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一番大切だった人1
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「1か月前、この場所で燃やそうと思っていたんです」
何を燃やそうとしたのか、はっきり言わなかった。
ただ、それが何なのかはもうわかっていた。
「でも、火をつけようとした瞬間、あの声が聞こえたんです。それがすごく怖くて、逃げてしましました」
俯き、ただただ静かに告げる悠灯の中に苦しみが宿っていることに今更ながら気づく。
しかし夜尋には、それが愚行だと告げることができなかった。
そんな見当違いを起こしてしまうほど、悠灯は追い詰められていたのだ。
「はじめは千尋を感じられて幸せでした。悪夢でも、千尋がそばにいることを感じられましたから」
でも、本当はそんなことを味わう資格なかったんですよね。と悠灯は続けてそういった。
まるで自分自身をあざ笑うように言うその様子に、夜尋は見ていられなくなった。
「都築さん言ってましたよね、千尋の苦しみが蘇ってしまったと。そこで改めて気づきました。やっぱり俺は千尋の災厄でしかないって」
こちらを見る悠灯の顔は苦痛に歪められていた。
泣きだしそうな顔で見つめる瞳が潤んでいく。
どうして彼の苦痛に気づかなかったのだろう。
こんなに、苦しく悲しい瞳をしていたのに。
「だから、俺は自分で自分を罰することにしました。だからここで逝きます。千尋が辿りつけないところへ。でも、せめて千尋と同じところで死ぬことだけは、許してくれませんか?」
ただ、それだけが願いなのだと、悠灯は訴えた。
こんな悲しみを夜尋は知らない。
きっと兄が死んだあの時だって、こんな悲しみじゃなかった。
兄は彼を止めたかったのだ。
だから、1か月前悠灯を止めるために、ここで恐ろしいものを見せたのだろう。
ただ、その思いが強すぎて、夢にまで影響してしまったのかもしれない。
兄にとって悠灯はそこまで大事な人なのだろう。
一番好きな人が自分のせいで死を選ぶことがどれ程辛い事なのか、夜尋にはわからない。
けれどこの二人を見ていると、互いが互いを思い、傷つき、間違ったほうへ進んでしまっているようにしか見えなかった。
悠灯は何かを持ったまま、胸のあたりまで手を持ってきた。
それが何か、夜尋のいる位置では小さくて何なのかよくわからなかった。
しかし、あの持ち方に見覚えがある。
(まさか!)
悠灯が今何をしようとしているのか直感で理解し、走り出す。
彼が点ける前に、彼の腕を掴むと指が動かないよう掴む手に力を込めた。
やはり。
悠灯が持っていたのはライターだった。
「は、離して!」
「やめてください、こんなこと!誰も、こんなこと望んでいません」
「何言ってるんですか。昨日都築さん、言ってたじゃないですか!死んでしまえばいいって」
「それは―――」
何も知らなかったとはいえ、彼にひどい言葉をぶつけてしまったことに変わりはない。
あの行為のせいで、悠灯はまた死を選ぼうとしてしまっているのだ。
ならばこれは、夜尋が止めるべきなのだ。
「すみませんでした。俺、知らなかったんです。あなたと兄が恋人同士だったこと」
瞬間、悠灯から力が抜けた。咄嗟にライターを奪い、彼の手が届かないよう後ろに投げた。
酷いショックを受けたように、悠灯は目を見開いて驚いていた。
「どうして、そのことを……」
「兄、真尋兄さんから聞いたんです」
「兄が死んだのはあなたのせいじゃないです。どうしてそんなに自分を責めるんですか」
「違うんです。俺のせいなんです。もっと俺が早く来ていれば、千尋はきっと彼らに関わることなんて無かった。俺が早く謝っておけば……」
途中で泣き出す悠灯の姿が痛々しかった。
手で顔を覆い、嗚咽を漏らす。
兄を思って小さくなって泣く姿に、今までずっと抱えて誰にも寄り掛かれなかった彼の苦しみがひしひしと伝わってくる。
そっと肩に手を添える。
夜尋にはそうすることしかできないのがもどかしかった。
「あなたを止めて欲しいと、兄に頼まれたんです」
優しく告げる夜尋の言葉に、悠灯はパッと顔を上げた。
「千尋が…?」
「はい」
「兄は今日あなたが死のうとしていることに気づいて、俺にここにくるように言いました。恐らく、1カ月前のことも、兄はあなたをただ止めたかったんです」
一番大切な人だから。
その人が苦しい思いをしてほしくなかったのだ。
自分がその苦しみを知っているのなら、なおさら。
「兄はあなたを恨んでなんかいません。もちろん、あなたのせいだとも思っていない。兄はまだ、あなたの事が好きなままなんです」
悠灯の瞳に溜まった雫が頬を伝って地面に落ちる。
ぽろぽろと、とめどなく流れる雫は、きっといままでため込んできた苦しみや悲しみなのだろう。
「千尋、会いたいよっ。千尋…。千尋ぉ……」
ただ、大切な人ともう一度だけ会いたかっただけだった。
でも、それは叶わないから、せめて同じ場所で眠りたかった。たとえ行き先が同じじゃなくても。
悲痛に訴える悠灯の姿に夜尋はどうしても、その切実な願いを叶えてあげたかった。
