いつか灰になるまで

CazuSa

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愛しき思い出4

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それから色々なことがあった。
徐々に恋人らしい関係になっていくのを悠灯は最初戸惑っていたが、嬉しくも感じていた。

途中、千尋の兄である真尋に関係がばれたときは寿命が縮むかとも思ったが、寛容な心で受け入れてもらえたことは嬉しかった。
しかし、そんな幸せな日々も束の間、受験シーズンが近づきすぐに千尋は忙しくなった。

元々バイトで忙しい悠灯との時間は授業の合間の休み時間が主だったのが、それも勉強で割くことが多くなり、千尋が勉強している横で黙って彼を見つめるようなことが多くなった。

それでも悠灯にとってはそんな時間も愛おしく、幸せだった。

そんな日々も一段落ついた、2月の終わりのこと。
受験も終わり、千尋が志望大学に合格したと聞いた矢先だった。

千尋から、両親に悠灯との関係を打ち明けたと告げられた。

この間、悠灯が千尋の家を訪ねたとき、千尋にせがまれ渋々帰り際にキスをした。
その場面を千尋の母が目撃していたのだ。
外だからやめようという悠灯の忠告も聞かずにあんなことするからだと悠灯は怒った。

「大丈夫だよ悠灯。両親がわかってくれなくても俺は平気だから」

「そんな問題じゃないだろ!こんな関係いつまで続くわけじゃないんだから!」

「……それってどういうことだよ」

(しまった!)

気づいたときには口にしていた。
悠灯のこの気持ちを千尋に告げたことはない。
こんな不安な気持ちを打ち明けるのは千尋を信じていないと思われるようで怖かったのだ。

それが最悪の形でばれた。
千尋の言葉の節には怒りのようなものを感じた。
悠灯は千尋の顔を見ることができず、一方的に別れを告げると逃げるようにその場を後にした。

後ろで名前を叫ぶように呼ぶ千尋の声を無視して。


それから数日、千尋からの連絡を無視し続けた。
最初は電話だったものが、出てくれないとわかるとメールに変わった。

最初は怒っていたような文面も、いつの間にか謝るような内容に変わっており、後悔が押し寄せる。

(千尋が悪いんじゃい。千尋は悪くないのに……)

ずっと支えてくれた。辛いとき傍にいてくれたのは千尋だけだった。
いつの間にこんなに大事になってしまったのだろう。

きっと離れ離れになったら、千尋にはもっと大事な人ができるだろう。
だから、今だけ。今だけは自分を一番に思ってほしい。

そんな本心を告げる覚悟を決めたのは、千尋と喧嘩してから5日ほど経ってからだった。
何とか携帯の通話ボタンを押す。

3コールほど待ってから、通話の繋がる音がした。

「…もしもし」

『久しぶりだね、悠灯』

「うん、ごめん。ずっと無視してて」

『いいよ、もう怒ってないから』

淡々と話す千尋の声が少し冷たく感じる。

「こないだのこと、直接会って話したい……」

用件を告げるのが精一杯だった。
少しの沈黙の後、千尋は決心したように告げた。

『悠灯、俺、明後日ここを離れる』

「え?」

思いもしない事実に悠灯は固まった。
そんな、そんなことって…。

『本当はあの日に話したかったんだけど』

もう少し先かと思っていた別れが、いつの間にこんなに近くにいたのかと嘆息した。
それを知っていたならば、もっと早く謝りたかったのに。
残された短い時間だけでも一緒にいたかったのに。

しかし、それを遮ったのは自分だ。
時間がないのならばせめて、最後に千尋に自分の想いだけでも告げたい。

「明日、俺バイト入ってるんだけど、そのあと会える?」

『うん、たぶん大丈夫。何時?』

「えっと……。夜の7時過ぎるけどいい?」

『分かった。じゃあ近くの公園で待ってる』

電話を切った後、悠灯は携帯を見つめながらため息をついた。

(まだ、まだ泣きたくない…)

涙が零れそうになるのを必死に抑え込みながら、明日が来るのを待った。

次の日、悠灯はそわそわしながら時間が来るのを待った。
そして、もうすぐバイトが終わる時間の間際、トラブルが発生しその対応に追われていると、約束の場所についたのは1時間も遅くなってからだった。

駆け足で公園に向かった。
いつも待っていた鉄棒近くのベンチに付いたが、千尋の姿はなかった。

「千尋?」

遅れると連絡したときは、了承していたはずなのに。

(なにか急用でもできたのかな)

そう思いメールしてみたが千尋から返事はなかった。
それから、2時間、3時間経っても千尋は現れなかった。


それから3日後。
なんどもメールし、電話も掛けたが一切繋がらないことに不審に思っていた。

もしかしたら、本当はあの場所に端から来る気はなく、ただ悠灯の態度に怒って騙しただけなのかもしれない。
そう思うようになってきた頃だった。

学校の緊急連絡メールで千尋が殺されたと連絡がきた。
はじめ、その文字を見たとき、悠灯はただの悪戯のチェーンメールでも回ってきたのかと思った。

しかし、その日の夕方のニュースで千尋の事件が流れた時、それが本当のことなのだと思い知った。
信じられなかった。
まだ、遠い地で新しい生活に右往左往している千尋が必ずいるのだと、そう思えてならなかった。

