。
 お互いを繋ぐバングルで位置を確認すると、藍玉宮の区域内にいると分かった。時刻を確かめると、すでに八時を回っている。先に起きて散歩でもしているのかもしれない。
 レオンハルトはベッドから降りて体をぐっと伸ばした後、ひとまず支度をすることにした。

 着替えの最中、両手首にはめられた魔力封じのバングルに目が留まる。自分で外そうと思えば出来なくもないが、ルヴィウスに外してもらったほうが安全だ。
 支度を終えたレオンハルトは、まずはルヴィウスを探そうと部屋から出るためドアノブへと手を掛けた。瞬間、ぱちん、と弾かれる。

「あ~…ルゥが結界掛けてるんだった……」

 仕方ない、ハロルドを呼ぼう。いや、その前にルヴィウスに通信魔法で連絡を取ろう。
 レオンハルトは右耳ピアスに魔力を流し込み、通信を繋げる。ジジっ、とノイズが走り、そのあと、ぷつり、と切れた。
 ピアスに組み込んだ術式の調子が悪いのかと、バングルのほうでも通信を繋げてみる。また同じように、ジジっ、とノイズが走る音がして、今度はルヴィウスの声が聞こえた。

『おはよう、で、あっているかな?』

「ルゥ?」違和感を覚えたレオンハルトは眉根を寄せた。「今、どこにいる?」

『あぁ、私を筥と勘違いしているのか。そういえば自己紹介をしていなかったな』

「誰だ、お前」

『知りたければ筥を迎えに来るといい。お前なら探し出せるだろう? そうそう、この手首の魔道具でお前の魔力を分けてもらおう。どこまでこの体がもつか分からないが』

 そこで、ぷつり、と通信が切れた。瞬間、バングルが急激にレオンハルトの魔力を吸いだした。こんなスピードで魔力を受け取ったら、ルヴィウスの体が持たない。

 居てもたってもいられなくなったレオンハルトは、バングルを座標に転移を試みた。が、結界の中だからなのか、術が発動しない。

 通信に応えた声は確かにルヴィウスのものだった。しかし、明らかに彼ではなかった。そして間違いなく、ルヴィウスはいま危険な状態に置かれている。
 早く助けに行かなければならないが、結界を無理やりこじ開けるには、体内の魔力を増幅させる必要がある。しかし、それでバングルと繋がっているルヴィウスに何かあったら……。

 まずはここから出よう。そう決めたレオンハルトは、自分専用の黄金の伝言蝶でガイルとハロルドを呼んだ。

 藍玉宮の控えの間に待機していた二人は、すぐさまやってきて、レオンハルトを結界が張られた私室から廊下へと出す。
 ルヴィウスが、『レオンハルトは一人では出られない』という認識魔法を応用した術を重ね掛けしていたため、無茶な方法を取らずに済んだ。これがなかったら、結界を内側から壊す以外の手がなかっただろう。

 結界から出てすぐ、座標をルヴィウスのバングルに合わせ、もう一度転移魔法を試みる。だが、失敗した。
 転移魔法は、座標が不明の際に弾かれるような感覚が返ってくるのだが、まさにレオンハルトの身にもそれが起こった。術を発動する魔力が足りないのか、そう考え次の手を打つ。

「ハロルド、この枷、外せるか」
「はい、すぐに」
「ガイルは人を集めてルゥを探してくれ」
「わかりました」

 ガイルはすぐに使用人たちを集め、ルヴィウスを探す指示を出す。ハロルドはややもたつきながらも、レオンハルトの両手首から魔力封じの枷を外した。

 いつも通り魔力を細かく扱えるようになったレオンハルトは、すぐさまルヴィウスの位置を探索する。
 ぼんやりとしていて、はっきりしない。藍玉宮の敷地内のどこかにいることは確かなのに、正確な位置が掴めない。こんなことは初めてだ。