(できるかどうかわからない。でも……)
あわせてあげたい。
ただ悲しみだけを抱えたこの人と兄を。
何を燃やそうとしたのか、はっきり言わなかった。
ただ、それが何なのかはもうわかっていた。
「でも、火をつけようとした瞬間、あの声が聞こえたんです。それがすごく怖くて、逃げてしましました」
俯き、ただただ静かに告げる悠灯の中に苦しみが宿っていることに今更ながら気づく。
しかし夜尋には、それが愚行だと告げることができなかった。
そんな見当違いを起こしてしまうほど、悠灯は追い詰められていたのだ。
「はじめは千尋を感じられて幸せでした。悪夢でも、千尋がそばにいることを感じられましたから」
でも、本当はそんなことを味わう資格なかったんですよね。と悠灯は続けてそういった。
まるで自分自身をあざ笑うように言うその様子に、夜尋は見ていられなくなった。
「都築さん言ってましたよね、千尋の苦しみが蘇ってしまったと。そこで改めて気づきました。やっぱり俺は千尋の災厄でしかないって」
こちらを見る悠灯の顔は苦痛に歪められていた。
泣きだしそうな顔で見つめる瞳が潤んでいく。
どうして彼の苦痛に気づかなかったのだろう。
こんなに、苦しく悲しい瞳をしていたのに。
「だから、俺は自分で自分を罰することにしました。だからここで逝きます。千尋が辿りつけないところへ。でも、せめて千尋と同じところで死ぬことだけは、許してくれませんか?」
ただ、それだけが願いなのだと、悠灯は訴えた。
こんな悲しみを夜尋は知らない。
きっと兄が死んだあの時だって、こんな悲しみじゃなかった。
兄は彼を止めたかったのだ。
だから、1か月前悠灯を止めるために、ここで恐ろしいものを見せたのだろう。
ただ、その思いが強すぎて、夢にまで影響してしまったのかもしれない。
兄にとって悠灯はそこまで大事な人なのだろう。
一番好きな人が自分のせいで死を選ぶことがどれ程辛い事なのか、夜尋にはわからない。
けれどこの二人を見ていると、互いが互いを思い、傷つき、間違ったほうへ進んでしまっているようにしか見えなかった。
悠灯は何かを持ったまま、胸のあたりまで手を持ってきた。
それが何か、夜尋のいる位置では小さくて何なのかよくわからなかった。
しかし、あの持ち方に見覚えがある。
(まさか!)
悠灯が今何をしようとしているのか直感で理解し、走り出す。
彼が点ける前に、彼の腕を掴むと指が動かないよう掴む手に力を込めた。
やはり。
悠灯が持っていたのはライターだった。
「は、離して!」
「やめてください、こんなこと!誰も、こんなこと望んでいません」
「何言ってるんですか。昨日都築さん、言ってたじゃないですか!死んでしまえばいいって」
「それは―――」
何も知らなかったとはいえ、彼にひどい言葉をぶつけてしまったことに変わりはない。
あの行為のせいで、悠灯はまた死を選ぼうとしてしまっているのだ。
ならばこれは、夜尋が止めるべきなのだ。
「すみませんでした。俺、知らなかったんです。あなたと兄が恋人同士だったこと」
瞬間、悠灯から力が抜けた。咄嗟にライターを奪い、彼の手が届かないよう後ろに投げた。
酷いショックを受けたように、悠灯は目を見開いて驚いていた。
「どうして、そのことを……」
「兄、真尋兄さんから聞いたんです」
「兄が死んだのはあなたのせいじゃないです。どうしてそんなに自分を責めるんですか」
「違うんです。俺のせいなんです。もっと俺が早く来ていれば、千尋はきっと彼らに関わることなんて無かった。俺が早く謝っておけば……」
途中で泣き出す悠灯の姿が痛々しかった。
手で顔を覆い、嗚咽を漏らす。
兄を思って小さくなって泣く姿に、今までずっと抱えて誰にも寄り掛かれなかった彼の苦しみがひしひしと伝わってくる。
そっと肩に手を添える。
夜尋にはそうすることしかできないのがもどかしかった。
「あなたを止めて欲しいと、兄に頼まれたんです」
優しく告げる夜尋の言葉に、悠灯はパッと顔を上げた。
「千尋が…?」
「はい」
「兄は今日あなたが死のうとしていることに気づいて、俺にここにくるように言いました。恐らく、1カ月前のことも、兄はあなたをただ止めたかったんです」
一番大切な人だから。
その人が苦しい思いをしてほしくなかったのだ。
自分がその苦しみを知っているのなら、なおさら。
「兄はあなたを恨んでなんかいません。もちろん、あなたのせいだとも思っていない。兄はまだ、あなたの事が好きなままなんです」
悠灯の瞳に溜まった雫が頬を伝って地面に落ちる。
ぽろぽろと、とめどなく流れる雫は、きっといままでため込んできた苦しみや悲しみなのだろう。
「千尋、会いたいよっ。千尋…。千尋ぉ……」
ただ、大切な人ともう一度だけ会いたかっただけだった。
でも、それは叶わないから、せめて同じ場所で眠りたかった。たとえ行き先が同じじゃなくても。
悲痛に訴える悠灯の姿に夜尋はどうしても、その切実な願いを叶えてあげたかった。
(できるかどうかわからない。でも……)
あわせてあげたい。
ただ悲しみだけを抱えたこの人と兄を。
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