その後のワイドショーで、事件の詳細がわかると大きく話題になった。

少年たちは常日頃からホームレス狩りなどという物騒なことに興じて楽しんでいたらしい。
その現場にたまたま居合わせた彼は、どうしても彼らの行為が許せず、やめるよう注意したそうだ。
逆上した少年らは持っていた鉄パイプなどで彼を殴り気絶させた。
死んだと勘違いした少年たちは車で布施山に運び込むと、証拠を隠滅させるため、途中で購入した灯油を彼にかけると持っていたライターで燃やしたのだそうだ。

『火をつけた瞬間、アイツ目を覚まして暴れ出してさ。叫び声とかそういうのが変に面白くて、仲間と一緒に笑っちまったよ』

ネットの掲示板にそんな言葉が載っていたことが取り上げられていた。
その言葉が嘘か本当かなんて世間はどうでもいいのだろう。

凶悪な少年犯人グループとそれに立ち向かった勇敢な男子高校生。
そういうイメージを持たせれば持たせるほど話題になるはずだから。

そんな風に世間で取り上げられても、悠灯は全く関心が湧かなかった。

結局犯人たちの詳細は未成年ということもあり、18歳前後の高校生ら5人組、ということしかわからなかった。
そのことにもどかしさを感じた。

怒る気力もわかなかった。

結局千尋の葬式には行けなかった。

あの日、時間通りにあの場所に行っていれば千尋は巻き込まれなかったかもしれない。
そう思ったら、どうしても葬式に出る資格が自分にあるとは思えなかった。

千尋の葬式の日、家で大人しくしていることもできず、気づけば事件現場についていた。
進入禁止のテープが先をふさぎ、千尋が最後にいた場所には近づけなかったが、その場で手を合わせた。

それでも、まだ千尋が死んでしまったと実感できなかった。

それから、すぐ4月になり新生活が始まると仕事が忙しく、千尋を思い出すこともなくなった。
そうして気づけば4年の月日が流れていこうとしていた。

父も定職に就くことができ、母も回復した。
高校生の時よりずっと、生活は安定してきていた。

しかし、あの日、千尋が死んでしまってからずっと自分の心がどこにいるのかわからない。
両親や会社で笑っていても、ふとした瞬間に千尋を思い出した。
楽しいと、嬉しいと思うときはいつも千尋を思い出す。そして、とてつもなく彼に会いたくなる。

そんなとき、テレビの番組で心霊特集をやっているのを見かけた。
そこで、とある霊能者が言っていた言葉に悠灯はハッとさせられた。

『殺された霊っていうのは、その事件現場にいることが多いんです。そして、そういう霊ってのは恨みとかが強いんですよ。
そういう霊は見えやすいです。だから、普段見えない人でも、波長が合うと見えるかもしれないですね』

そうしていつからか、千尋に会いたくなるとあの事件現場に足を運ぶようになっていた。
霊なんて一度も見たことがなかったが、もしかしたら会えるかもしれないと淡い期待を持って。

それを4年続けていたが、一度だって千尋に会うことはなかった。

(やっぱり俺とは会いたくないのかな…)

それでもこの行為をやめることは出来なかった。

そんなある日、事件の場所に訪れていると同じように誰かがこちらに登ってきているのが見えた。
相手は悠灯の近くで立ち止まるとこちらに見向きもせず、鬱蒼とした木々の方を見渡している。

冷たい印象の顔立ちに、黒髪がよく似合っている。
眼鏡をしているが、容姿端麗なのがすぐわかるような美少年だった。

どこかで見覚えのある顔だと思った。

(もしかして、真尋さん?)

いや、そんなはずはない。第一彼は大きく見積もっても大学生程度にしか見えない。真尋はもっと年上なはずだ。
よく見ると虚ろな瞳をしており、どこか寂し気なその雰囲気に目を離せずにいた。
彼はその視線には全く気付いていないのか、そっと目を閉じた。

「千尋兄さん……」

僅かにそう切なく呟く声が聞こえた。
悠灯の背中に恐ろしいほどの悪寒が走る。

そうか、自分がしたことはこういうことなのだ。
おそらく彼は、千尋の弟なのだろう。

そして、彼もまた悠灯と同じようにあの事件に囚われてしまっている。

千尋に会いたくて仕方ない時の切なさは痛いほど知っている。
こんな苦しみを、自分のせいで他の人に味わわせてしまっていることがなにより恐ろしかった。

でもきっと誰も悠灯を責めたりしない。
そんなのは今までの経験で十分わかっていた。
恐らく同じようなことを相談されれば、悠灯だってその人を慰めさえすれ責めることなど考えもしないだろう。

だから、自分で下さないと。
悠灯が原因で誰も罰を下さないなら、自分で下すしかないのだ。

なぜこんな簡単なことに今まで気づかなかったのだろう。

(待っていて千尋)

きっとあの事件の時の苦しみと一緒に俺が地獄に持って行ってあげる。
たとえそこに千尋がいなくても。

きっとそうすれば千尋に会えるという淡い期待もなくなるはずだと信じて。
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