 なぜ……? 嫌な予感が広がっていく中、ガイルが収集した情報から有益と思われるものを報告してくる。

「殿下、侍女が今朝、藍玉宮の裏庭を歩くルヴィウス様を見たそうです」
「裏庭……?」

 ざっと血の気が引いた。
 裏庭を抜けると、その先に祠がある。古代魔法の封印が掛けられた石造りの扉がついていて、その先は地下へと続く階段だ。階段は、禁書庫へと続いている。

「俺が、行かないから……」

 もしかして、ルヴィウスが呼ばれたのか。その可能性はある。禁書庫が何に反応しているのか分からないが、見つけられるのもたどり着けるのもレオンハルトだけだった。もしも、レオンハルトの魔力の波長に反応しているとしたら、ルヴィウスが呼ばれる可能性はゼロではない。

 レオンハルトは振り返ると同時に転移魔法で禁書庫へと続く祠の前へ移動した。
 目の前に現れた石造りの祠。閉じられているはずの扉は、開いていた。
 通い慣れた空間であるはずなのに、まるで暗闇の底から呼んでいるかのように感じられる。
 背後から吹いてきた風がレオンハルトの背中を押した。同時に、ぽつ、ぽつ、と階段を下るように明かりが灯っていく。

 一歩、足を踏み出した。だが、躊躇った。

 いま禁書庫へ行けば、新たなウェテノージルの欠片を受け取ってしまうかもしれない。もしヒースクリフが恐れていることが現実となってしまうのなら、レオンハルトはウェテノージルの再来として、神の代理人となり悠久の時を生きねばならないかもしれない。
 そこに、ルヴィウスはいないのだ。誰もかれもが、レオンハルトを置いていく。果たして、それに耐えられるのだろうか。

 レオンハルトは、きゅっ、と拳を握りしめ、顔を上げた。

 ルヴィウスがいない世界など、耐えられない。けれど、ルヴィウスが生きていた世界ならば……。

 心を決めたレオンハルトは、扉をくぐり、階段を下へと降りる。
 歓迎するかのように灯りが揺らめく。あちこちに張り巡らされた古代魔法の魔術陣が、美しく煌めいている。

 禁書庫の入口まで辿り着くと、いつもなら封印されているはずの扉が開いていた。
 バングルからは、流れる魔力量を調整しているにも関わらず、その機能を無視するかのように、普段よりも多くの魔力がルヴィウスに向かって流れている。

 レオンハルトが一歩中へ足を踏み入れると、いつも通り、誘導のランプが揺らめきながら現れた。その後に続いて、星空のような暗闇を奥へと進む。
 右へ、左へ、トラップを避けるように蛇行するランプに従い、通い慣れたルートを進んでいくと、ぼんやりとテーブルと椅子、そして誰かのシルエットが見え始めた。

 ランプが止まり、止まれと合図するかのように、くるり、と一回転して上昇する。

 ティー・セットが置かれたテーブルには、開かれた状態の1冊の本。椅子に座り、優雅に紅茶を飲む人物が一人。
 姿かたちはルヴィウスだが、雰囲気は真逆だ。底冷えするような冷気を纏い、跪いてしまいたくなるような絶対的支配者の気配がする。おおよそ、人とは思えないほどの気配だ。

 レオンハルトは奥歯を噛み締め、ルヴィウスの姿をした“それ”を睨みつけた。
 “それ”は、優雅に脚を組み替えながら、レオンハルトに冷たく微笑む。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。 元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。 無口俺様攻め×美形世話好き *マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま 他サイトも転載してます。

吸血鬼公爵の籠の鳥

江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。 血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。 吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。

亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される

コムギ
BL
アラバンド国の王弟ルカーシュは、騎士のシモンによって地下牢から救い出された。 その時、肌に触れたシモンに、やけどのような怪我を負わせてしまう。 ルカーシュは北の魔女の末裔であり、魔力を持っていた。 魔力を持たない者に触れると、怪我をさせてしまうという。 騎士団長からの命令で、シモンはルカーシュの護衛につくことになった。 ※他サイトにも掲載しています。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...